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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会
323/535

319:正体

 八人のハンスケはそれぞれが刃を投げる。直線的であったり、弧を描いたり、一人が放った刃を他のハンスケが受け取り、向きを変えてもう一度向かってきたリ。様々で、目まぐるしい。

 セラは軽やかな足運びでそれらを躱すが、開始早々から躱すのが精一杯の手数だった。

 分化には必ず本体がいる。そのうえで本体を探り、攻めようという考えが彼女にはあったが、それ以前の問題だった。どのハンスケにも近付くことが出来ない。

 ナパードを使うべきか。

 セラがついにナパードを使おうと決心した時。ちょうど左脚を踏ん張った時だ。

「うっ……」

 左ももの傷が痛み、体勢を崩す。ナパードで跳ぶ隙も無く、彼女の身体を鋭利な輪が襲う。

 肩が裂かれた。「……ぅぐぁ」

 また強烈な痛みだった。痛みで体が縮こまる。そこへ二の刃、三の刃とハンスケの放つ輪っかが続く。

 痛みだけが彼女の感覚を支配する。どこが斬られたかなど、分からないほど至る所に攻撃を受けている。

 顔と頭だけは守るようにと腕で覆った。痛みで細くなった瞳には徐々に赤く染まっていく腕が映る。その腕と腕の間にはハンスケが一人見える。横目には左右にそれぞれ一人ずつ。彼女はただただ三人のハンスケを見ることしかできなかった。

 長いこと痛みに耐える。

 三人の彼は、口角を上げている。恐らく他の五人もそうなのだろうと、痛みの中セラは思う。この長いこととどめを刺さずに続く攻撃を、彼は楽しんでいる。全て強烈な痛みではあるが、致命傷になっていない。彼はわざと浅く彼女を傷つけ、痛みに苦しむ彼女を楽しんでいるようだった。

 まだまだ攻撃は止まらない。

 しかし、不思議と時間が進むにつれ、痛みこそ感じれどその強烈さは和らいできていた。そこで彼女は閃く。

 これまでの異常な痛みの正体に。

 一人呟く。「薬効だったのか……」

 新薬の効能は感覚の向上。セラ自身の超感覚に上乗せする形で、さらなる感覚の延長をもたらすものだ。それにより感度を増した触覚が、痛みを増大させていたのだ。

 普段の超感覚でも触覚は延長され、空気の動きを感じることが出来る。だが今回のように激しく痛みを感じなかったのは、無意識のうちに感覚を抑えていたのだろう。意識的に聴覚を上げることが出来るように、反対の抑えるという行為も出来るのだ。

 だが今回の新薬は、その無意識の抑制すらも超える効果を発揮していた。

 セラはそう結論付けた。

 そして弱まったものの、まだ効能が切れたわけではない。感覚は普段以上に研ぎ澄まされている。痛みが和らぎだし、効果が終わるまでの間。その時間で分化の本体を探ろうとセラは考えていた。

 勝負としては分化の本体を見つけ、ナパードで背後を取ろうという算段を立てる。だが、彼女はこの戦いを、分化という技術を見極めるいい機会だと受け止めていた。

 エァンダがいつか教えてくれると言っていたが、すでにただ教わるだけという立場に自分がいないということは分かっていた。自身で研究するのだ。そしていずれは、ズィードのような幼い戦士に教えを授ける場面も出てくるだろうと。

 それにエァンダの場合、帰還云々以前に性格的に実際に教わることが出来るのか、あてにならない部分があるだろう。そういった思いも彼女にはあった。

 感覚に生まれた余剰で、彼女は敵を観察しはじめる。

 とにもかくにも、まずは本体と分化体の違いを見極めることからはじめるべきだろう。

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