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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第一章 碧き舞い花
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29:間抜け

「あなたたちの目的はなんですか?」意外にもヒュエリは力強い表情でギュマに向かって訊いた。「『幻想の狩り場』の技術ならすべて合点がいきます」

「あんたが狩り場を知ってようが、俺たちの目的を話すわけないだろうがよ」

 ギュマの返答はもっともだった。

「ギュマさん、こいつらどうすんすか?」頭巾のダズは二人を顎で指しながらギュマに訊く。

「二人ともいい女だぜ、殺すにしても売るにしても、先に楽しもうぜ」ヒュガは頬の傷を歪ませながら下卑た笑みを浮かべる。

「あー、まーそうだな」

 ギュマは武器を始め荷物を取り上げた、ロープに縛られ黒い霧に囲まれているセラとヒュエリをじっと見て考える。その顔はランプの灯りに照らされて不気味に影を作り出していた。

「計画が終わったら決めよう」

「っでぇーっ! 焦らすなよ、ギュマさん。ささっと楽しもうぜ!」

「ヒュガ。計画が果たせればこの二人だけじゃないぞ、楽しみ放題だ」

「そ、ダズの言う通りだ。決行は明朝だ」ギュマは立ち上がる。そして、黒い霧に視線を向ける。「今夜はゆっくり休んでおけよ」

 ギュマの言葉に黒い霧が引いていく。そして、さっきまで黒い霧があった場所にはボロ衣を纏い剣を帯びた大勢の男たちが現れた。

「おぉおおおっ!!」

 男たちの雄叫びは洞穴中に響いた。その雄叫びの中、ヒュエリは口角を上げてセラに囁く。「セラちゃん。実は瞬間移動は出来ませんが、マカは使えるんですけど」

「ぇ!?」小さく驚くセラ。

 ヒュエリが強気だったのはこれが理由だったのだ。なんと、黒い霧を率いた三人組は二人がマカを使えないよう封じることはしていなかったのだ。間抜けなことで済む話だが、一応彼らが後に拘置所で語った言い訳を書いておこう。二人の来訪は想定外でマカを封じる魔具などを持っていなかった、セラが剣を背負っていてためにそれを取り上げて安心しきってしまった、ヒュエリが小さかったためマカを使えるような大人だと思わなかった、などなど挙げればきりがない無様な言い訳だらけだった。

「どうします?」

 ヒュエリの問いかけにセラは悪戯っぽく口角を上げた。

 それが、反撃の合図となった。

 マカが使えると分かった二人。今となっては雄叫びを上げる男たちは滑稽にしか映らなかった。そして、その後の顔も。

 二人が放った衝撃波のマカはロープを破り切り、空間を少し歪ませた後に二人を囲むようにして雄叫びを上げていた男たちを吹き飛ばした。男たちは何が起こったかわからずに、それはもう可笑しな可笑しな変顔を披露した。

「どわぁああ!!!」

「なんだ!?」

 少し離れたところにいた三人組は衝撃波を受けなかったが、舞った土埃に声を上げた。セラはすかさず取り上げられていたオーウィンを超感覚で土煙の中探し出し、手に取った。

 衝撃波で吹き飛ばされた男たちが立ち上がり、各々腰の剣を抜く。「こんにゃろおおっ!」

 洞穴に甲高い音が響く。

 セラが抜いたオーウィンと飛び掛かってきた男の剣が空間を震わせる。

「おい!、逃がすなよ!」と声を荒らげるヒュガ。

「っち、マカか」と舌を打つダズ。

「あー、今決めた。殺せ」ギュマの迫力のある声が静かに響く。

 だが、ギュマの言葉を聞く前から洞穴の中は戦場になっていた。

 セラは数人相手にナパードや駿馬を使って立ち回り、ヒュエリは様々な輝きを見せるマカで男たちを近づけさせない。

「ぅおぅぉ、なんだこいつら……がぁ!」

 及び腰になった男のナパードで跳んだセラはその背中を斬り裂いた。男は背中から血を吹き出し倒れる。そこで、セラの動きが一瞬だけ止まった。理由の分からない違和感が沸いてきたのだ。

