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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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252:虹架諸島で舌鼓

 仕事の最中であるウィスカと分かれた三人は、セラがはじめにシァンによって連れられたカフェの中にいた。

 一回目の時に座った島側の席とは違い、彼女たちが座ったのは島の外を望む窓のある席。漂う白雲は薄く、青空に霞み化粧を施している。くっきりとした七色。その中でも高く架かる虹はその存在の主張をやめない。

 そしてその虹と共に目につくものがもう一つ。

 一番低い高さに掛かる島々のさらに下。雲海織りさながらの、というよりも、雲海織りが模したものはまさにこれだろうと思わせる広大な雲海が広がっていた。

 折り重なり合う雲たちはどっしり組み合い、動きを見せない。上の雲たちとはまるで別物。諸島を支えんとばかり。

「あの雲より下ってどうなってんだか?」

 逆鱗花料理を待つ間、ズィーがぽつり、誰に訊くでもなく零した。それをシァンは逃すことなく反応した。

「ふっふーんっ、それはね……嵐の家族がいるのです!」

「嵐の家族? なんだそれ」

「なんだって言われても……嵐の家族は嵐の家族だよ。お父さん、お母さん、それにたくさんの子供たち。諸島に嵐が来るのはお父さんが怒ったからとか、子供達がはしゃいでるとかってあたしたちは小さい時に教えられたんだよ」

「それって子ども相手の童話とかだろ? 俺たちにもあったぞ、そういうの。なぁ?」

「うん。ミャクナス湖の向こうには鏡の世界があるから、深いところに行っちゃ駄目だよ、とかね」

「そうそう。結局そんなことないんだって分かってくると、みんな深いとこまで泳ぐんだけどな。そんなもんだろ? 雲の下の話も。落ちたら危ないぞって」

「……むぅ、二人は夢がないなぁ、もう」シァンが頬を膨らませる。「はいはい、そうですよぉ~。嵐の家族は童謡ですぅ~」

「で、実際はどうなんってんだよ」

 未だに頬を膨らませたままのシァン。「さぁ?」

「いやいや、何不貞腐れてんだよ」

「不貞腐れてないよ」表情を戻す。「本当に分かんないんだもん」

「誰も下に行ったことないの?」とセラ。

「うん」

「誰か落ちたりとかしたこともか?」

「うーん、聞いたことないや。あ、でも! あ、うーん……これは違うかなぁ」

「何? 訊かせて」セラが促す。

「ディークが島を壊したときね、落ちたんだ。島がね」

「そんで?」と興味津々なズィー。

「あの雲に穴が空いたんだけど、真っ暗だった。それだけ。だからやっぱり、何があるかは分からないや」

「真っ暗か……。なぁ、セラ。俺たちで行ってみないか?」

「えー、行かないよ」

「なんでだよ。気になるだろ、セラも」

「気になるけど。それはこの世界の人がやるべきことだよ。それに、ズィーの思い付きってろくなことにならないもん」

 そう言う彼女のサファイアは彼の額の傷跡を諌めるように映した。その視線に気付いたズィーは傷跡を掻く。

「へいへい、そうですね。じゃ、この世界の誰かが下まで行くのを待つよ」

「お待たせしましたぁ~!」

 溌剌とした高い声の店員が料理を持ってきた。竜人にしては可愛げのある顔つきだ。

「逆鱗花サラダ、逆鱗花ジャムパン、逆鱗花豚のステーキ・逆鱗花ソース添え、逆鱗茶のセット。四名様分で~す」

 さすがは竜人、四人分を載せたトレーを軽々とふらつくことなく持っている。セラたちは三人しかいないのに四人分なのは、ズィーが二人前食べるからだ。

「ごゆっくりどぉぞ~」

 ササッと配膳を済ませ、店員はにっこりと帰っていった。

「ふぉ~、見た目も匂いも美味いな」

 並べられた料理に目を輝かせるズィー。今にもよだれが垂れそうだ。

「ささ、ご賞味あれ」

「いただきます」


 葉物野菜の緑に映える濃紫。生でも食べられる逆鱗花をメインとしたサラダはドレッシングを必要としない。まずはじめに花を数枚裂く。すると甘い匂いを漂わせる汁が滲み出す。それを全体に和えるのだ。滲み出す程度の汁だが、充分。さら全体に馴染む。他の野菜の味を殺さないどころか引き立て、かつ自身の存在も主張する。付加ではなく、相乗。逆鱗花という先導者により、他の野菜たちが奮い立っているような味わいだ。


 変ってジャムパン。逆鱗花を煮詰めたジャムの芳醇な甘みときたら格別。パンそのものはいたって普通のパン、言ってしまえば少し乾燥しぱさぱさとしている。だが、それがいい。ジャムの水分と混じることで、舌触り、喉越しを楽しくするのだ。


 メインであるステーキに使われる逆鱗花豚は名前の通り、贅沢にも逆鱗花を餌として与えられた豚だ。葉と違って柔らかい花を体現するようにその身は柔らかく、ソースからではなく肉自体から甘い匂いがする。これは生肉の状態でもそのようで、生肉を食べても平気だという竜人は場合によってはそのまま食べてしまうのだそうだ。

 焼かれたことで香ばしさを増した肉にかかる鮮やかな薄紫色のソースは、逆鱗花をベースに作られたものだが、これは甘くない。塩味、酸味が程よく、肉の甘みを引き立てる。


 逆鱗茶はハーブティー。紫色の液体はぶどうジュースを思わせる。わずかな渋み、深いが甘すぎない甘味。後味はすっきりとしていて、飲んだという事実はしっかりと自覚していなければすぐさま彼方へと跳び去ってしまう。消臭効果が高く、どれほど臭いの強い食事の後であろうとこのお茶を飲めばまったく臭いは気にならない、とは言うものの虹架諸島にはそれほどまでに臭いを気にするような伝統料理はないのだが。


「セラ、お茶、もう一杯いるか?」

 どうやらズィーの口には逆鱗茶だけは合わなかったようで、他は女子二人とほぼ同時に完食したにも関わらず、お茶だけが一杯残っていた。

「うん」

 反対にセラにとってはこの逆鱗茶は好物となっていた。自身で作れるよう、茶にするために乾燥させた逆鱗花を買ったほどだ。

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