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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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309:下された判断

 セラは足の縄を解かれ、一人の行司と共に集会所の隅に追いやられた。部屋の中央では、戦士と彼女を見張る行司を除いた行司全員で車座になり、会議を行なっているようだった。

 持て余した時間、彼女は任務について考える。何もかもが想定の外にあった。

 密かに探るはずだったコクスーリャには、正体を見破られた。しかし、彼は『夜霧』へと潜入していて、評議会への情報提供も考えているという。その真意を確かめるために、俵の階段を昇っていた。

 それもここで終わりか。

 フェリ・グラデムの住人に、女だということが露わになった。このまま番狂わせを起こす儀式が執り行われるのだろうか。何も掴めぬまま、任務は終わりを迎えてしまうのだろうか。

 ゼィロスには無闇に番狂わせは起こすなと言われている。そもそも、起こすにしても情報収集が終わった後のはずだった。

「セラフィ・ヴィザ・ジルェアル。来い」

 自分が何も達成できなかったことに、一人顔を落としていた彼女に声が掛かった。野太い声。シメナワだ。

 顔を上げたセラは、行司に背を押され、部屋の真ん中に立たされた。行司が彼女から離れると、男たちが壁に添うように座り、彼女を囲んだ。

 セラはまっすぐ前、鎮座するシメナワに目を向けた。


「しかし、お主をヨコズナ様の前に出したくはない」

 フェリ・グラデムに女性が入り込んだ時に、ヨコズナ神の前に差し出し、儀式を行うというしきたりの説明をセラは受けた。彼女にとっては、すでに知り得ていることだった。

 その説明を終え、シメナワが口にしたのが今の言葉だった。

 彼らは番狂わせについては言及しなかったが、シメナワの言葉は番狂わせを警戒してのものだとセラには分かった。恐らく最上階層に住まう彼らには、過去一度だけ起こった番狂わせについて、受け継がれているに違いない。

 そもそも過去の強者たちは、番狂わせを二度と起こさせないように、女人禁制のしきたりを作ったのだ。それが現代まで受け継がれ、彼らは番狂わせを起こしたくないのだと考える方が自然だろう。

 これはもしや、儀式は行われないのではと彼女は考え始める。そして、番狂わせのことを知っていながらも、彼女は訊く。

「どうして? しきたりなんでしょ」

「理由は話せぬ。第一層より門外不出だ」

「じゃあ、わたしは黙って出て行けばいいの?」

 番狂わせは起こさないに越したことはない。任務は失敗という結果になるが、この場を去ることが許されるのならば、それが現時点で彼女が取れる最善手だろう。

 だが、野太い声は短く否定した。「違う」

「このままいていいの?」

 セラは訝る。それならそれで、コクスーリャと話す機会が得られるかもしれない。

「無論、そんなことが許されるはずはない」シメナワは彼女の見張りをしていた行司に目も向けた。「縄を解いてやれ」

「?」セラの手首からも縄が外れる。「どういうこと?」

 言動が噛み合っていない。帰したいのか、帰したくないのか。セラは手首を擦りながら、眉根を寄せる。

「男を装ってまで力試しがしたかったのだろう? 願いを叶えてやる。おいたちと神前試合の場を設けてやる」

「神前試合……?」

 コクスーリャが神妙な面持ちで言った。「ヨコズナ神の前で俺たちと君が戦うってこと」

「え、待って。だって今、わたしをヨコズナ神の前に出したくないって。矛盾してない?」

「左様」シメナワだ。「故に、男の姿で行う。そこでお主がおいたち第一階層の戦人(いくさびと)全員に勝てば、不問とする」

「一人にでも負けたら?」

「ぬっははははは」

 シメナワが突然笑い出した。それに他の戦士たちも、個の大小の差こそあれど続いた。唯一、コクスーリャだけが笑わずにセラを見つめていた。

「おいたちに勝てると思うておるぞ、この女。ぬはははははっ」

 すっとシメナワから笑みが消えた。男たちの笑い声もぴたりと止み、皆が威圧的な無表情でセラを見た。コクスーリャだけが、わずかに俯き、目を閉じていた。

「負けは死。ヨコズナ様が望むは命の奪い合い。それがしきたりだ」

 シメナワのその言葉を最後に男たちは立ち上がり、集会所をあとにしだす。

「死んでしまえば、儀式はなし」

「安泰だな」

「『碧き舞い花』、浮かれた名よ」

「たしかチミのいる組織の敵だったよね、よかったじゃん」

「ああ」

 コクスーリャの小さな返事を最後に、セラは行司たちに取り囲まれた。視界の多くが紫に埋まる。

「日取りは追って伝える」真ん丸の眉の行司が彼女の正面に立ち、言った。「それまで上で余生を過ごされよ」

 にんまりと上がった口角。メルディンの張り付いた笑みが、微笑みに思えたセラだった。

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