「セラちゃん!」

「!」ヒュエリの声で我に返ったセラは傍らから斬りかかってきた男の一太刀をその腕を押さえて受け止めた。そして、男の腹に蹴りを入れると仰け反った男の腕を切り落とした。

 絶叫する男を余所に、セラはまたも違和感を覚えた。しかし、二度も戦いのことを忘れることはなかった。すぐさま意識を男たちに戻し、近場にいた男に駿馬で近付くや否やその腹を割った。桃色の内臓がランプの光を艶めかしく反射させながら零れ落ち、男はそのまま息絶えて倒れた。

「何やってる! いっぺんに行けっ!」ヒュガの怒鳴り声が響くと男たちがセラを囲んだ。そして、命令通り一斉に飛び掛かってきた。

 セラは衝撃波のマカで片側の敵を弾き飛ばし、反対側をオーウィンで受け止めた。しかし、オーウィンだけは受け止められなかった刃がその柔肌に迫る。まだ、マカを使った戦いに慣れていなかったセラはここで鎧のマカを使うところまで頭が回らなったが、マカよりも慣れている駿馬で退いてそれを躱した。

 セラが退いた先にはヒュエリがいた。彼女は余裕の顔で男たちを弄び倒していた。

「セラちゃん、何か気がかりでもありますか?」

「いえ、大丈夫です」

「そうですか、では、残りも少なくなってきましたし、一気にやっ――」

「そこまでだっ!!」

 ヒュエリが言いかけている途中に洞穴に精悍な声が響いた。そして、地響きとともに大量の警邏隊の紋章を付けた魔闘士たちがなだれ込んできた。

「警邏隊? もうっ! わたしの見せ場になるはずだったのに! タイミング悪いです」

 ヒュエリは闖入者たちからフイッと顔を背けて頬を膨らませた。

「悪かったなヒュエリ司書」大量の警邏隊員の海を割って入ってきたのは警邏隊隊長、ブレグ・マ・ダレその人だった。分厚い生地でできた鎧のような服を着て、その腰には魔闘士には珍しく剣を帯びている。「君の部下から連絡があって来てみたんだが、大勢で来たのは正解だったな」

「ふーんっだ、いつもお散歩ばかりしてるくせに、こういうときだけいいところを持っていかないでください」

「文句があるなら後で聞こうか、司書様?」

「ひっ!……ず、ずびばぜん……」ブレグの威圧的な笑顔を見るや否や、ヒュエリは半べそかいてセラの後ろに隠れた。「どうぞ、お仕事してくだしゃい……」

「よろしい」ヒュエリに対して頷くと、隊長は鋭い顔つきで三人組や男たちに命令する。「動くなよ! 下手に動けば――」

「だぁあああっ!」

 と、そのときヒュガがブレグに迫った。その手は赤々と光り輝いている。

「がぁっ……ぁ!」

「――こうなる」

 ヒュガはセラたちが戦った下っ端の男たちに比べたらマカも使っていたし、動きもよかった。それでも、警邏隊隊長の前では羽虫同然だった。裏拳、というよりただ腕を払っただけ。まさに顔の前を飛ぶ羽虫を払うように振られた腕はヒュガを洞穴の壁まで吹き飛ばした。

 壁に叩き付けられたヒュガはぴくぴくと痙攣するだけだった。

 残ったギュマとダズ、それから男たちからはどよめきの声が上がり、彼らは諦めたように膝をついた。

「賢明な判断だ。捕えろ」

 隊長の命令で警邏隊員はその場で生きているギュマの一味を捕えた。もちろんしっかりとマカを封じる魔具のついた手錠で。

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