249:虹架諸島が抱える問題
庭園は諸島の中でも高い位置にある、全土を木々に覆われた島そのもののことを言った。諸島の中には森を有する島もいくつかあるのだが、守護団が管理下に置くのは唯一庭園だけだという。
それは他でもなく、逆鱗花が群生する森だからだ。
「あ、いいよいいよ。まさか『碧き舞い花』の研究の手助けができるとはね」
森の入り口。そう軽く言うのは緑色の髪を持つ女性の竜人だ。彼女がウィスカ。シァンの姉だ。彼女もまた父親とは血が繋がっていない養子。それ故にシァンとは見た目からして、血は繋がっていないのだが、なんとも快活な性格が似ていた。
「じゃあ、行こうか。こっちこっち。レッツ・ゴー!」
セラは律儀に規則に従ったデラバンに対し心の中で苦笑する。求めていた人物は庭園にいたうえに、事後報告でも何ひとつ問題にしないような人だったのだから。
「やっぱ洞窟だよな、洞窟」
森の中に入ると、ズィーが零す。
鬱蒼な森は青空を完全に遮断し、光も入らない。それでも人が歩ける道が作られ、一定の間隔でランプが灯していた。彼の言うように森というより洞窟の様相を呈していた。
「逆鱗花はこの森の光が差してる場所にしか咲かねえんだぜ」
とズィーが得意気にセラに言う。それにウィスカが続く。
「その点管理しやすいんだよね。光がある場所、限られてるから」
「全部管理できてるんですか?」
セラは問う。管理しやすいとは言うものの、今でも異世界に『竜宿し』は流れている。すべてに目が届いていないのだろう。押収した『竜宿し』が一島を埋め尽くす量だということも、そういうことだろう。
「う~ん、鋭いなぁ、セラちゃん。さすがは『碧き舞い花』だぁ」苦笑するウィスカ。「でもね、ちゃんと全部管理してるんだなぁ、これが」
「え、でも、異世界に竜毒が……」
「たはは……あんまりおおっぴらには言えないんだけど、団は裏の人たちに流してるんだ、『竜宿し』用の葉っぱを」
「えっ!」ズィーがぎょっと驚く。「それ、俺も初耳なんだけど! てか、押収とやってること逆じゃん」
「あたしも、あたしも! なんで、なんで!」
住人であるシァンまでも驚くところ見ると、『夜霧』に関することのように秘密裏に行われていることらしい。と思われたが。
「いや、シァン、大人たちにとっては常識なのよ。異空旅するなら、もうちょっと周りを見ないと」
「えっ、みんな知ってんの!?」
「暗黙の了解。口にしちゃ駄目だからね」
「あ」姉に言われて、両手で口をふさぐ素振りを見せる。「うん」
「でも、どうしてそんなことを?」セラは口調こそ控えめだが、責めるように言う。「そのせいで他の世界の、奴隷にされた人たちが……」
「……」ウィスカはバツが悪そうに言う。「確かに、そういう人たちには悪いと思ってる。でも、この世界の一番の収入はそういう汚いお金なの。元々それで異空での地位を築いてきたからね、虹架諸島は。旅行者も増えたけど、それでもね……なかなか抜けれないのよ。もちろん、ズィプくんが言った通り、許可されている以上の『竜宿し』を作ったら押収してる。それがせめてもの罪滅ぼしなのかもね……」
「そう、なんですか……」
「がっかりさせちゃったね。でも仕方ないんだ。ごめんね」
「いえ、ウィスカさんが悪いわけじゃ……」
「悪いよ。悪い。どうにかしないといけないんだよ、こっちもね」
「こっちも?」ズィーが首を傾げる。「他にもやばいことがあるんすか? スウィン・クレ・メージュ、意外と闇あるな……」
「あ、いや、もう一個は解決してるっていえば、してるんだ。二人も関わってるんだよ」
わずかに微笑むスウィンにセラとズィーは二人して声を上げて訝しんだ。
その答えを出したのはシァンだった。
「『蒼白大戦争』!」
「え、なんだって?」
ズィーはその言葉すら初めて聞いたというふうに聞き返す。実際初めて聞いたのだろう。
「もう、ズィー……。ビュソノータスでの戦いのことよ。破界者の襲来からはじまった大戦争。今ではそう呼ぶのよ」
「へぇ~、知らなかった。確かに俺たちが関わってるけど、それがどう繋がるんだ?」
セラに問う視線を向けるズィー。彼女はそれを受け継ぎながらも確信を持ってウィスカに目を向けた。
「破界者は竜人ですよね。特徴が合致しますし」
「はっ!? あいつ竜人だったのかよっ」
「そう。破壊者と呼ばれた男。ディーク・ノ・グラドは逆鱗花の葉を大量に摂取した竜人の末路
よ」




