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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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299:呼びかけ

「確認していいか?」

 セラは身体をほぐしながら、代表してズィード訊く。彼が「いいよ」と頷いたので続ける。

「ここではどうやったら免状貰える?」

「みんなが強いって認めればいいんだって。十人以上、だっけ?」

 彼はソクァムを振り返る。

「ああ。そう訊いてる。俺たちはもう十分なんだけどな」

 まだ疑心をもっているのだろう、少々棘のある声色だった。セラは気にしないことにした。

「そっか、ありがと。じゃ、はじめっか」

「いくよ、お兄さん」

 セラが構えると、ズィードは手にしていた剣を構えた。どう見ても真新しい剣だ。

「後悔しないでねっ!」

 勝った気か、笑みを浮かべ大雑把な振り。その連続。セラは躱すことに徹する。ズィードの実力を確かめてみたいという気持ちからだった。

 だが読み取れる気配といい、剣といい、相手との力の差を測れていない言動といい、まだまだ若い戦士。

 セラとして会っていれば手心を加え、数度攻防を転じた後、助言すらしたことだろう。だが、今はセブルスだ。強さを証明し、上へ行くのが目的。

 剣が一向にあたらないことに焦りはじめたズィード。その大きく隙だらけの振りかぶりの間に、セラは懐に入り込み、足を払った。

 宙に浮いたズィードの手から剣が零れ、倒れ込んだ彼へと切っ先を向けるように回転する。

 ソクァムが叫ぶ。「ズィード!」

 周りの男たちも事態を飲み込めるほどは見えているらしく、騒然とした顔で声にならない声をその口々から漏らしていた。

 セラもまさかズィードが剣から手を離すとは思っていなかったが、この程度で焦る彼女ではない。切っ先が主人を捉えるその寸前。セラがその尻尾を掴んだ。

「簡単に手、離すなよ」

 鼻先の自身の剣を見て固まるズィードに、セラは叱りつけるように言った。剣を引き、セラはズィードを起こす。

 膝をつき、柄を向けて返す。「ほら」

「あ、ありがと」

 剣を返された彼は、数度瞬きをした。命が助かったことへの安堵だろう。ついには鼻をすすり、俯いた。

「泣くことないだろ?」とセラは立ち上がる。

 辺りを見ると見物人たちは称賛と驚愕の入り混じった笑みを浮かべていた。もうこの階層に留まる必要はなさそうだ。

「じゃ、俺行くから」セラはズィードに軽く手を振り、周りの男に言った。「誰か、免状貰う証明についてきてくれるか?」

 その彼女の問いに、男たち全員が一斉に返事をした。そして全員が彼女について来ようとする。人だかりは移動し、さっきまでの場所にはズィードとソクァムだけが残った。

 セラは媚びを売るような男たちに囲まれながらも、二人のことを、特にズィードのことを気にして意識を向けた。

「……匂い……あの匂い……でも、あれ?」

「どうした、ズィード?」

 いまだ地面に座ったままのズィードにソクァムが歩み寄ってきて訝しむ。

「この世界って、男しか入れないんだよな」

 ズィードのその声にセラは足を止めた。男たちは数歩前に進むと振り返り、どうしたどうした不思議がる。

「ああ。それは来る前に説明しただろ。何を今さら」

「さっきのお兄さんから、お姉ちゃんの匂いがしたんだ。セラお姉ちゃんの」

「お前の鼻が利くのは知ってる。お前がそういうならそうなんだろう。けどな、さすがに本人ってのはあり得ないだろ。知り合いと考えるべきだ。匂いがつくくらい親しい仲のな」

 ズィードが立ち上がる。立ち止まるセラの背中を強く見つめてきている。

「ああ、だからお前の名前も知ってたんだ。聞いてたんだよ、きっと」

 彼がソクァムの考えに納得してくれることを祈る。

 だが、彼女の祈りは通じなかった。彼の口が動きはじめ、セラに向けて声を発しようとしているのを感じる。

 ナパードを使えばあの牙を携えた口をすぐにでも塞ぐことができるだろう。しかしそれでは本末転倒。ならば駿馬。と思いいたるのはすぐだった。

 けれでも、ナパードを使おうかと一瞬考えてしまったことが、遅れを取った。

「ねぇ、セラお姉ちゃんでしょ?」

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