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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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278:跳んで薄極光…

「それじゃあ、行きましょうか。ヒュエリさんとユフォンはわたしが連れて行きます」

「フェズは当然、俺……なわけだけどよ、そんながっしり掴まなくても跳べっから。触れてるだけで跳べっから」

 フェズはクリアブルーを輝かせ、まだかまだかとズィーの肩を鷲掴みにしていた。その姿ときたら興奮というよりも狂気に近い。

「フェズくん、ずっと憧れてたからな」と見送りのジュメニが笑う。

「セラちゃん」ブレグが真剣な眼差しをセラに向ける。「俺たちは今マグリアを離れるわけにはいかないが、落ち着いたら必ず評議会に協力する」

「ありがとうございます。でも、あまり無理しないでください。急いで直して、せっかくきれいだった街並みがぐちゃぐちゃになってたら、わたしがっかりしますからね」

「おお、任せときなさい。『碧き舞い花』が異空中に誇れるように、この際これまで以上の街にしておこう」

「いままでどおりでいいですよ。レンガにオレンジの灯り、水路のせせらぎ……わたしはそんな落ち着いた夜のマグリアが大好きですから」

「そんな夜に酒飲んでどんちゃん騒ぎをするのが、俺は好きだ、はははっ。また黒酒でも飲もう」

「ふふ、それもいいですね」

 笑うセラに、ブレグも笑みを浮かべ頷く。出発の時だろう。

「じゃあ」

「ああ」

「またね、セラちゃん」

「ジュメニさんもお元気で」

 手を振るジュメニに頷き返し、セラはユフォンとヒュエリの肩に手を置いた。ズィーとフェズはまだ、掴むの触れるので争っていた。

「ほら、ズィー。行くよ」

「あ、おう。行くってよ、フェズ」

「やっとか」

「フェズ」ユフォンが親友に言う。「ナパード酔い、結構きついから覚悟しておくんだね」

「俺は酔わないさ」

「はわわぁ、わたし、やっぱり自分で移動した方がいいでしょうか?」

 ユフォンの言葉は友ではなく師に響いたようだった。ヒュエリは心配そうにセラとユフォンに視線を向けた。

「ははっ……ヒュエリさんは瞬間移動慣れてるから大丈夫でしょう?」

「そ、そうですかね? わたし、渡界術は初めてですよ? セラちゃん?」

「……ははっ」苦笑するセラ。「空間移動に慣れてれば大丈夫だと思いますけど……。もし吐いちゃっても、誰も責めませんよ」

「僕も吐きましたよ、最初」

「えぇ~……それはそうなるかもしれないということですか……!? あわわわぁ~……わたし、やっぱりやめておきま――」

 こうなってしまってはまた問答が始まり、説得するのが面倒だと思ったセラは有無を言わさず、ヒュエリ以外の全員に視線を送り、それから跳んだ。


「しょうかね、っぅぇえ……っぷ、うぅぅ」

 休むことなく色を変え薄く漂う光を有する空。ヒュエリはスウィ・フォリクァの空のもと、口元を手で覆い、うずくまった。

「ひどいでずよぉ、ゼラち゛ゃ~ん……セラちゃんの、意地悪ぅ……ぅぅううぅ…………」

「ごめんなさい、ヒュエリさん」セラは司書の背中を擦る。「ナパード酔いは跳んでみないことには分からないので……」

「ぶぅぅ……だからっでぇ~……」

 ここまで来るといたたまれなくなってきた。セラは本意気で謝る。「ほんと、ごめんなさい」

「っれ、フェズ?」

 続けて薄極光の世界へ現れたズィーが素っ頓狂な声を上げた。それもそのはずだ。フェズルシィがいないのだから。

 セラはヒュエリを擦りながら。「手、放しちゃったの、フェズさん?」

「僕が見た限りだとずっと掴んでたと思うけど?」とユフォン

「ああ」ズィーは頷く。「間違いなく掴んでたぞ。いくらフェズが空気読めなくても、跳ぶ寸前に離さないだろ? 外出たがってたんだから」

「とにかく、マグリアに戻ってちゃんと跳んできて」

「分かってるよ」

 紅き閃光。沈黙。紅き閃光。

 現れたのはズィーだけだった。

「ちょっと、ズィー。ちゃんとしてよ」

「いや、今度は俺の方から触って跳んだんだぞ? 確実だろ?」

「じゃあなんでフェズさん来ないの?」

「知らねえよ」

「ユフォン、ヒュエリさんお願い。わたしも戻る」

「任せて」

 渡界人は二人して花を散らせた。


「フェズさん」

 マグリアではフェズルシィが不機嫌そうに口をすぼめていた。ブレグとジュメニも訝しんでいる。

「どういうこと、セラちゃん」ジュメニが口を開いた。「さっきからフェズくん残ってるけど」

「分かりません。とにかく今度はわたしが一緒に跳びます」

「頼むぞ、セラ。ズィプ、下手くそなんだ」

「おい、ナパードに下手も上手いも……まぁ、あることにはあるか。でも、人と跳べないなんて、俺だって初めてだ。お前に原因があんじゃねえのか、フェズ」

「知らないぞ、そんなの」

「二人とも、喧嘩してる場合か」ブレグが若者二人を諌める。

「じゃあ、跳びますね」

 セラは天才の肩に触れ、もちろん一緒に跳ぶことを意識してナパードを使った。

 しかしどうしたことか、スウィ・フォリクァに移動できたのは自分だけ。さっきまで触れていたフェズの感触はその手から失せ、ただただ(くう)に向かって平を向けていた。

 マグリアで見届けたであろう、ズィーが少し遅れて続いた。「おい、セラでも駄目なのかよ?」

「そんな……」ここで負けず嫌いな彼女はわずかにだがムキになった。「もう一度」

 すぐさまマグリアに戻る。

「おいおい、どういうことだよ、セラまで。ふざけてるなら怒るぞ」

 フェズの声は不機嫌さを通り越して怒気を含んでいた。すでに怒りはじめている。

「待て待て、フェズルシィくん。セラちゃんがふざけてるわけないだろ。落ち着きなさい」

「隊長様の言うことでもきけないな。だっておかしいだろ。どうして俺だけ残るんだよ!」

「君はこの世界に愛されているんだろうな」

 不意な声。

 その声は赤紫色の閃光と共に。

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