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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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280:立ち上がりの時

「ズィー、慰めもほどほどにな」ブレグとの握手を解くと、ゼィロスはズィーに一声かけた。「情けのかけ過ぎは、相手を見下す行為と同義だぞ」

「分かってる。少し落ち着いたら戻る」

「さて、行くかセラ」

「うん」

 セラは軽くダレ親子に会釈した。二人が微笑みを返したのを見ると、彼女は伯父に向き直った。

「あ、そういえば。話したいことがあるの。重要かどうか、わたしじゃ判断できないこと」

「分かった。戻ったら訊こう」

「あと、訊きたいこともある」

 姪の言葉にゼィロスは頷く。それを合図にセラはホワッグマーラを発とうとしたのだが、不意に彼女たちの方へ走ってくる人の気配を捉えた。

 すぐに彼女を呼び止める大音声が聴こえてきた。「待ってくれっ、セラーっ!」

「知り合いか、あの男」

 ゼィロスの問いかけに、彼女は頷く。「うん。ビズ兄様の……ファン? かな」

 厳つい顔の男、ラスドールがセラの前にやってきた。全速力だったろうに、まったく息を切らしていない。マカだけでなく剣術も使う魔闘士故だろう。

「どうしたの、ラスドール? そんなに急いで。それに魔素タンクまで持って」

 彼女は彼の腰に魔素タンクを認める。ユフォンやヒュエリの倍はあると見て取れた。

「どうしただぁ? おいおい、ふざけんなよ、セラの復讐の手伝いするって言ったろ」

「あ……」視線をラスドールからどこか彼方へと向けるセラ。

 彼女はそのことをすっかり忘れていたのだ。

「ごめん、忘れてた……」

「おいおい、頼むぜぇ」

「ははっ……」セラはバツが悪くなって笑い、ゼィロスを見る。「大丈夫だよね?」

「セラが信頼できると思うなら、構わないぞ。仲間集めはお前の任務の一つだしな。だが一目見た感じ、戦力としては評議会の戦士の中ほどくらい。ブレグ・マ・ダレと比べれば物足りないな」

「ちょっと、伯父さん! 大丈夫だよ、ラスドール。今いる戦士たちは、みんな賢者のもとで長いこと訓練してるし、伯父さんの見立ては厳しいから。それに――」

「いや、いい、セラ」ラスドールは苦笑いを浮かべながらも、どこか悟ったような顔を見せる。「自分が異空では弱ぇ方なんだってことは分かってる。そりゃ俺だって、自分はなかなかの魔闘士だって思ってる。さすがにブレグさんと比べれば弱くても、この世界なら上の方だろうって。けど、俺、セラに負けたろ? それも本気じゃないときた。中途半端なとこで自惚れてたんだなって痛感してんだ。復讐の手伝いなんて言ってるが、これじゃ足手まといにしかならないってことも分かる。だから、これは俺にとって最初の一歩を踏み出す前、立ち上がりの時なんだ!……改めて、ちゃんと頼む、俺を訓練生ってことで一緒に連れてってくれっ」

 そう言ってラスドールは律儀なお辞儀を見せた。一度セラにした後、ゼィロスに向かってもう一度。やはり真摯な男だった。

 だがあまりにもしおらしいラスドールの姿に、セラは微笑みを湛えわずかに首を傾げた。

「ラスドール…………なんか、その、何日かしか付き合いないけど……丸くなった?」

「は? おい、セラ」厳つい顔が上がり、セラを睨んだ。「喧嘩売ってんなら買うぞ」

「あんまり喧嘩っ早いと誰も訓練付き合ってくれないよ?」

「っぐ……」ラスドールは身体を起こす。「見てろよセラ。いつかお前に雪辱戦を申し込む」

「向上心があることはいいことだ。明確な目的があることもな」

 ゼィロスはラスドールにそう言って、彼の肩に手を置いた。あっという間もなく、赤紫の閃光に包まれ二人の男が消えた。

「ラスドール、ナパード酔い大丈夫かな……」

 二人を追って、セラも花を散らした。


「ぉうぷぅっ……ろぅぇええ」

 彼女の心配は的中し、ラスドールは盛大に胃の中のものを、薄光のもとに晒した。漂う光が色を変えるたびに、彼の口から吐き出されるものも色を変えた。

「室内にしなくて正解だったな」

 言いながら彼から離れるゼィロス。彼が目指す建物は巨大な卵を横に倒して埋めたような形の大ドーム。評議会の訓練場だ。

「セラ、落ち着いたら彼を連れて来い」

「うん」セラは言われる前からラスドールの背を擦っていた。「大丈夫?」

「あ、ああ……」

 彼の背を擦りながら、ヒュエリはどうしただろうと思うセラ。彼女とユフォンがいるのは、卵の頂点部分に賢者たちが会議を行う部屋のある、本拠ともいえる建物の前だ。

 今では人数も増えた評議会。初期こそその建物に居住区画があったが、今では集められた賢者や非戦闘員、それから戦士たち全員が別の場所に部屋を持っている。

 まずはゼィロスや他の賢者たちにヒュエリを合わせることを考えて会議場前を選んだが、こうとなってはセラの自室に招待して、休んでもらっていた方がよかっただろうなと、今となってはどうにもならないことを考えるセラだった。

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