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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会
182/535

179:ゼィロスの三弟子

 碧き光と膨大なエネルギーが弾ける。

 高台にいた三部族をはじめとした人々はその爆風に目を閉じ、地面にしがみつくように力いっぱい屈んだ。

 セラと悪魔が押し合い圧し合う。

「封縛っ!」

 サパルが構えた鍵から一筋の光。目指すは悪魔の左脚。

「それは一度見たぞっ!」悪魔は翼を羽ばたかせ、光を躱す。そいて狙いをサパルに定める。「まずはお前を消す!」

「剛鉄鋼門!」自身を守るように扉を出すサパル。そこに悪魔の刀。「……っ!?」

 強固であろうその扉が歪む。サパルはそれに対処しようと別の鍵を取り出すが、対処すべきはそこではない。セラが彼の横に現れて、兄弟子の剣を受け止める。悪魔が尻尾を使いサパルを狙っていたのだ。

「ありがとう、セラ!」

「サパルさんは下がってください。隙を見て、弱くする鍵を使って」

 言って彼女はタェシェを押し返すと、未だに歪んでいく剛鉄鋼門に向かって衝撃波を放った。ちょうどよく、門が壊れ、二本の刀が彼女とサパルに迫るところだった。闘志に満ちた彼女の先読みだった。

 読める。

 エァンダの励ましは彼女に闘志のみならず勇気を与え、不安を取り除き精神を落ち着かせていた。動きは当然軽やかで滑らか、それでいて感覚はいつも以上に研ぎ澄まされていた。

 一体エァンダは何をしたのか。セラにはそんなことを考える余裕まであった。

 門を壊したかと思ったところに衝撃を受け仰け反る悪魔。セラはすかさず、その腹に蹴りを入れる。数歩後退った所に追い打ちを掛けるようにオーウィンを振りかざした。

 そしてギリギリまでそうすると見せかけておいて、相手に悟られることなく背後へと跳んだ。

「馬鹿なっ!?」

 悪魔の尻尾が飛ぶ。

「それはお前のじゃない」

 身体から離れて締まりが緩んだ尻尾。セラはそこからタェシェを抜き取った。

「!?」

 握った途端、カラスはその刀身をわずかに縮めた。まるで意思を持って彼女の身体に合わせるように。未知の技術で鍛えられた剣。主を救うために力を貸してくれているようだった。

 彼女の両手には兄弟子二人の愛剣が収まっている。それは大きな安心感と闘争心を与え、二刀流を試したことのない彼女だったが、慣れなど気にせずに体が赴くままにフクロウとカラスを振るう。

 その動きときたら初めてとは思えないもので、熟練した二刀流の使い手と名乗っても誰も疑問に思わないことだろう。

 セラと悪魔。互いに携える刀剣は同数。だが手数が違った。

 怒涛の攻めを見せるセラはまるで舞踊を楽しんでいるかのよう。対する悪魔は今まで見せたことのない焦燥の表情をその黒きエァンダの顔で作っていた。

 それでいて悪魔は尻尾以外の負傷はなく、やはりその強さの片鱗は残している。防戦一方といっても、うまく防いでいると言えた。耐えて、耐えて、反撃を狙っているようだ。

 だが、そうさせない勢いが今のセラフィにはあった。サパルが弱体化の鍵を使う暇もないほどの。

 受け継がれしナパスの戦士の技術のオンパレード。忙しく戦場に舞う碧き花々。

 そして、ついに、まずはオーウィンが悪魔の腹に傷をつけた。

 続いてタェシェが交差するように腹を斬る。

 悪魔がわずかに体を引いたようで浅かったが、はっきりとした傷が十字を描いている。

「っく!」

 悪魔は空へと飛翔する。間を置かず、セラも駆け上がる。二人の間隔は狭まることなく、激しく四本の刀剣が打ち合う。

 空間を余すことなく、目まぐるしく立ち回りながら二人は高く、蒼天を昇っていく。

 セラの感覚は地上を捉えていた。自分たちの戦いの余波が人々を襲わないように。悪魔が隙を突いて斬撃を飛ばさないように。

 そう、隙を突いて。

「どうした?」悪魔が発した。

 手負いのはずの悪魔の表情に余裕。転機を見つけたとばかりに口角を上げていた。そして、それを目で、感覚で捉えた彼女の頭には引っ掛かりが生じる。

 なんだ――?

 その表情への疑念。

 たったそれだけ。

 戦いというものを知らない者からすれば、そんなこと気にする必要があるのかと首を傾げたくなるような些細な事。

 それでも歴戦の戦士や手練れ同士の戦いになればなるほど、そういった些細なことで戦況は大きく流れを変えることがあるのだ。それを彼女はこの戦いで学ぶこととなった。

 セラの失速。それは唐突に訪れた。何の前触れもなく。

「っ!?」

 悪魔が流れるように地上へと刀を振り下ろした。目に見えぬ斬撃が、空間を裂いてゆく。

 どうして読めなかった――?

 疑問を浮かべつつも彼女は速さという概念の外、ナパードによって斬撃を追い越した。止め、弾き消す。

「っく!」

 また――……。

 今しがたまでその居所を捉えていたはずの悪魔が、既知の場所とは違うところにいた。彼女の真横だ。すぐに気付いたセラだったが、遅れを取った。刀を受け流しきれず、二の腕がわずかに裂けた。

 彼女がナパードで間合いを取り、戦いに小休止。

 セラに纏わるヴェールが、薄まったのを地上のサパルの瞳は映していた。

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