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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会
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188:紅蓮騎士の決心

 まだゼィロスはペルサ・カルサッサにいるだろうか。

 ビュソノータスからの旅立ちの日。

 セラは気読術を出来得る限りふんだんに宴会場へと向けた。記憶にある風景を思い浮かべ、それはもう酒の匂いがするのではないかと思うほど強く意識を集中させた。

「いない……か」

 ゼィロスの気配を感じることは出来ず、座っていたベッドに倒れ込む。それは伯父を発見できなかったことへの無念からではなく、そのまま眠ってしまいそうなくらいの疲労感が襲ってきたからだった。

 気読術を世界の外、異空に向けて使うということがそれほどまでに疲れることだということを彼女は学んだ。初心者だからであってほしい。数を重ねれば際限なく異空を探索できるようになってほしい。そうすればどこかへ行ってしまった兄弟子(エァンダ)を、『夜霧』に身を置く同胞の男(フェース)を探し出せる未来が近くなるはずだから。

 ……これは高望みだろうか。彼女がそう考えていると、不意に、そう、彼女の感覚が疲労で弱まっているその隙を突いてズィーの声がした。

「大丈夫か、セラ?」

 彼は部屋を覗き込むように扉から身を入れていた。その身はプライにより織られた雲海織りの衣装に包まれている。加えて言うと、セラの服も新しいものになっている。二人の服にはプライの粋な計らいか、互いが散らす花の色が主張しすぎない程度に配置されている。ズィーにはエメラルド、セラにはルビーだ。

「ぁ、ズィー」セラは起き上がる。「うん。大丈夫だよ。伯父さん、ペルサにはもういないみたい」

「俺が寝過ぎたせいかぁ~っ」

 ズィーは部屋にしっかりと入りながら、自らの額をペタッと叩いた。ちょうど幼き日の傷がある辺りだ。

「はぁ……」

 おどけたかと思ったら、ズィーは彼には似合わない深いため息を吐いた。セラは驚き、且つ心配になる。

「ズィーこそ、大丈夫?」

「あ、ああ。まぁ、な」

「何? らしくないよ?」

「俺、セラのこと守るとか言ってよ……」ズィーはセラの耳にその音が届くほど強く拳を握った。「全然ダメだった」

「そんなことっ! ズィーはわたしを庇って――」

「怪我して退場っ!!」

 彼は近場の壁を強く叩いた。その姿に、セラは先読みでその行動が分かっていたにも関わらず肩を震わせた。

「……悪ぃ」ズィーは拳を見つめる。「こんな気なかったのに……セラ見たら、やっぱ、さ……」

 彼女は彼のその姿を見ていいものかと、目を伏せた。

 鼻をすする音。頭を振る音。近付いてくる足音。彼はセラの隣、ベッドに背中から跳び込んだ。

 大きな揺れがセラのプラチナまで揺らす。セラは目を見開いて彼を見る。

「弱気は駄目だな! あははっ、こんなのいつか笑い話になるさ。姫を守る騎士が姫より先に退場! これからだ、これから!」

 ズィプは天井を見上げたまま笑っている。そのルビーの瞳を少しばかり潤ませながら。

「途中退場なんてしてたまるか。守ると決めた女はこの命尽きるまで守り抜く」

 セラは顔が熱くなるのを感じた。その恥ずかしさを隠すためか、咄嗟に枕を手にしてズィーの顔にやんわりと叩き付けた。

「ぶぇっ……!?」彼は枕を顔からどける。「なんだよ!?」

「……わたしに気負うな、って言ったの誰だっけ?」

 そっぽを向き、セラは言う。

 ズィーが体を起こす。「俺はいいんだよ。俺は」

「何それ」

「俺は気負うくらいじゃないと、怠けるからさ」

「……まぁ、確かに」

「否定しろよっ!」

「自分で言ったんじゃん」

「……っ」ズィーは短く息を吐く。「俺、ちょっと修行するよ」

「え? 何突然」

「突然じゃねえだろ。そういう流れだったろ。俺はお前を守れない。だから守るためにもっと強くなる。ゼィロスがペルサにいないってことはスウィ・フォリクァに戻るだろ?」

「うん、まあ」

「だから、そこでいったん別れよう。セラはゼィロス探すっていうか、評議会の仕事やってさ。俺は修行。まずはンベリカかな」

 ズィーは伸びをしながら立ち上がる。そして部屋を出て行こうとする。

「あぁ~教えてくれっかな、外在力の真骨頂」

「あ、ちょっと」セラも立ち上がり彼の後を追う。「ズィーだけずるい。わたしも一緒に修行するよ」

「あーダメダメ。ンベリカは俺だけに特別教えてくれたって、もう知ってんだろ?」

「そうだけど……。ぁ、二度と離れる気はないってマグリア出るとき言ったよね?」

「いや、そりゃ言葉の綾だろ。べったりするってことじゃないのくらいお前だってわかってんだろ」

「んー……」

 口を真一文字に結んで唸るように声を出すセラ。そのサファイアはジッとズィーを見る。

「……っ、はぁ、分かったよ。一緒に修行しよう」

「ほんとっ!」

「ああ。でも、外在力は絶対駄目だろうから。他の師匠のとこな。だから、俺がンベリカのところから戻るまで、一人で『夜霧』の調査してろよ?」

「うーん……しょうがない、か。じゃあそれで!」

 性格面での武器の一つである負けず嫌いや粘り強さといった、なかなかに折れない頑固さによって、セラはズィーとの修行を取り付けたのだった。

「じゃ、行こうぜ。サパルさんももう外で待ってる」

「うん」

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