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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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312:手始めに

「えっと、何から訊いていいか……」

 突然舞い込んだ敵を知るための好機。しかしいざとなると何を訊いたらいいのか、まとまっていなかったのだと彼女は知る。

「確かにそうなるのも無理はないか。とりあえず、『夜霧』に関わっているとか関係なく、何か訊いてみて。どんどん流れができてくるよ、会話にも思考にもね」

「わかった。じゃあ、とりあえず……フィアルムの人は人も探せるよね?」

「もちろん。さっきの質問の続きか。それもいい。で?」

「トラセスの民って探せる?」

「トラセスの民? 聞いたことないな」

「あ、そっか。これ伯父さんの造語だった。えっと、ナパスの民みたいに昔からいる一族で、空間を操る能力を持ってるらしいんだけど……ごめん、わたしもそんなに知らなくて」

「情報が少ないと、意地でも探してやろうとは思うけど。なかなか難しいし、時間もかかる。ここにいる以上は、それは無理だな」

 コクスーリャが初めて暗い顔を見せた。それでも爽やかさは失われていない。

「じゃあ、『異空の悪魔』。知ってる?」

「ああ、それなら分かる、蒼白大戦争の。兄弟子を救うのか? にしては今のトラセスの民からは突拍子もない飛躍だと思うが」

「ううん、そうでもないの。エァンダはそのトラセスの民と繋がってるから」

「なるほどな。でも俺が探すまでもないだろ。あんなに痕跡残してる奴。悪いけど、それが依頼だとしたら俺は断る」

「え……」

「俺も商売としてやってる。慈善事業じゃないんだ、探偵は。仕事は選ぶ」

「そ、そっか」

「がっかりしたか?」

「少し」

「きつく突き放して悪い。薬が効いてるから、気遣った言い回しが出来なくて」

「うん。でも嘘じゃないなら仕方ないね」

「さ、流れが切れる前に次の質問だ」

 コクスーリャは手を叩き、爽やかな笑みを見せた。セラも気を取り直し、頭に浮かんだことを訊く。ゼィロスに関わること訊いた聞いた後だからか、次いで出てきたのはケン・セイに関わる質問だった。

「『夜霧』はどうして、闘気を使えるの? 今では評議会で広まってるけど、元々はケン・セイと師匠だけの技術だった。ケン・セイは拳闘使いのあなたが怪しいと思ってる」セラはわずかに間を置いた。思考を巡らせたのだ。「けど、今あなたのことを知って、わたしはあなたが『夜霧』に闘気を持ち込んだんだと思うんだけど、これは間違い?」

「いいね。訊くだけじゃなく、自分でも考えてる」

 笑みを湛え、安楽椅子を一往復させるラスドール。そして頷く。

「君の言う通り、闘気の技術は俺が持ち込んだ。俺はフィアルムでも武闘派の探偵として通ってたんだけども、『夜霧』に入るにあたり、それまで以上に戦いの技術を身に付けなきゃいけなくてね。初めは『闘技の師範』であるケン・セイのところを行ったんだけどね。彼は刀も使うだろ? まあ、それでもよかったんだけど、彼を調べるうちに彼に師匠がいたことを知った。確かヒィズルに行って二日目だったかな。それで、どうせならと思ってその師匠を探した。隠居してたけど、すぐ見つかったよ。かつて放浪の空手家として各地の強者たちを巡っていたシオウ・ヴォナプス。彼は隠居こそしていたけど、鍛錬を続けていてね。数日観察して、その技術を盗んだ」

「数日って、ほんと?」

「嘘は言えないだろ。でも、ちゃんとしたものじゃなかったからね、最後は彼の前に出て実際に味わってみた。最高の観察さ。死ぬかと思ったけど」

 薬で嘘を言えない状況。目の前の男はイソラよりも優れた見学の能力を有している、その事実にセラは驚きを隠せなかった。ホワッグマーラの天才フェズルシィの姿が、セラの頭には浮かんでいた。

「驚くのも無理はないけど、フィアルム人は超学習民族だからね。これくらい当然にやってのけるよ。情報を瞬時に覚えることの応用で」

「そう、なんだ」セラは呆気にとられるばかりだ。「調査能力が長けてるだけじゃないんだね」

「そういうこと。にしても、悪いことをしたな」

「え?」

「シオウとケン・セイだけの技術だったって君は言っただろ? あれだけ戦いの基本になるような技術が広まってないことが不思議だったんだ。二人の間に何かあるんだろ? 俺も『夜霧』で信頼を得るために技術を提供したけど……他人の技術だと思って考えが甘かった。フィアルムの技術だったら何があっても明かさないのに」

 その顔からは爽やかさが消え、申し訳なさそうだ。見ているセラにも後悔の念が伝わってくる。

「事情を話せば二人とも分かってくれるんじゃないかな?」

「どうだろうね。あの師弟はなかなか頑固だから」

 顎に手を当て、苦い顔を見せるコクスーリャにセラも苦笑するのだった。

「ははっ……」

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