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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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201:繋がる二つの報告

「今のを聞いて繋がった」

 セラはそう言ってからまずは自分が得た情報をイソラに話し始める。

 二人の巨人は『夜霧』と協力関係にないだろう。まったくもって『夜霧』のメンバーと思われる者と顔を合わせず、連絡のやり取りすらしない二人にセラはそろそろ話を訊いてもいい頃合いかもしれないと思い始めていた。明日には直接顔を合わせようと。

 そんな日の夜だった。

 その日はいつも通り酒場で酒を飲む二人のもとに巨人籠を生業としているナロダロが交じり、三人で卓を囲んでいた。

「その人が来たのは別に珍しいことじゃないの。何日かに一回は二人とお酒を飲んでるのはこの目で見てるから」

「うん、それはあたしも訊いたよ」とイソラが頷く。

「いつもと違ったのはね、仕事の話をしたのよ。お酒を飲みながら」

 はじめ、ナロダロは二人といつも通りに楽し気に酒を飲み交わしていた。いいや、いつも通りではなかったのかもしれない。話を聞いた後に思い返せば、どこか上機嫌だった。

 そのうえで酒が入ったことで口が緩くなったのだろう。

 セラは事細かに、得意の物真似を交えてその時聴いた会話を再現してみせる。

「最近、本業より二人から借りた蔵の方が儲かってるよ」頬を緩ませ、ナロダロ。

「へぇ。どこの王族と契約したんだ?」と痩せたデデボロ。

「王族じゃないんだなぁ~、これが」

「ほん? じゃあ、貴族か?」と太ったロンドス。

「いやいや、貴族でもないんだ、これが」

「なんだ? まさか、最近モロモが噂してるようなことじゃないだろうな」

 デデボロは真剣な眼差しでナロダロを見た。ロンドスもだ。

「いやいやいや」大きく頭を振るナロダロ。「……実を言うとだなオラも詳しくは知らないんだ。とにかく金持ちなんだろうけど、自分たちのことは話さねぇ。金は払ってもらってるから、文句はねえけど。でも信じてくれ、物騒なもんは預かってない。ちゃんと搬入の時に確認してんだ、この目で」

 ナロダロは巨人ということを差し引いても大きな目をぱっちりと開いて示す。

「ま、ワテらもお前の仕事ぶりを知っとる。だからまた貸しをさせてるんだ」

「そうだ、そうだ」うんうんと頷くデデボロ。「ワイらはどうにも蔵ぁ造ることばっかだかんな。また貸し業を持ちかけられたときはなるほどと思ったもんだ」

「手入れと接客を一人でやってたら、手が回らねえ。蔵の質が落ちれば客も減る。そしたら新しい蔵も造れんくなる。その点、また貸しにすれば大きな修理が必要な時以外はお前に任せられる。良質な蔵を提供し続けられるってわけだ。まあ、少し儲けが減るがな。大したもんじゃない、なんせ蔵は増えてるんだからな」

 ロンドスはそう言って愉快に笑った。それにつられて残りの二人も笑い、その温かい笑いの渦が収まるとナロダロが話を再開させる。

「でよ。今日、その客の姫かお嬢さんかは分からんが、娘が来てな。これがぶったまげるくらいベッピンなんだよ! 蔵に塗る白土しらつちみてぇに真っ白な肌でよ! 金以外にも目が儲かるって話をしたかったんだ!!……ってそういや、この前、こっちは本業の話だがよ、巨人籠の客寄せしてる時にこれまたベッピンな娘を見たんだ! そういうことで考えると本業の方が目の儲けは多いか。乗せる王族やら貴族は金だけじゃなくて、見てくれもいいもん持ってるやつが多いんだ……いやあ、待てよ。待った。多いは言い過ぎだ。見てくれはむしろ極端だ。ピンからキリまで、じゃなくてピンかキリかだな~だはははははは~!」

 だいぶ酔いが回ったのか、この辺りから意味のない会話が混じり始め、その後は報告に値する会話は一切なかった。

 セラの話が終わるとイソラが口を開く。

「ベッピンな娘っていうのがあの女ってことだね」

「そう。ルルフォーラ」

「そして、セラお姉ちゃん」

「……ふざけないで、イソラ」

「ごめんっ」イソラはちろっと舌を出し、しまうと真剣な顔をする。「でも、ナロダロって人は物騒な物はないって言ったんだよね? どうしてだろう? 巨人たちは何も知らずに貸してるってことだよね、これ」

「たぶんそう」セラは小さく頷いてからイソラの瞳を見た。「イソラ。密売人から買った時は? どうだった?」

「もちろん剣とか鎧とかだったよ。それどころか、これまでずっと見てきたけど、蔵の中でも武器とか鎧とか物騒な物だよ」

「何か、わたしたちの知らない技術があるのかも……」

 セラは顎に指を掛け、思考を巡らせる。スウィ・フォリクァで出会った人たちの中にもそういった技を使う者はいなかった。まだまだ知らないことだらけだ。

「でも、それは蔵に物を入れるところを見れればはっきりするだろうし、今は置いておこう。ルルフォーラが来てるなら、グゥエンダヴィードに帰るかもしれない。明日からはわたしも一緒に蔵を監視するよ。巨人三人を追っても、もう意味ないだろうし」

 もちろん、ルルフォーラが本拠地に帰るという保証はない。新たな世界に侵攻するということを口にしていたのだから、そのままその地に向かうことだって考えられる。攻撃される世界には悪いが、今回は根源を絶つために『夜霧』を探ることが先決だ。ルルフォーラを止めたり、そこに出向き守ったりといったことは出来ない。セラはその世界に『夜霧』を退けることのできる強者がいることを願うばかりだった。

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