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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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277/535

273:二度目

 セラははじめに気魂法を試した。

 これは間違いなく液状人間に効いた。もちろん、弾け飛んだ水は元通り戻るが、斬るよりも手応えがあった。ヌーミャルも苦痛の声を上げていた。

 しかし気魂法というものは大きく疲労する技術。連続して何度も使えるものではない。怯ませることには充分だが、次につなげる必要があった。

「ドルンシャ帝に入ってた時の方が戦いやすかったかもな」

 戦いの中、隣に来たズィーが冗談っぽくぽつりと言った。

 彼は外在力を斬撃状にせずに放つことを主体にして戦っていた。すでにスヴァニすら納めている。そんな彼に倣い、彼女が次に試したのは外在力に似た力であるマカ。主に衝撃波のマカだ。

 結局のところ、そこに落ち着く。

 あらゆる世界の技術を学ぼうとも、彼女にとってマカというものは特別に思い入れのあるものだ。ユフォンやヒュエリとの繋がりという点も含まれるが、何より、彼女が幼き日、兄が見せた摩訶不思議な力なのだから。憧憬や郷愁といった強い感情が付随している。

「はぁ!」

「っく……」

 セラの放った衝撃波が大きく、液状人間を吹き散らした。その飛沫のいくつかが刃となって渡界人二人に襲い掛かる。

 ヌーミャルの攻撃といえばこの反撃と雨を操ることくらいだった。それが厄介だからこそセラとズィーは彼を倒せていないのだが、セラたちに勝ち目がないと言った割には攻めが甘い。ブレグやドルンシャ帝のときのように激しい水での攻めはなくなっていた。それどころか時間が経過するにつれ、雨量は減ってきていた。

 使える水を節約して持久戦に持ち込もうとしている。もしくは、使える水がなくなってきた。そう考えるセラ。ズィーもそのどちらかを考えたのか、はたまた決め時は今だと勘を働かせたのか、飛んできた水を躱すと、すぐに攻撃に転じる。セラもすぐに続く。

 人型に戻っていく水へ二人で続けざまに何度も放つ攻撃。呼吸を合わせ、再生の時間を与えない。

 左膝、右腕、脇腹、左肩、胸部、頭部……。

 ついにはその連撃に耐えられなくなったヌーミャルはわずかな水の玉となってその場から抜け出した。

「逃がすか!」

 ズィーがすぐさま腕を伸ばす。とどめとも言わんばかりの勢いだ。だが、セラは自分たちの頭上に大きな動きを感じ、ちらりと空を見た。

「! ズィー!」

 セラはズィーに触れ、その場から跳んで離れた。

 ゴォォォオンッ!!!

 散った碧き花を硬質な水柱が建物の屋根もろとも押し貫いたのを、二人は傍から見た。

「っぶね。サンキュ、セラ」

「うん」

「ってか、防戦一方だったわりに派手なことしてくれんじゃねえかよ」

 上がった水煙の向こうを睨むズィー。そこにはすでに身体を再生させたヌーミャルの姿があった。

「やばくなってきたってか?」

「そうだなぁ……今のをもっと早い展開でされてたら、危なかったかもな」

「ならもう一度やってやるよっ」啖呵をきるズィー。

「もう一度? フハッ。それはない。もう終わりだ。お前らがやったことだからわかるよな?」

「は?」

 ズィーは不機嫌そうに訝るが、セラには思い当たることしっかりとがある。「まさか、時間稼ぎ……」

「フハッ」

 悦に入った声で笑うヌーミャル。それを合図に、天を覆う雲から降る雨が都市を白く包むほどに強くなった。


「んっ、っく……」

 セラはその日二度目のドームを張った。

「なんでだ!?」

 ズィーの声が聴こえる。辛うじてではないことが、雨は前回より弱いことを示している。それでもそう長くはもたない。けれども、今マグリアにはヒュエリたちがいる。セラはそのことを思うと、屋根のある別の場所へ移動しようとはしなかった。現にズィーが彼女に触れようとしたが、彼女はそれを拒んだ。

「また、たくさんの水が襲って、きたら、みんなが……」

「そっか……くそ、どうすりゃ」

 歯噛みして、拳で自身の腿を叩くズィー。

「その壁が壊れるまでの短い時間だが、最後の思い出でも作ればいいさ」

 壁の外からヌーミャルの声が響いた。壁に滴る雨粒全てから発せられている。

「時間……」セラが息を上げながら発する。「水の支配、広げるのに、時間がかかるはず……それに、んっぁ、はぁ……まだ地上の水は『竜毒』が……」

「『碧き舞い花』は思い出は作らずにどうしてこうなったか知りたいってよ。残念だったなぁ、『紅蓮騎士』ぃ。まぁいいだろ、教えてやる」

 その時、マカの壁に最初のひびが入った。

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