表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

219/535

215:ホワッグマーラに起きたこと

「んん゛っ! ジェルマド・カフ大先生!! お話してもよろしいでしょうか?」

 ヒュエリが低いところから老人にやんわりと喝を入れる。

「お? おお、そうか、そうじゃったな」

 セラから離れたジェルマドは心惜しそうな表情だ。ズィーがそれをジッとした目で睨んでいた。

「おい、爺さん。次そんなことしたらぶった斬るぞ」

「斬れるものなら斬ってみろ、小僧」

「ほぉーいったな? 思念体だか何だか知らねえけど、スパッと成仏させてやるよ」

「ぬかせ」

「あのっ!」二人の男の口喧嘩にヒュエリが声を張った。「わたしはお話がしたいんですけど!」

 頬を膨らませ、眉を吊り上げるが、その色素の薄い銀色の瞳には涙を湛えている。駄々をこねる子どものようだ。

「ほれ、ヒューに怒られてしまったわ。小僧のせいじゃ、まったく」

「……」

 ズィーは何か言いたそうな表情だったが、口は開かなかった。ホワッグマーラの状況を説明してもらうことに重きを置き、自重したのだろう。

「ヒュエリさん、お願いします」

 セラがようやくできた静聴の場が壊れてしまう前に司書を促した。

「はい」と頷き、ヒュエリはその小さにはあまりにも似合わない大人びた表情で、ホワッグマーラが現在置かれている状況を口にした。

「ホワッグマーラは今、その八割を異世界人に侵略されています」

「ホワッグマーラに攻め込むって、相当な軍事力が必要だろ? なぁ?」

 腕を組んだズィーがセラに確認するように訊いた。彼女はそれに頷く。

 異空にまでその名を轟かせるブレグをはじめ、ドルンシャ帝、フェズルシィといった天才、マグリア一都市だけでも大きな戦力を擁する。それに他都市にも一人開拓士団ヤーデンのように名の知れた魔闘士がいることだろう。

 なにより、ホワッグマーラにはあの『夜霧』でさえ手を出していない。

 それほどの世界に攻め込むなど無謀だ。

「違います」ヒュエリは首を横に振った。「侵攻ではなく、侵略です」

 渡界人の考えを訂正し、司書は続ける。

「攻め込まれたわけではないんです、ホワッグマーラは……。だから、軍事力は必要ありません」

 ヒュエリは表情を暗くし、現状に至るまでの出来事を説明し始めた。


 事の発端は第十八回魔導・闘技トーナメント大会が始まる前に遡るだろうと、ヒュエリは言った。今となっては確認のしようがないため、推理してのおおよその見解だと前置きをして彼女は始まりを語った。

 侵略者は大会開催に際して行われるマグリア警邏隊の検問や巡回警邏の目に触れることなく、マグリアにやってきた。そうして大会とは無縁であった無名の魔闘士に()()()()()

 そして大会が終わり、帝居でのパーティ。侵略者はその魔闘士から、マグリアを治める男へと器を変えたのだった。セラが遭遇した帝居での出来事だ。

 その後、帝は自室に籠り、帝居での盗難事件が発覚したマグリア。浮足立つ都市で、じんわりと時間をかけて侵略が行われていった。

 はじめに帝居に勤める魔闘士とその家族が()()()()()()。それからその家族と関わりのある者たちへと連鎖していき、さらに別の人へとネズミ算的に侵略者は支配下の人間を増やしていった。器を変えるのではなく、増やしていったのだ。

 そして発覚したときにはマグリアの大半が侵略者の手に落ちていた。


 事態が発覚したのは大会が幕を閉じてから一か月ほど経った頃のことだった。ここからは実際にヒュエリが見聞きしたことだそうだ。

 知人がおかしいという相談が警邏隊に持ち込まれるようになった。それも日に数件も。未だに帝居からの盗難の件で慌ただしかった警邏隊だったが、一つ一つの相談に親身になって応えた。にもかかわらず、数日後には相談者が相談をしていないと言い張る事態が起こった。

 何かが起こっているとブレグ隊長が直々に動き出したが、そこでブレグが奪われた。不幸中の幸いと言えたのが、ドードがブレグと行動を共にしていたことだった。

 彼がいたからこそ、侵略者の正体、手口が分かったのだ。もちろん二代目魔導賢者、ヒュエリ・ティーによって。


 その後、この事態をマグリアに留めようとヒュエリは考えたのだが、すでに遅かった。彼女が事態を把握し、理解した時には他の都市にも侵略者の手は伸びていたのだ。

 しかし彼女は諦めず、ユフォンとドードと共に未だ安全と思われる都市を回り、緊急事態を広めた。そのおかげで世界の二割を守れてはいるものの、それも時間の問題だという。

 そして司書がしたことは自世界への対処だけではなかった。

 異世界から訪れる人々を守ったのだ。外界とホワッグマーラを行き来できる場所を限定し、侵略者を他世界へ向かわせないようにした。さらにその場に現れた異界人にはホワッグマーラで楽しく過ごしたという思い出を見せ、その場で帰した。

「渡界人の二人には効果がなかったみたいですけど」

 最後にわずかに笑ってそう言って、ヒュエリはホワッグマーラの現状についての説明を終えたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