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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会
188/535

185:八羽に託す戦い、願い、未来。

 惨劇の後、人々は我先にと逃げ出す。どこに逃げていいのかもわからず、ただただ惨事から離れようと躍起になる。

「ごめん、封印が、破られた……」

 サパルが申し訳なさそうに告げる。セラの腕の中、呼吸は浅い。封印が破られるということは相当に疲労困憊するものらしい。

「サパルさんはズィーのいるところで休んでください。……わたしが何とかします」

「セラ……無理は――」

「大丈夫です。行きますね。急がないともっと人が死んじゃう」セラはサパルをゆっくりと地面に寝かせ、念を押す。「休んでください」

 見つめる鍵束の民の視線をサファイアで受けながら、彼女は狼狽え乱雑に走り回る人々の中心へと向かって跳んだ。


「あぁ……生きていて何よりだ」彼女が姿を現すと、悪魔は微笑んだ。「霊長たる器を失ったかと、気が狂ってしまったよ」

 気配を読める悪魔のその態度にセラは憤りを感じる。「白々しい」

「赤々の間違いじゃないか?」

 口角を大きく上げて、悪魔は自らが立つその場を示す。惨殺された人々は体液だけを残し、姿を消していた。跡形もない。

 オーウィンとタェシェが強く握られて唸るような声を上げる。

「まさかここまで何度も邪魔が入るとは思ってもみなかった。しかし、だからこそと言っていい……お前が欲しいっ!」

 悪魔が迫る。二本の刀、否、尻尾にも刀を持ち三本の刀と共に。

 今のセラにはあの不可思議に漲った力はない。悪魔も弱ったと見て取れるが、一人ではどうにも敵わない。

 そう、一人では。

「なんだ、まだいたんじゃねえか、敵」

 ジュランが彼女に助太刀する。その顔には先程の作った笑みはない。

「帰る前に手伝ってやるよ」

 セラや悪魔に対して疲れがないのも手伝ってジュランの一撃一撃は剣が細いとは思えないほど重い。それはまるで、納得のいっていないビュソノータスの現状に対しての鬱憤を晴らしているようにセラには見えた。

「乗り切れば、帰る必要ないかもっ!」

「は? 何のことだよっ!」

「白々しぃっ」

 それは悪魔に対して放った言葉と同じだった。だが、セラは笑みを浮かべている。ジュランの加勢は彼女にとってエァンダの励ましに近い支えとなり、さらにこのことがビュソノータスが真の姿になるための大事な一歩になりえるだろうと感じていた。だから、笑った。

 久しぶりの共闘だというのに、二人の動きはピタリと噛み合う。疲労の少ないジュランが主に攻め込むが、彼が退いたとき、セラは悪魔を休ませることのないように前へ出る。そして彼女が悪魔の反撃を躱しながら下がるとジュランが間髪入れずに攻め込む。

「そうだ、ジュラン! 敵はこの人に寄生してる奴なの! だから、この人は殺さないで!」

「は? なんだそりゃ? 俺はプライじゃないぞ。そんな器用なことできっか、お前が勝手に止めろっ!」

「……ぁ、もうっ! ぅわっ」

 ジュランはセラの首根っこをやんわりと鷲掴みすると軽々と持ち上げて後ろに引いた。そして、彼女と位置を変わるようにして悪魔の膨大なエネルギーの籠った三本の刀を六つの翼で受け止めた。その翼は彼の肉体のように屈強で、びくともしなかった。

「どうせなら四つくらい斬ってもいいんだぞ?」

 ジュランが翼の隙間から悪魔を挑発する。そして、翼を広げ悪魔を押し退ける。

「何っ……!」悪魔は飛ばされた勢いを宙で殺し、そのまま舞った。「クッ……」

「天原族と空で戦うか?」ジュランはセラを離して、羽ばたく。「つってもな、まだ飛ぶ感覚思い出しきれてねえんだ……その辺、手加減してくれるか? それとも逆に、ちょうどいいハンデか?」

 悪魔と同じ高さに向かいながら、またもジュランは悪魔を挑発する。それは自信からくるものなのか、溜まりに溜まった鬱憤からくるものなのか。

「いきなり出てきて、調子に乗るな」

 とにかく、冷静を装っているが悪魔は苛立ち始めている。エァンダが中からまた邪魔をするかもしれないということがあるのか、急いでいるようにも見える。

 今のセラに落孔蓋はない。瞬間瞬間にナパードで舞い、衝撃波のマカで調整をしつつ一撃ずつ剣を振るうことはできるだろうが、ジュランを見上げているとそれは必要ないようだと判断した。

 剣を握る力が弱まる。

 共に戦った方が確実に悪魔を弱らせることができるだろう。でも、彼女が周りを見ると、人々は皆等しく、空を見上げていた。

 声も上げず、祈るように、八羽と悪魔を見上げている。

 すでに全員が理解していたことだろう。ジュランが負ければ自らの命だけに留まらず、ビュソノータスそのものが危ないということを。彼が自分たちのために戦ってくれているということを。

 ジュランの八つの翼に彼ら願いが、ビュソノータスの未来が託された瞬間だった。

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