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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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267:彼女に降り注ぐは

「ふっ!」

「ぬんっ」

 二本の剣が奏でる。

 狭い通路での戦いは一進一退。攻めは防ぎ、防ぎは攻めを互いに繰り返す。時折、ブレグがマカを交えたり、降り続ける雨が不意に牙をむいても、セラは体勢を崩すことなく対応した。

 直線状の戦場ではあるが、セラには様々な技術がある。やろうと思えば背後を取ることも、横に大きく飛び出て、平面的、立体的な攻撃も可能だった。だが、彼女はそれをしなかった。

 すでに遂行済みのヒュエリの作戦が効力を発揮するまでの時間稼ぎ。

 相手が強大な攻撃を仕掛けてこないのであれば、現状ではそれが最善手だと考えてのことだ。それに今は一人。仮に広い戦場に出たとなれば、多くの魔闘士に囲まれると予想された。様子を見るためにマグリアで一番高い場所に跳んできたが、それが幸いした。一対一であるなら時間まで耐えるのではなく、時間を稼ぐことが出来るというもの。

 だが、『碧き舞い花』を知る液状人間だ。セラが無難な戦いをすることを訝る。

「何か企んでるな、『碧き舞い花』」

 屈強な肉体でステップを踏み、セラから距離を取るブレグ。その顔は一変、自身が何かを企むように片側の口角を上げた。

「ならば俺が先手を打つとしようか……」

 グログロロロゥ……――。

 その音にセラは空を見上げた。昼間だというに黄昏時のように暗くなる。黒々とした雲が尖塔の上空に広がる。

「雷でも落とすの?」

 セラは皮肉っぽく言った。しかし内心焦りはじめていた。そろそろのはずだが、まだなのかと。

「雷? 貴重な渡界人の身体を無駄にはしない。俺は水だしな」

「また大雨? 芸がないのね」

「渡界人に言われたくないなぁ……ふはっ、どこかに跳んで逃げるなら今のうちだぞ?」

 下卑た笑みだ。逃がすつもりなど毛頭ない、そう言っているも同然。

「浸透はまだしない。意識があっては何をするか分からないからな、お前は。気絶させ、あとでゆっくり俺のものにしてやるよ」

 グルゥゴゴゴゴ……――。

 ゾォォオオオオオオオオ!!

 雷雲の音を掻き消す轟音。柱。雨でも、滝でもない。水の柱が彼女に向かって落ちてきていた。

「っ!」

 迫りくる柱を前に、彼女は屋上から飛び降りた。

「術式展開……(フロア)……歩調(ステップ)……同調(チューン)

 空中に足を着く。落ちる勢いを殺しながら、三歩、魔導書館時計塔から離れて行く。振り返ると時計塔は水の当たった一直線が跡形もなく、つられて巨大な文字盤や針が音を立てて崩れ落ちた。凄まじい破壊力だった。

「気絶?」

 セラは半ば笑いながら呟いた。再び轟音が頭上でしたのを聞くとすぐに、その場を離れる。そこからセラと水柱のダンスがはじまった。

 華麗で軽やかなステップを見せる彼女に、容赦ない水柱。セラには避けることしかできない。受けて立とうという気すら起きない。絶対に触れてはいけない。

 彼女がふと地上を見ると、地面は水の勢いで抉れていた。下に誰もいないことが幸いだったとセラは思う。

 しかし、これ以上マグリアの地を荒らさせるわけにはいかないとセラは跳ぶ。崩れた塔、ブレグの背後だ。

「っ!」

 彼女が跳ぶのを見て、自身を囲むように四本の水柱を落としたブレグ。セラは彼に触れることすら叶わず、ただただ身を退くことしかできなかった。今の破壊により、塔だけでなく図書館側の建物も連鎖的に壊れていった。白黒の瓦礫が飛び散り、それがまた別の個所を破壊する。

「もう諦めろよ、『碧き舞い花』。今の状況で俺に勝とうなんて、誰にもできないのさ」

「諦めない」再び降り襲ってくる水を避けながら。「それに、状況は刻々と変わる」

 セラは動きを止めた。自身で言っているように諦めたわけではない。彼が来ると感じたから。

 落ちてくる水塊を見上げ、自分と水の間に紅き花が力強く咲き誇る姿を見る。

 落孔蓋、外在力、竜化、そして金剛裁断。

『紅蓮騎士』は姫を守るように、水の柱を真っ二つに割った。左右を通り過ぎてゆく派手な水飛沫。そして、紅の花が彼女に降り注ぐ。

「ナイスなタイミングじゃね?」

「ふざけてる場合じゃないでしょ」

 諌める言葉を放ったセラだが、彼の後姿を映すサファイアは柔らかく笑み、その声は嬉しさを孕んでいた。

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