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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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287:議題 スウィン・クレ・メージュ

「よかぁ! よかぁ!」

「緑の、ヌメヌメ……」

 テングの笑い声とヒュエリの繰り返される呟きが止まったのは、薄衣を羽織る男の咳払いがきっかけだった。

『空纏の司祭』ンベリカは入口に近い席から、部屋を切諫した。

「これでは評議にならん! 戯れる場ではないだろう、ここは。ゼィロス殿、この評議が魔導賢者の合流を知らせるだけのものならば、早急に終わらせてもらいたい。我々は誰一人として暇ではないのだ」

「……場を治めてくれて、ありがとう、ンベリカ」ゼィロスは部屋を見回す。「ホワッグマーラへの対応は追って考えよう。今回の評議は魔導賢者の合流と、悪魔の情報への対処で立ち消えていたコクスーリャ・ベンギャの治める拠点への潜入作戦、それからスウィン・クレ・メージュの調査について話し合いたいと思っている」

「スウインク、レマエージュ?」首を傾げるテング。

 そんな彼の隣、呆れていたのか、黙って成行きを見守っていたのか、今までだんまりだった『神降ろしの巫女』ヌォンテェが、その瞳孔のように鋭く、テングに言い放った。

「虹架諸島ぞ、『変態仙人』」

「おお、さいか、さいか。すまぬな、巫女よ」

「して、ズエロスよ。虹架諸島ならわしがとうに調べとるが?」

 疑問を口にしたのはもちろん、カッパだ。

「セラから情報があってな……まずは魔導賢者に挨拶してもらおう。それからだ。みんなもいいな、ブレグ・マ・ダレに関しては」

「仕方なし」

「後でしっかり評議してくださ~いよ」

 ケン・セイとメルディンは渋々ではあったが、納得し、二人して椅子に座り直した。

 それを見て、ゼィロスは再度ヒュエリに挨拶を求め、自身も席に着いた。


 ヒュエリとユフォンが自己紹介を終える頃には評議は真剣な空気を帯びはじめていた。新入り二人が席に着くと、はじめにカッパが疑問を呈した虹架諸島についての話し合いがはじまった。

 ゼィロスがセラから聞いたことを話すと、カッパは申し訳なさそうに笑う。

「いやいやぁ、それはすまなかった。最初の調査からも何度か調べに入ったが……わしの完全な見逃しじゃ、本当に申し訳ない」

 頭を深々と下げるカッパ。そして少しの間を置いて上がった顔には真剣な一つ目があった。

「わしの落ち度……責任を持って、且つ、慎重に調査に入る」

 ゼィロスは頷く。「そうしてくれ。だが、これはカッパを信頼していないというわけではないのだが、今回の調査には他の者にも参加してもらいたいと考えている」

「……そこまでは及ばないぞ、ズェロスよ」カッパは目をわずかに見開いた。「奴らを捉えられなかったことは認めるが、これまでも一人であったろう。それにセラに情報をもたらした竜人は評議会に協力的なのだろう? それ故に出向くようにと提言したのじゃろ?」

 カッパはセラに同意を求めた。彼女は黙って頷く。

 次いで口を開いたのはゼィロスだ。

「確かにそうだが。彼らは長い間従うことで世界を守っていたんだぞ。いくら協力的とはいえ、『夜霧』の支配から脱したわけではない。二人が虹架諸島に姿を現したと、彼らが奴らに話していると考えた方がいいだろう。それを受け、厳戒態勢とまで言わずとも、部隊長ほどの将が滞在しているかもしれん。仮にそうだったとして、待ち受けている強者と戦えるか?」

「……」カッパは沈黙し、瞳を巡らせた。短時間の熟考を終え頷く。「承知した。して、誰を?」

「ケン・セイ、メルディン両名をと、俺は考えている」ゼィロスは二人の賢者を順に見た。「戦力としては申し分ないだろ」

 カッパは一つ目でぎょろりと二人を見やって。「そうか。それはいいな」

「二人は?」

 ゼィロスが当人たちに訊く。すると、二人は顔を見合わせ、苦い顔を見せあった。

 メルディンがゼィロスに向き直る。

「どうして、わたくしとケン・セイ様なんです~か? 不協和音を奏でるの~は、ゼィロス様~も、ご存知かと思いま~すが?」

「また、意見が合うな。メルディン」とケン・セイまでもがゼィロスに憎々し気な目を向けた。

「仕方ないだろう。現在、手が空いているのはお前たち二人なのだから」

「訓練場、教えてる」

「教えてるのはテムだろ? なぁ?」

 ゼィロスは同意を求める視線をケン・セイの後ろ、テム・シグラに向けた。

「え?……っと」

 急に話を振られたテムは『異空の賢者』と『闘技の師範』の視線を受け、瞳を彷徨わせる。だが、逃げ場はないと悟ったのか、彼は真っ直ぐ師の目を見つめた。

「確かに、師匠は楽しんでいるだけです」

「なっ……」

「ほらみろ」

 ゼィロスがジトっとした目でニヤリとケン・セイを見る。ケン・セイはバツが悪そうに明後日の方を向く。

 そんな彼にゼィロスは追い打ちをかけるように一言。「異空のことは何よりも優先、だろ」

「致し方なし」

 小さく言って、ケン・セイは後ろの弟子を横目で見やる。

「テム、後で俺と組手」

 そういった彼の口角は刃物のように鋭く上がった。

「あ、いや、遠慮しておきますよ、師匠……」

「えーなんで! なら、あたし! あたしと勝負しよ、お師匠様!」

 師範の弟子二人はそれぞれ違った意味で師の言葉を受け取ったようだ。テムは言葉の裏を読み、イソラは言葉のまま受け取った。

 テムが正しいんだろうな、と傍から思ったセラは誰にも気づかれないように苦笑したのだった。

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