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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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207/535

204:プルサージの能力

 空間の穴は徐々に狭まり、跡形もなく消えた。

「わたくしを捕縛する? 舐めたことを言うものだな」

 セラは無言でオーウィンを体の前に構える。イソラも続いて鍔のない刀を逆手に構える。

「……数の利、地の利なら、こっちにあるんだぞ!」

 プルサージは言って懐からロープスを取り出す。

「蔵に戻すとでも?」とセラ。

 口角を上げるプルサージ。「もう、戻ってるじゃないか」

「ぇ?」

 セラは山高帽の言葉に耳を疑い、目を疑った。そこはすでに室内だったのだ。天井が高く、回廊が何層にも重なり、見事な吹き抜けを作る空間。壁や棚にはたくさんの武器がある。

『夜霧』の武器庫。

 彼女は突然にその内部に入っていた。

「どうして……?……イソラ?」

 辺りを見回すと、イソラの姿がない。気配すら。しかし目の前にプルサージはいた。山高帽のつばの奥に不敵に笑む瞳が覗く。よく見ると、その瞳孔は三重になっている。

「イソラはどこ」

「さぁて、消えたのは褐色の娘か、純白の娘か」

「何?」

「はたまたこのわたくしか……」

「!?」

 プルサージの身体が揺蕩い、薄れてゆく。そして、湯気のように消えていった。セラはすかさず彼のいた場所へと駆け寄った。気配は感じ取れる。

 誰もいない。

 巨大な空間にセラフィただ一人。

「?」

 誰もいない。そのことについてセラが疑問に思った矢先。ふと、背後に人の気配。プルサージの気配が消え、彼女のよく知る気配が現れた。そして彼女を呼ぶ声。

「セラ」

 そうだと分かりつつも、振り返った彼女は目を瞠る。「エァンダ」

 見た目から気配から、そこには兄弟子エァンダ・フィリィ・イクスィアの姿があった。悪魔に囚われる以前の眉目秀麗な姿だ。

「もうあいつを追い出したの? でも、どうしてここに?」

「もちろん、お前の気配を探ってな。どうしても――」

「ぇ?」

 気配が変わる。彼の姿が黒く、染まってゆく。声も悪魔のそれになった。

「お前を手に入れたかったんだ」

 セラはオーウィンを構える。どうしてこの場にいるのかは不明だが、目の前にいるのは異空の悪魔だ。それならば、兄弟子を救うために手を尽くそう。

 悪魔の手に刀が一本、黒き液体で作られる。その完成の前に、セラは斬り掛かった。

 完成前の剣をフクロウが打つ。

「っ!?」するとどうしたことだろう。悪魔=エァンダの姿が、ズィプガル・ピャストロンへと変わった。「ズィー!?」

「よっ」

「よっ、じゃないでしょ! 修行は? それより、なんで――」

 言いかけて頭を振るセラ。

 これは敵の術中。

 エァンダならもしくはと考えたセラだったが、ズィプがこの場にいるのは明らかにおかしい。突然に蔵に入ったことも。そしてイソラとルルフォーラを間違えた、ルルフォーラにされたものも恐らくはこれだと気づく。幻覚を見せる技。

「これがお前の能力……」セラはどこにいるかもわからぬ山高帽に向かって呟く。「そして、ルルフォーラが血を吸って得た力」

「ご明察」どこからともなくプルサージの声が響いてきた。「ルル様ならばもしくはわたくし並の幻覚を生み出せるかもしれませんが、さっきは視覚のみしか欺けなかった。……本家を味わうがいいさっ」

 巨人の目を欺くために適した能力。それで武器庫の管理を任されている。だが、それだけではない。

 侮れない。

 真実、その技量はセラの超感覚と気読術を意味のないものにしている。本人の身体能力は女であるセラとイソラに遠く及ばないものの、厄介な相手だ。

 幻覚のズィーから離れるセラ。気配も匂いもズィーそのものだが、そこまでも偽ることができるほどの技術ということだ。()()()だけに留まらないのが本家ということか。

「ここは幻の蔵ってことね。そして、わたしの知り合いに化けてるのがお前」

 オーウィンの切っ先をズィーの幻影に向け、そう言い放つ。

 本当の蔵には『夜霧』の兵が多くいるのだ。それが、ここにはいない。それもここが幻の空間だと言える理由の一つだろう。さすがに複雑な人間を大量に幻覚として作り出すことは不可能、もしくは難しい。だからもぬけの殻。先程浮かんだ疑問への答えが出た。

「ふふふふふ……ご明察」

 空間中から響く笑い声と共に、ズィーがプルサージへと変わり、さらにイソラへと変わった。

「今さらイソラになっても無駄!」

 セラは跳び掛かった。

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