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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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299/535

295:出発

「変装はいいな。次は任務内容だ」

「フェリ・グラデムの拠点の内情を潜入して調べる。特に将のコクスーリャ・ベンギャ。探れるなら本拠地まで追跡していいんだよね?」

「ああ、判断は任せる。番狂わせの件もな」

 セラは頷きながらも尋ねる。「それくらい、かな?」

「そうだな。お前にとっては久々の『夜霧』に近付く機会だ。くれぐれも、慎重にな。あ、待て、声はどうにかできないか? 忘れるところだった」

「あ、そっか。大丈夫」と普段の声で言ったかと思うと、次に出た声は女性にしては低いものだった。「物真似の要領で、ね」

「充分だ」

「うわ、すごいです、セラちゃん」ヒュエリが音を立てずに拍手する。「声までかっこいい!」

「声だけ低くても駄目だろ」ズィーだ。「男らしく話せよ」

「分かってるよ。俺は英雄になるんだから、そんくらい楽勝だぜ」

「……っ、俺の真似すんなよ」

「お、似てる似てる。上手いもんだな、セラ。今度酒飲むときもっと見せてよ」

「まあ、考えとく。それよりルピ、扉、頼むぜ」

 フェリ・グラデムまでは彼女の能力で移動することになっている。ナパードで向かっては、作戦が元も子もなくなってしまうからだ。

「任せときな」ルピは首から下がる鍵束から鍵を一本ちぎりとった。「まさかセラに扉を開ける日が来るとはね」

 彼女が中空で鍵を回すと淡く輝く扉が現れ、ゆっくりと開いていく。

「まっすぐ歩いて行けばいいからね」

「ああ」

 返事をして、セラは開いた扉へと向かう。目の前で足を止め振り返る。

「行ってくる」

「成功を祈る」

「伯父さんも。見つけ出せるといいね。祈ってる」

「ああ、そうしてくれ」

 伯父が姪が微笑みを交わし、いざ出発かと思われたその時。申し訳なさそうに司書が声を発した。

「あ、あのぉ、探し物ですか? それならフィアルム人を頼ってみてはどうでしょうか。フィアルムの人は探し物の達人で――」

「ヒュエリ。言葉を返すようで悪いが」

 ゼィロスは呆れ気味に彼女の言葉を遮った。

「フィアルムの民のことならとうに知っている。彼らの調査能力はメィリア・クースス・レガスの外界偵察隠密や、白輝の刃の外界調査諜報兵をも上回るんだ、協力を得られるものなら何としてでも得ている。だが、彼らは異空図に絶対に載ることのない所を住処としているからな、彼らしか探し出せない仕組みだ。もちろん、知ってて言っているんだよな?」

「は、はい、すみません……。わたし……出過ぎた真似でした」

「いや、そこまで縮こまらなくていい。むしろ、意見を言ってくれるのはありがたい。だが、いいか、ヒュエリ。俺も言えるほどではないが、君はまだまだ賢者としては若い部類に入るんだ。確かに知識量は莫大だろう。が、ここには古くから賢者として名を広める者が何人もいる。確かにフェリ・グラデムの番狂わせに関しては、あの場で俺と君しか知らなかったかもしれない。しかし、俺も知っていたということを忘れるな? この場所で君しか知らないなんてことはないと思った方がいい。むしろ、君の知らないことが集まっていると考えるべきだ」

 セラは伯父の言葉にヒュエリはしゅんとなってしまうと思った。だが、司書の反応は彼女の考えとは全く逆だった。

「分かっています! わたしは新しい知識を得るためにここに来たんですから」

 ヒュエリの顔は信念に満ちていた。それを見て、ゼィロスは少々拍子抜けと言わんばかりの顔で、ぎこちなく頷いた。「そうか。分かっているようだな。それならいい。意見や提案があったら、臆せず言ってくれ」

 思えばヒュエリは思念化のマカの研究のために評議会に参加すると決めたのだ。

「何か研究が進むような情報が手に入るといいっすね、ヒュエリさん」

 親指を立てる仕草をヒュエリに向けたセラ。男へのなりきりは順調だった。

「伯父さん。ヒュエリさんは、この前話した予見者がジェルマド・カフに作るように言った思念化のマカを研究してるんだ」

「ほお、そうか。ではまたあとで話を聞くとしよう」

「おーい、ずっと扉開けとくの、意外と疲れんだけどぉ」

「あ、わりぃ、ルピ。じゃ、みんな、俺行くわ」

 片手をひらりと上げ、セラはいつもよりわずかに大股で扉の中へと歩いて行ったのだった。

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