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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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268:状況が変わる時

「はっ。一人増えただけで状況が変わっただと? 笑わせる。こっちは何十、何百、何千だって増やせる!」

 ブレグが言うと地鳴りがはじまった。セラとズィーは揃って下を見る。

「なんだ?」とズィー。

 セラは超感覚で先を知ることが出来た。「水が湧き上がってくる!」

 地下を流れる水を操っているのだろう。魔導書館の庭の下に大量の水が集まり、地面を裂かんといくつかの地点を押し上げていた。

 耐えられなくなった地面が割れ、数多の水柱が吹き上がるのに、そう時間は要さなかった。

 しかし水柱は二人を襲うことはなかった。途切れることなく一定の高さを保ち、それぞれが太さを増していく。一つまた一つとくっついて、ついには水でできた床が出来上がった。中には零れ落ちてゆく水もあったが、それも今では洪水よろしく水の溜まった地面に辿り着くと再び上に上がってくる。

 そうして半永久的に成長してゆく床の大きさは、すでにマグリアの噴水広場をも凌ぐ。

「状況が変わるっていうのはな、こういうことを言うんだ」

 降りやまない雨に慌ただしく波紋を作る水面から、魔闘士たちが顔を出し始めた。そこにブレグも加わる。

「さあ降りて来い」何重にも重なった声。「まとめて寝かせてやる」

「って言ってけど、どうするよ?」

「いいんじゃないかな、行こ」

 セラはゆっくりと、自身で作り出したガラスの床を下っていく。

「セラにしては珍しいな」ズィーが彼女に続く。「もうちょっと慎重にならなくていいのかよ?」

「うーん、時間的にそろそろだと思うんだ。勘だけど」

「勘か。ま、お前は俺の勘信じてくれねえけど、俺は信じるよ、セラの勘」

「え? わたしだって、戦いのときはズィーの勘、信じるよ。それにズィーは勘とかいって適当なこと言うじゃん」

「適当って、そりゃ勘だからそうだろうよ」

「技術としての勘はそうじゃないでしょ? ちゃんとして」

「あいあいよ、姫さん」

「ちゃんとして」

 舌を出し、肩をすぼめるズィー。それを横目に見てセラは笑う。その二人の態度に、いざ決戦とばかりに待ち構えていた液状人間はしびれを切らした。

「何をごちゃごちゃやってるっ!」

「わりぃな。実はさ、俺たちはお前の注意を引くために三人で攻めたわけなんだよ」

「何?」訝る液状人間。

「ちょっと、ズィーさすがに――」

 セラもズィーのあまりのも突拍子のない作戦の打ち明けを止めようとしたが、それをズィーが手で制した。

「安心しろよ、セラ。お前の勘を信じるって言ったけどさ、そろそろじゃなくて、すぐ、だと思うぜ、俺は。まあ、俺も勘だけど」

「ズィー……」セラはふっと笑む。「分かった。信じる」

「あんがとっ」セラに短く礼を言うと、魔闘士たちを見下ろすズィー。「ってことだから、ネタばらししてやるよ。余裕があったら聞いとけ。ま、逃げ出すのに手いっぱいでそんな余裕ないだろうけどな」

「何を……。っ!?……何!?」

 異変を感じたらしく、液状人間は魔闘士たちの顔を一斉に歪めた。

「馬鹿な……そんな、ことが……監視はして、いたはず……だ……」

 水が不規則に暴れ出す。水面に泡が立ち、うねる。造られた床は安定をなくしはじめ、風に揺られる樹のように揺れる。

「知ってか? 幽霊って目に見えねえんだぞ」

「な、にぃ……。っ!!」

 ついに形を保つことのできなくなった水柱は重力に従い、魔闘士共々崩れていく。大量の水と共に落ちることで魔闘士たちは命まで奪われることはなさそうだと、セラは真剣な表情でありながらも内心安堵した。

「作戦の説明、やっぱしても聞いてなさそうだしやめっか。そもそも、俺そういうの得意くないしな。……あ、そうだそうだ、ユフォンから預かってたんだ」

 ズィーは思い出したように腿のカバンから通話の魔具を取り出した。それをセラに差し出す。

「俺使い方分かんねえんだけど、出来る? ヒュエリさんに連絡」

「もう……ちゃんとして」

 呆れながらもロケットを受け取り、これまで見てきた見よう見まねで使ってみるセラだった。

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