242:咆哮、再び。
オーウィンと竜骨刀が離れる。
無傷の銀と、砕かれ亀裂の入った白。
ジュサの竜の眼は未だ見開かれ、形の変わった自身の大剣を見ていた。
「おいおい、戦いの最中だぜっ!」
ズィーが高々と跳び上がり、後方よりジュサを狙う。静かにできないものかと思うセラ。だが、ジュサの戦意は大きく削がれていた。この攻撃は決まるだろうとも思った。
「……っく!」
ただただ防ごうとして大剣を振り上げる竜人。そこにセラのものよりも真っ直ぐで力強い太刀筋。
いくら竜骨刀と言えども、ひび割れてしまえばその特性も半減だ。スッパリと真っ二つ。
スヴァニはそのまま敵の主を一刀両断。周りのグラド一家の竜人たちがどよめく。
が、鮮血は飛び散らなかった。
スヴァニを納めるズィー。外在力も解き、残るは竜化のみとなった。それだけは自分の意思で終わらせることが出来ないのだろう。セラもジュサの背後でオーウィンを背負う。
「っ!」
死の一端を体感したジュサが我に返り息を呑んだ。すると、その渦を巻いた角の片方がカツンと軽い音を立てて斬れた。
落ちてゆく、角の切れ端。見事な斬り口だ。
「……なぜ、斬らなかった」
憎々し気にズィーを睨む竜の目。
「あ? まあ、色々あんだよ、俺にも。それによ、あんた殺したら、ワィバーが怒るだろ。そうすっと、ますます竜毒手に入らなくなる。よな、セラ?」
「うん」
セラは笑顔で頷いた。目的のこともそうだが、彼が命について考えてくれていたということが嬉しかったのだ。
「あんたを人質……は駄目か、結局怒らせるし。うーんと、協力? そう、あんたには協力してもらった方が竜毒が手に入りそうだと思ったんだよ。娘が言えば、ワィバーだって断らねえだろ?」
「ふんっ、どうかな。オヤジはそんな甘くねえぜ。相手が娘でもだ。アジトに行ったところで、アタイ共々お前らを始末するかもな」
「っげ、マジかよ。そんな親なんているか?」とズィーはセラに訝る顔を向ける。
セラは首を傾げる。彼女にとって親という存在は、子に対してそのような対応をするものではなかった。セラは両親はおろか兄と姉にも恵まれていたからね。
「ワィバー・ノ・グラドはそういう男だ」
「んー、じゃあどうっすか……とりあえずデラバンのとこ連れてくか……」
そう考え込んで、ズィーはセラに尋ねるように視線を向けてくる。
「わたしはここ初めてだから、ズィーに任せるよ。知り合いがいるならそこでゆっくり話を聞きたい。『夜霧』のこと」
「そうだな。ゆっくり話聞くのにここじゃな」ズィーは辺りを見回した。そして未だに宙で羽ばたく竜人たちに向かって。「おい、お前たち! ジュサは連れてく! ボスに伝えろ、もう一度話がしたいって!」
言って、ズィーはセラとジュサに手を触れた。そして跳ぶ。
ズィーのナパードで行き着いた先は、多くの竜人が忙しく動き回る広い建物だった。セラが最初に訪れたカフェよりも広い。
大抵の竜人がみんなして同じ服装で、セラはマグリアの警邏隊を想起した。スウィン・クレ・メージュのそういった組織の拠点といったところだろう。
ぶぼぉぉおぉぉおぉぉぉん――!
セラたちの関わっていた戦いが終わったからだろう、警笛が鳴り響き、次いで抗争が終わったことが咆哮で数度告げられた。その中でも、竜人たちはせかせかと動き回っていた。
「あ、ちょっと」
ズィーが近くを通りかかった女性に声をかけた。彼女はこの場では珍しい私服だった、そのうえ完全な竜人ではなかった。
「ぁ」そう、セラが知るハーフの竜人だった。
「デラバンっている?」
「ごめん、あたし団員じゃな……あ!」
急いでいるようで、視線を向けながら応えた彼女、シァンはそこでセラの存在を捉えた。
「セラ!?」
そしてセラとズィーに挟まれる形のもう一人を認識して、驚愕する。
「ジュサ・ノ・グラドぉぉっ!!?」
その大声はまるで咆哮。建物中の視線が四人に集まった。




