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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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227:真摯な男

「言われなくてもそうするつもりだっ!」

 そう言いながらも剣を構え突撃してくるラスドール。マカの剣は炎を纏った。だが、それが見せかけの攻撃だと、セラの感覚は捉えていた。派手さに目を取られてはいけない。

 見るべきは剣を待たないもう一方の手だ。

 そこに体内の魔素が集まっている。かなりの量だ。が、目で見ることは出来ない。上手く輝きを抑え込んでいるようだ。

 ラスドールはワールマグの開拓士団護衛魔闘士だとユフォンは言っていた。フェズという規格外の存在は除いたとして、その実力はマグリアの護衛魔闘士に比肩するだろう。単純な活力や魔素量だけで言えば、今、目の前にいる者は彼女の知る四年前のジュメニより、強い力を持っている。

 目前と迫ったその瞬間、魔闘士の手がやっと輝きを放った。同時にその拳は暴風によって包まれた。

「風っ!」

 彼女はその判断と共に、顔面目がけて飛んできた拳を躱す。鋭い風が彼女の頬を裂いた。だがそんなことを気にすることはなく、セラはオーウィンを振った。第二撃として襲い掛かる火炎を纏う剣から身を守る。

「くそっ! 読まれたかっ!」

 悔しそうにするラスドールだったが、攻撃の手を止めなかった。第三、第四と連撃は続く。それに対してセラはただただ防ぎ、避けるを繰り返す。特殊な技は何ひとつ使わずにだ。

「おいおいどうしたセラっ! 挑発してきたのはそっちだぞ、おいっ!」

 あまりにも防戦一方なセラにラスドールは憤りを感じはじめてらしい。しかしそれでも攻撃は精確だった。しっかりと冷静さは残しているようだ。

 そんな観察をこなしながら、セラは集中を高めていた。

 この激しい攻撃の中でも思惟放斬を使えるようにならなければ。戦いとて彼女にとっては修行場だ。いつ何時だって向上心を忘れることはなかった。

 斬るのは……。

 そう。

 ラスドールの手に握られた棍棒だ。

 恐らく、実戦ではここまで余裕を持って集中することは出来ない。今はそれでいい。実力者のめくるめく攻めを相手に、思惟放斬を可能にするために一歩一歩進んでいく。いずれ、わずかな集中で遠方の一本の竹を斬り倒したシズナの域まで達するその時を迎えれば。

「そろそろマジでキレるぞ!」

「マジで斬れる……」

 セラは呟いて一歩退いた。

 オーウィンに薄く鋭い魔素を纏わせ、振り上げた。

「ぅわっ!?」

 ラスドールが突然の飛ぶ斬撃に剣を体の前に構えた。良い反応だとセラは思った。

「っく……」

 ガスッ……。

 棍棒に切れ込みが入った。だがそこまでだった。それより先は力によるへし折り。斬り口はささくれ立ち、斬ったとはお世辞にも言えるものではなかった。

「なにっ!? うぁあああっ!」

 棍棒が折られたことで仰け反った魔闘士に、消えずに残っていたマカの斬撃が向かっていった。彼の驚きの声に反して、何ひとつ傷つけることなくその身体を通り抜けていった。

「……ん?」

 身体をまさぐり、傷がないことに驚きと疑問の表情を浮かべるラスドール。セラに問い掛けるように視線を向ける。

「そういう技なの。斬れてなくて正解」

 セラはオーウィンを納めた。戦いは終わりだろう。ラスドールもそう思ったらしく、手に纏っていた風を発散させた。

「てこたぁ、俺を斬ろうとしたら、斬れてたんだな?」

 ラスドールはセラの短い説明だけで、思惟放斬がどんなものかを理解したらしい。

「そんなことしないけど、そう」

「っけ、簡単に言いやがる。つまり、殺し合いだったとしたら、あれで終わってた、だろ?」

「まあ、本気でやったらそうなるね」

「っけ、これが渡界人か。こんなに遠い存在だったとはな」

「そんなことないよ。わたしなんてまだまだ」

「嫌味かっ……って、さっきから折れた棍棒見てるけど、なんだよ?」

 荒々しく折れた棍棒。

 サファイアは魔闘士の手に握られたその片割れを映していた。

 斬撃はラスドールまで届いた。そのうえで、棍棒は斬れなかった。勢いはあったが、斬るという意思が弱かった、もしくは彼の作り出した棍棒の硬度が高かった。考えられる理由だった。

「わたしもまだまだだなって」

 セラはそう言って、ラスドールに向けて笑みを見せた。

「はぁん? だから嫌味かよっ!」

 厳つい顔で睨んでくるが、その口角は上がっていた。

 見ず知らずの者が見ればやはり恐怖を覚えるだろう。だが、この短時間手合せも含めて彼と交流したセラには分かる。この人は顔や声、態度こそ相手に畏怖を与えるが、心根は純真な戦士なのだと。

 子どものころに憧れた英雄を超えようと鍛錬を積み続ける努力家。熱しやすい単純な性格かと思えば、冷静に状況を判断する。

「嫌味じゃないよ。本当にそう思ってる。渡界人に限らず、わたしより強い人はたくさんいるんだから」

「へぇ、んじゃ、その内その中に俺も入れるようにしないとな。セラの復讐の手伝いすんだ、そんくらいじゃねぇと」

「そうだね。頑張って、ラスドール」

 セラは否定しなかった。彼に嘘を言っても仕方ないだろうと考えたのだ。自らがセラよりも弱いということを真摯に受け止めた彼だ。変に持ち上げても喜ばないだろうと。

 この戦い、セラはかなり実力を抑えていた。ラスドールは確かに実力者だったが、それでも、今まで彼女が手合せをした仲間内の者に比べたら、大したことなかったと言えた。

 本気でやっていたら、思惟放斬の練習をする間もなく終わりを迎えていたことだろう。

「――っ!?」

 ラスドールに向けて笑顔を向けていた彼女は不意に鋭い表情で振り向いた。

 帝居の中に突然の争いの気配を感じた。

「離れてっ!」

 セラはその気配の近場にいた人々に向かって叫んだ。だが、ナパスの民ならともかく、言われてすぐにその場から距離を取れる者はそういない。

 壁が、ガラスが、人が盛大に飛び散った。

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