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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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203:ウィスラーゼィオ

「っん……あんま美味しくなかったわ。でも、ありがと。使わせてもらうわ、あなたの力」

「お、お役に、立てて、何より……です。次こそは、武器の方もルル様に認められるものを仕入れておきます」

「よろしく頼むわよ」

 イソラがセラに教えるように呟く。「ロープスで出ていくみたい」

「わたしはこのまま仕事に向かおうと思うんだけど……ちょっとついて来て」

「はい……?」

 ロープスにより空間に穴が開く音がした。セラたちの後ろで。

「「!?」」

 二人は一斉に楕円の穴から離れ、臨戦態勢に入った。

「久しぶりね」ルルフォーラが優艶な微笑みと、山高帽の男と共に現れた。「一カ月ぶりくらい?」

「これは……!?」と山高帽の男が驚く。

 同時にイソラが呟く。「なんで……?」

「なんで? そうね、うまく隠れてたと思うわ、あなたたちは。気配を読めないわたしや蔵にいる人間じゃ気付けないのが普通よね。今度から気配を読めるのを置かないと駄目ね。まあ、それはともかく……血の匂いってどんなに努力したって消せないものよ。もちろん、ここはたくさんの血の匂いが混じってるけどね、一度飲んだことのある血の匂いは覚えてるのよ。特にあなたの血は――」

 ルルフォーラは月明かりを反射する燃えるような眼でサファイアを見てわざとらしく言葉を止めると、舌なめずり。

ウィスラーゼィオ(美味しいんだもの)

「っ!」セラはキッと求血姫を睨む。

「そんな怖い顔しな――っあら」

 ルルフォーラは唐突にセラの背後に回った。だが、今のセラは前回の用に抱き付かれはしない。振り向かず、オーウィンの切っ先だけを正確に相手の首筋に突きつけた。それに気付いたルルフォーラが動きを止めたことにより突き刺すには至らなかったが、その首筋からは血が滲み出す。

「いいのかしら、わたしに血を流させて。もしかして、このくらいなら平気だとか思ってるの?」

「もちろん」

「へぇ~……」

 気だるげなルルフォーラの声が横から聞こえてきた。それはイソラがいる方向だった。

「でも、あなたが剣を向けてるのって、お友達でしょ?」

 セラは求血姫の戯言だと思った。超感覚で捉えている背後の人物はルルフォーラなのだ。イソラのはずがない。しかし、声のした方向が気になり、彼女は目を向ける。そしてはっとなる。

 そこにはイソラではなく、ルルフォーラが惚けた笑みを浮かべて立っていた。

 そして――。

「セラ、お姉……ちゃん?」

「!?」

 セラはローブを翻し振り向くと目を疑った。首から血をじわりと流し、そこに立っていたのはイソラだったのだ。

 イソラとルルフォーラの位置が逆転していたのだ。超感覚では捉えられず、いつ変わったかもわからないうちに。視界で捉えた今もなお、目の前のイソラから感じるのはルルフォーラの匂い、鼓動、気配。

「うそ……ごめん、イソ、ラ……!?」

 わけがわからないままだが謝った彼女の目の前のイソラが突然にルルフォーラに変わった。視覚と他の感覚が一致する。

「あら……慣れが必要ね」

 ルルフォーラはそう独り言ちるとセラから距離を取った。ロープスの前では男が「上出来です、ルルフォーラ様」と声を発した。

「どうしたの、セラお姉ちゃん?」

 イソラが彼女の横に添うように駆け寄ってきた。元々イソラがいた場所からだ。匂いも鼓動も、気配もその姿と一致している。

「イソラ、ごめん。首、大丈……あれ?」

 セラは褐色の首筋に血はおろか、傷すらないことに首を傾げる。イソラも、そんな彼女に対して首を傾げる。それからルルフォーラに顔を向ける。

「セラお姉ちゃんに何したの!」

「さあ? わたしはずっと『碧き舞い花』の後ろに立ってただけじゃない。あなたも見てたでしょ?」

「……でも。でも! 何かしたに決まってる!」

「あら、ひどいわ」

 ルルフォーラは自身の背後に立っていただけ。その事実がセラには信じられなかったが、どうやらイソラの反応を見るとそうなのだと信じるしかないようだ。

 では、さっきのは何だったのだろうか。自分は夢でも見ていたのだろうか。感覚が狂わされたのだろうか。イソラが言うように何かをされたのは間違いないだろうが、いつの間にそんなことをされたのだろうか。

 彼女の頭は疑問に染まり始める。

「さて、わたしはそろそろ行かないといけないし、あなたたちの始末はプルサージたちに任せるとしましょうか。…………」

 求血姫はしばし悩んだ表情をして考えを巡らせているようだった。

「……個々は雑魚でも数は多いわけだし、まあ、大丈夫よね」闇を背にして立つ男に視線を向ける。「ああ、それ以前に蔵はあなたの領域なわけだし、大丈夫かしらねプルサージ」

「もちろんでございます」と頭を下げるプルサージと呼ばれた山高帽。

「逃げるのっ?」とイソラ。

「また今度戦ってあげるわよ。あなたが生きて自分の世界に帰れたら、そこでね」

 そう言いながら空間の穴に向かってふんわりと跳躍するルルフォーラ。イソラは「逃がさないっ!」と彼女を追おうとしたが、プルサージに行く手を阻まれる。

 闇に紛れていく桃色と朱色。

「あ、その子には気を付けなさいね、プルサージ。見てたからわかるでしょうけど、あなたの天敵ね、ふふっ」

「お任せください。いい案があります」

「そう、ならしっかりやりなさいね。失敗したらあの方が怒ってあなたを殺すわよ。わたしには関係ないことだけど」

「わ、分かっておりますとも!」

 かすかに声を震わせるプルサージ。

「あ、もしかしたらもう怒ってるかもしれないわね。この武器庫がばれちゃってるんだもの、ふふっ」

「……っ」

 消え際のルルフォーラの言葉に今度は大きく肩を震わせた山高帽。夜の帳の中、さらに深い闇の穴がいまだに残る。

「……お前らの首で、帳消しにしてもらう!」

「イソラ、こうなったら武器庫の機能停止――」

「そしてこいつの捕縛、だね」

 セラとイソラは互いに頷き合う。

 第一の目標は密かに敵の本拠地を知るところにあった。だが、ルルフォーラがこの場を離れたということは、敵に評議会が武器庫の存在を知っていると知られてしまうことになる。そうなった以上、武器庫の機能停止が最優先となる。だが本拠地への道のりを諦めない。拠点の頭である存在を捕虜とし、情報を引き出す。ゼィロスが最終手段として提示した作戦だった。

 二人はそれを実行することにしたのだった。

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