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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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283:話したいこと

 差し込む光がやんわりと段階的に色を変える中、ゆったりとした時間が流れた。

 ゼィロスが手を打って終わらせるまでのその時間。それは短いはずだったが、セラには長く心の和む時間に感じられた。

「まずはお前の話を訊こう」

「あ、うん」

 セラは親指にはめられた黒い指輪を一瞥し、真剣な顔を見せる。スウィン・クレ・メージュでは萎んだ疑念だったが、ゼィロスと会ったことでやはり話すべきだと思ったのだ。

「これ、スウィン・クレ・メージュで貰ったの」

「竜人の世界で? ついにあそこにも『夜霧』の手が伸びたということか」

「ううん、違うの。この指輪ね、かなり古い型なんだ。少なくても四年以上前。聞いた話だと、評議会ができる前から『夜霧』と関わってたの。スウィン・クレ・メージュほどの世界なら、調査しに行ってるよね?」

「ああ。評議会発足前にカッパが調べてるはずだ。一人ということもあったろうし、関わりが薄い初期の頃だったのなら、見逃してしまったのかもな」

「ズィーにも似たようなこと言われたけど、そう考えていいんだよね?」

 彼女は不安気に伯父の目を見つめる。姪のその姿にゼィロスは真剣な表情で訝しむ。

「お前はどう考えていたんだ? もしやカッパが裏切ったとでも?」

 ゼィロスの表情にはごくわずかだが怒りの色が混じる。彼とカッパの付き合いはセラと彼らの付き合いよりも長い。いくら姪と言えども、古くからの信頼を疑うことは許さないと言わんばかりだ。

「……ゼィロス伯父さんの言う通り。裏切りを考えたよ」

「……」

「でも、それは誰が調べたか分からなかったから。カッパなら、大丈夫だね」

「うむ。虹架諸島に関しては再度調査を行おう。しかし、裏切り者の話が出るとはな、なかなか勘が鋭くなってるんじゃないか、お前」

「え?」

 今度はセラが訝しんだ。するとゼィロスは近くにあった椅子に腰かけて話しだす。

「実は評議会に裏切り者がいるのではないかと疑っているんだ。すでに探りもいれている。これは賢者でもごく数人しか知らないことだ、内密にな。話が出たからセラには話すが、ズィーにも話すなよ」

「うん」頷いて、セラも伯父と向かい合う椅子に座る。

「今、評議会は当初の想定より多くの仲間に恵まれている。それは喜ばしいことだが、現状、お前が連れてきたラスドールもそうだが、評議会の誰かが信頼し、連れてくることで誰でも入れてしまう。俺はそのことを危惧しているんだ」

「場合によっては『夜霧』の仲間が何食わぬ顔で入ってこれちゃうってことね。ううん、もう入ってるかもって。でもどうして? わたしを含めて、途中で仲間集めをやめるように指示すればよかったんじゃない?」

 彼女の疑問にゼィロスは苦い顔をして、深く息を吐いた。

「それも考えたんだがな……。今確認されている『夜霧』の拠点、そして本拠地を含め発見されていない拠点。我々の数は、想定される奴らの兵数には到底及ばないのが現状だ。奴らは異空でも飛び抜けて兵力を持つ『白輝の刃』をも上回っていると俺は見ている」

「『白昼に訪れし闇夜』の恐怖支配」

「そうだ。俺たちのように信頼を元にした組織ではないからこそ、一気に多くの戦力を手に入れることが出来る。そうして離さない。もっと早くグゥエンダヴィードを発見できれば話は変わってきていただろうが、もう遅い。今では少数精鋭で制圧できる大きさでは無くなったんだ。これはすで評議で話したな、忘れてないだろ?」

「うん」

 初期の賢者評議会では少数精鋭で戦うという考えのもとに仲間集め、訓練、調査活動を行っていた。しかし現在ではその考えは捨てられている。戦士が増えたのもそれが理由だ。そのことが話し合われた評議は、セラが仲間集めの任を受けて半年ほど経ったころのことだった。

「……本当に謎、何者なの奴らの統率者って」

 セラは顔も名前も分からないその人物の影を思い浮かべ、憎々し気に表情を歪めた。

「徹底して情報を掴ませない。これだけ偉大な者たちが揃ってもその影すら掴めないのだからな、最近では存在すら疑わしいと声を上げる者もいるくらいだ」

「それ、初めて聞いた。そんなことわたし聞いたことないよ」

「まあ、若い戦士たちに話していないことなんてたくさんある。この裏切りの件もそうだろ」

「たくさん、か。しょうがないんだろうけど、ちょっとがっかり」

「そう言うな。情報開示の調整をしなければ、不安や不信も出てくるだろう。時には嘘だって必要だ」

「わたしが知ってることでも、嘘があるの?」

 ゼィロスはセラの意地の悪い問いに和やかに笑みをたたえる。「ふん。ない、というのも嘘だな」

 その答えを聞いて、セラは小さく舌を出しておどける。

「話しておきたいこと、他にもあるか?」

「ううん、大丈夫。スウィン・クレ・メージュのことだけ」

「そうか。じゃあ、訊きたいことの話をしよう」

「嘘なしで?」にこやかにおどけるセラ。

 口元に笑みを浮かべながら、諌めるゼィロスだった。「セラ」

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