297:関所、免状、段番
「セブルスさん、ここです」
小太りの男に連れられて階段の下まできたセラは、そこにあるこじんまりとした小屋を見る。
「おーい」男は小屋の窓口に向かって声をかけた。「ここにおられるセブルスさんが上行くんだ、免状出してくれ」
「ふぁああ……あん?」
寝癖だらけの男が、窓口から大あくびと共に顔を出した。
「なんだよ、コゼキかよ。どうだ? 勝てたか?」
男は小馬鹿にしたように笑い、小太りの男、コゼキに言った。
「馬鹿にしやがって……。今、この方が上に行くんで免状を出してくれって言っただろうに」
「はいはい、毎度ご苦労なことった」男は頭をガシガシと掻いた。「そろそろ下、落とされんじゃねえか?」
「心配には及ばないぜ。ここに連れて来てねえ外の世界の奴らには勝ってるってことだから」
「上にはあがれないくらいにはってな」
「っ、馬鹿にしやがって……って、今はセブルスさんだ。免状出してくれ」
「あいよ」窓口の男が紙切れを引き出しから取り出し、判を捺した。それをセラに差し出す。「ほら。上行っても頑張りな、兄ちゃん」
「おう、ありがと」
セラは紙切れ、免状を受け取った。すると、窓口の男が思い出したように声を上げた。
「悪いね。これもだ」
男が出してきたのは開閉式のリングだった。セラはそれも受け取る。
「免状束ねだ。持ってないだろ、コゼキの相手ってことは。こいつ、なんも知らねえ外からの挑戦者とばっか戦うんだよ」
「うるせっ、そういう作戦だ」
「なら上にあがれよ」
「うっせ」
「ははっ、頑張れよ、コゼキ」
「はわっ、滅相もねえ、激励なんて。それも名前まで。あ、セブルスさん、免状束ねはこう使うんですよ」
言って、コゼキはセラの手から免状とリングを恭しく取った。リングを開き、その先端を免状にあてがい穴を空けた。
「こうやって、免状を貰うたびに入れてくんです」
リングを閉じ、セラに返すコゼキ。
「ありがと、じゃあ行ってくる」
セラは関所を離れ、階段に一歩足をかけた。そこで振り返る。
「名前、知れてよかった。コゼキ」
「はわっ、また名前を。ありがたやぁ……」
「俺はそんな偉くないって。また会えること願ってるぞ」
「ありがたやぁ、ありがたやぁ……」
拝むコゼキに少々呆れながらも背を向け、セラは階段を昇っていた。
「免状を」
次の階級への最上段一歩手前。セラの前にずっしりとした体型の男が立ちふさがった。まるで壁のようだ。
セラは驚くことも慌てることもせず、バッグから免状束ねを出した。階段の上部で段番が免状を確認するということはコゼキからすでに聞いていた。
「いかにも。通ってよし」
段番が道を開ける。
「この階層ではどうやったら免状を?」
「……」
「聞いてるか?」
「……」
段番は脂肪で細くなった目で遠くを見つめるだけで、口を開こうとはしなかった。セラはしばらくじーっと段番の目を見てから肩をすくめた。
「仕事頑張ってな」
「……」
無反応な男を置いて、セラは階層の中へと歩を進めた。
向かう先は決まっていた。感覚が多くの人が集まる場所を捉えていた。




