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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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180:適応する技術

 集中が切れた。

 それでもごくわずか。闘志は未だ途絶えることなく溢れてくる。

 悪魔に対しての恐怖が再び燻りだしたわけでもない。むしろ、今の自身ならばサパルの鍵なしでも悪魔を追い詰められる。サパルには封印だけしてもらえばいい。そういった考えが彼女の頭の中にはあった。

 それなのに、どうしてか流れが変わりつつあるのだと彼女は感じ取っていた。このままでは悪魔に優位を取られてしまうのではないかと。

 ここは一気に攻め込もう。反撃のチャンスを与えちゃいけない。セラはキュッと落孔蓋を鳴らし、駿馬で悪魔の懐に入った。身体に合った、比較的短いタェシェで斬り掛かる。そこから猛攻。攻めて、攻めて、攻める。

 しかしこの時の彼女はまだ知らなかった。すでに流れは変っていたのだと。

 攻めているのに、攻めきれず。

「何をしたかは知らんが、急激な変化に体がついていけていない」

「っ!?」セラは訝しむ。

「おいおい、何度も進化をしてきた俺が言うんだ。嘘じゃないさ」

「何をっ!」

「この傷」悪魔は瞳だけで自身の腹を示した。そこには今にも塞がろうとしている十字傷。「どうして浅かった?」

「……?」

「まさか、俺が身を引いたとでも思ってるんじゃないだろうな?」

「何が言いたい……!」

「距離感がズレていることに気付かないのか? 確かに最初はよかった。勢いに乗ってズレを感じさせなかった。だが腹を斬るしばらく前に狂い始め、今は駄目だ。わずかだが、俺相手では致命的なズレ。だが戦いの流れを大きく変えるズレだ。突然得た大きな力……調子に乗り過ぎたな」

「……っ」

 悪魔の言うことは戯言だ。セラはそう思う。思うようにする。だが、思うにつれ動きが鈍くなる。躱されていると思っていた攻撃が、実は的確に狙えていないのではないかと。

 体がついていけていない――。

 あらゆる「環境」に適応する技術である変態術の許容範囲である「環境」とは、自身の外のものすべてだ。自然に限らず、他者から受ける超自然的な力による変化も含まれているということ。その技術を会得している自分が体外からの変化に順応できていない? ということはエァンダがくれた闘志以外の何かしらの力は変態術を上回るものということ。悪魔と戦える力だ、そうであっても不思議はない。でも、順応できていないということは急を要する事態だ。早急に悪魔を弱らせなければ。なのに、もう、体は自分のものではないみたい。悔しいが、言われた通り身体と頭の感覚がズレているらしい。闇に捕らわれる前に戻りつつあるだけで、自身が弱体化しているわけではない。それでも、飛躍的に向上した能力がなくなるという反動はふり幅が大きい。余計に自分が弱って感じる。ズレを感じるのもそのせいだ。でも、まだ、貰った力は残っている。急がないと。ズレを想定しながら戦えばなんとかなる。急がないと。急がないと……。 

 思考の渦に巻き込まれてしまったセラ。次第に悪魔の反撃は増えていき、いつの間にか攻守は反転する。

 そして。

「活躍もここまでだな――セラ」

 悪魔に名を呼ばれたことでセラ思考は止まった。

 そして動きも。彼女の白き喉元に刃が届こうとしていた。

 一瞬の停止から戻ったセラはすんでのところでナパードを使い背後を取ろうと考えた。それしか考えられなかった。これしか、考える余裕がなかった。

 だが、悪手ではない。

 タイミングを見計らって……。

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