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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第一章 碧き舞い花
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22:司書と司書補佐官

「ちょっとした、悪戯心で……テイヤスちゃんだと思ってぇ……許してぇ、除霊しないでくしゃい……ひっく、ひっく……」

「あ、いや。わたし、別に除霊とか……って」

 あまりにも目の前の女性が悲しそうにするものだからバツが悪くなったセラはその手を離した。ユフォンにしても、突然姿が見えるようになった彼女に対しての驚きを忘れてしまっている。

「「除霊?」」

 セラとユフォンは図ったように同時に声を上げた。

「……あなたたち、除霊師じゃ、ない、ですか?」

 灰銀髪の女は胸の前で手を合わせて恐る恐る確認する。

「僕は筆師で、彼女は異空の旅人さ」ユフォンが代表して答える。「あなたは?」

「わたしは、ひっく、ヒュエリ・ティー。アルバト・カフ先生から司書の仕事引き継いだの」

「! ってことは、あなたが二代目の魔導賢者? わたし、マカを学びに来たの。教えてもらえますか?」

「魔導賢者?」セラが尋ねるとヒュエリは首を傾げる。

「違うんですか?」

「う~ん……先生はそんなこと言ってなかったなぁ。でもでも、マカを教えることは出来ますよ。なんたってわたし、先生の一番弟子ですからね。先生はすごいんですよ。えーっと、異界人のあなたは知らないと思うんですけど、筆師の君は知ってるでしょ?」

「ええ、まあ。今のドルンシャ帝にマカを教えた人でしょ? あ、ちなみに、僕はユフォンで彼女はセラ」

「そうそう、そうなの!」ヒュエリはユフォンに迫るように立ち上がる。「先生は偉大なの! ドルンシャ帝がマグリアの頂に立てているのも先生のおかげなんですから! 知ってます? ドルンシャ帝は魔導学院の落ちこぼれだったんですよ! それを、先生が帝にまで教え上げたんです。ねっ! すごいでしょ!」

「へぇ~、それは初耳だなぁ。覚えておこう、ドルンシャ帝を主人公に面白い物語が書けるかもしれない。ヒュエリさん、他には何かドルンシャ帝について、あまり知られていない事実はありますか?」

「へ? さぁ、わたしは先生のことしか興味ないので……」

 さっきまでの熱の入れようは嘘だったかのように弱々しく言って、ヒュエリはユフォンかと距離を取った。ドルンシャ帝の物語を書くには別の人に取材が必要な様だった。

 ここで、置いてきぼりだったセラが口を開く。

「あの、さっきの話だとマカ、教えてもらえるんですよね?」

「ええ。先生もそういうことをしていたのならわたしだってやります」

「……。だとしたら、わたし、時間がないので早速教えてください」

「うーん……ごめんなさい、すぐには無理なんです。すみましぇん……」

 ヒュエリはまたも涙目になり始めた。

「ぁ、いやあ……わたしの方こそ、なんか、ごめんなさい」

 何故だかセラまで及び腰になって謝罪する始末。

「ヒュエリさーん。誰か来てるんですか?」

 少女と女性が頭を下げ合っていると階段の方から声が響いてきた。

「テイヤスちゃんだ」ヒュエリはそう楽しそうに呟くと、じわりとその姿を消した。ユフォンは辺りをキョロキョロと見回すが、セラの瞳にはしっかりと彼女の姿見えていた。一度超感覚で捉えたから見失わずに追跡できるのだ。

 セラの視線が階段の方へ向いたところで、階段から青黒い髪をきっちりと後ろで縛った丸メガネの、ユフォンと同じくらいの歳の女が現れた。

 女は「ヒュエリさん?」と言ったところでセラとユフォンを捉えた。そして、彼女とユフォンは互いに目を合わせると時間が止まったように目を見開いたまま動かなくなった。二人の間に何かしらの関係があるのだろうとセラが思っていたところに、空気というものを全く読まずにその声は響いた。

「ばあぁっ!」

「ひゃっ!!」

 自らの後ろからの突然の声に女の時間が動き出す。高く跳び上がり、振り向くと手元を青白く光らせ壁に向かって振った。彼女手からは水の球が放たれ、階段の壁を激しく濡らした。

「ひゃぁあ~……ごみぇんなさ~い……」

 声と共に女の傍らにすがるように、涙目で姿を現したヒュエリ。そんな姿をセラは呆然と見つめていた。

「ヒュエリさん! また必要もないのに幽体化ですか! やめてくださいよっ!」

「ひぃ~……ごめんなしゃい。体、探してきます~……」ヒュエリは退くように消えた。

「はぁ……」女はヒュエリが消えると溜め息を吐いた。「そして! なんであなたがこんなところにいるの? ユフォン・ホイコントロ」

「ははっ。僕は彼女の付き添いさ。テイヤス・ローズン。彼女、セラだ。異界の人。そして、セラ、この人は――」

「いい、自己紹介ぐらいできるわ、あなたは黙ってて」

「はひぃ……」ユフォンは本日二度目の情けない声を上げた。

「テイヤス・ローズン司書補佐官。よろしく」

「セラフィ・ヴィザ・ジルェアス。セラで――」

「そう、セラフィさん」テイヤスはセラの言葉を遮りユフォンを目の端で捉える。「悪いことは言わない。この男に関わらないほうがいいですよ」

「ちょっ!」ユフォンはさっきの彼が嘘だったかのように勇ましく声を上げた。「言いがかりはよせ。僕を悪者扱いしてもらっちゃ困るな」

「なっ! 何を言うのこの男は! 採用試験よりデートを選ぶ男はどこをどう見たって悪者でしょ」

「いいだろ、別に。僕がいたら今君はここにいなかっただろうし……いや、僕が受けてなくても君がここに採用されるなんて思ってなかったけどね!」

「ふざけないで! あなたがいたって私が採用されてたわよ!」

「ふーん、よく言うよ。マカは僕よりできたとしても、知識で僕に勝ったことなんて一度もないくせに」

「そうね。学院時代はね。でも、今は違うわ。マカも下手で試験も受けなかったあなたは下宿生活の筆師、魔闘士にはなれずとも試験に合格した私は魔導書館の司書補佐官。圧倒的差ね!」

「さあ、どうだかね」

「何よ!」

 二人の口喧嘩はここで睨み合いへと進展した。セラはまたしても置いてけぼりだ。

「じゃっじゃーん! 到着ぅ。あれ? あれれ?」

 睨み合う二人の間に割って現れたのはくっきりはっきりとした、足元まであるシックなローブを首から被ったヒュエリだった。

「テイヤスちゃんとユフォンくんはお知合いですか?」

「「学院の同期ですっ!」」

「そうでしたか。お友達ですね」

「「違いますっ!!」」

「ふぇ~ごめんなしゃい……。セラちゃん、助けてぇ……」

 涙を目に浮かべた魔導書館司書は異界の少女の後ろに隠れるのだった。

「あっははは……」

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