265:雨
三人が広場を出て帝居への道へと躍りでたのは昼前。太陽がもう少しで真上に来る頃だ。
つい先ほどまで笑っていた魔闘士たちが、しっかりと三人の進行を阻んだことでなかなか前へ進めていなかった。それが彼女たちの作戦にとっては好都合だった。
このくらいなら大丈夫だろうとセラが思っていると、不意に辺り一帯が影に覆われた。突然の暗転に戦いながらもちらりと空を窺うセラ。
「ぇっ!?」
声を上げざるを得ない状況だった。雲だ。
晴れていたということを忘れさせるような、燦燦と輝いていた太陽を覆う暗雲。誰が見ても雨雲と分かるものだった。
「言っただろ? ここまでだと」
四方八方からの声。
ぽつり……。
セラの白き頬に水滴が一つ。「っ!」
「そして、この世界が俺だともなっ!」
その声を皮切りに、土砂降り。飛沫と轟音がレンガの街を包み込んだ。
何の前触れもなく現れた雲は、一瞬にしてその場の支配者となった。
轟音の中、三人は濡れていなかった。
辺りは激しい雨に真っ白になり何も見えない。
「滝かよ」
ズィーが言う。セラの耳を持ってして辛うじて聞こえる。それほどに外は爆音に支配されていた。
しかし彼女たちが室内に入ったというわけではない。三人がいるのはセラが作り出した障壁のマカの中だった。
セラがいち早く雨雲、雨粒に気付いたことが幸いだった。彼女はすぐさま二人をまとめて囲えるえる大きさのドームを作ったのだった。しかし……。
「……ズィー! とりあえず、どこか建物の中に、跳んで」
圧し掛かるように降り付ける雨に異界人が使うマカで耐えるのは厳しかった。踏ん張るセラはまるで気魂法でも使っているかのように息を切らしていた。
「ぉう、わかった」
外に気を取られていて、自分が助かっていたことに今気づいたらしいズィーはすぐさまセラの肩に触れた。ドード、と言って彼にも自分に触れてもらうとすぐに紅き閃光を放ったのだった。
「っはぁ……」
セラは息を漏らし、すぐに吸い戻す。そのまま近くのベッドに転がり込んだ。そして咳き込む。
「ケホッ、ごほっ、ごほっ……」
ユフォンのベッドだった。大きく埃が舞う。
「大丈夫っすか、セラさん?」とドードが気遣う。
「ケホン、ケホン……」ドードを制し、息を整えベッドに座る。「だい、じょうぶ……」
「で、これからどうする」
ズィーは窓の外を見やりながら言う。雨でマグリアの街並みはまったく見えない。
「たぶん、窓に着いた雨粒からわたしたちのこと見てるはず。場所、変え――」
バリィンッ!
窓が周辺の壁と共に爆ぜた。
大量の水が開いた穴から入り込み、勢いで穴をさらに広げる。部屋もとい建物ごと三人を流すまでは一瞬の出来事だった。
ズィーとドードの手を伸ばしたセラだったが、その手は誰にも届くことはなかった。




