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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会
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174:エァンダを取り戻すために

「セラ。時間を稼いでくれ。僕に、いいや、エァンダに考えがある」

 オーウィンを体の前、右腕だけで構えたセラにサパルは言う。

「え? それって……」

「ああ、あいつは大丈夫だ」

「本当ですか!?」

「しっ! このことはあの生き物に知られたら駄目だ。あいつの油断、そして弱体化がエァンダの作戦の鍵だ」

 彼は先程友から返却された鍵束をじゃらんと鳴らした。それがまさに鍵だと言わんばかりだ。

「詳しく話してる時間はないけど、一人で戦えるかい?」

「……」

 セラは頷きたかったが、左肩を一瞥して言葉に躓く。エァンダと一つとなった怪物の腕は彼女一人で太刀打ちできるものだろうかということもあるが、それ以前に万全でない状態で戦えるか不安だった。

 そんな彼女を見てサパルは思い当たる節があったらしく思案顔になる。

「そういえば、腕を引いたとき痛がってたね」

「大丈夫です! 痛みは薬で抑え込めば戦えます!」

 指摘されて彼女は強がる。しかし、サパルは首を振る。

「君とエァンダが似てるのか、それとも渡界人全般がそうなのか。まったく背負いたがりだな。ま、あいつの場合は背負わせたがりでもあるけど」

「?」

「とにかく。大丈夫じゃないだろ? 折れてるんだね。応急処置だけど、左肩周辺を保持するように錠を掛けよう。感覚を閉じるのは戦いに支障を来すだろうから、痛みは君の薬で」

 言いながら、サパルはセラの左肩に一本の鍵を当てがって回した。すると今まで痛み以前に上がらなかった彼女の左肩が思った通りに動くようになった。可動域が戻ったのだ。

 動きを確認した彼女は鎮痛薬を服用する。サパルが言ったように、痛みは残っていた。

「なるべく、急ぐから、どうにか一人で耐えて」

「はい」

 返事をすると、自らが飛ばした怪物を睨み付けた。

 戦争が終わったと思っていた市場の戦士たちを血祭りに上げながら、ゆっくりと彼女に向かって来ていた。

 次第に引いていく痛み、反比例するように膨れ上がる集中。

 恐らく勝てないだろう。超感覚と気読術が教えるその差。痛みが引いたことではっきりと彼女には分かっていた。

 それでも、勝つ必要はないのだということも分かっている。時間稼ぎ、それと弱体化。それがいま彼女に与えられた果たすべきこと。勝つことを目的としないのならば、可能性はある。

 全てはエァンダを取り戻すために。

「はっ!」

 セラは自ら怪物との差を詰めた。駿馬だ。

 勝つことが目的でないにしても、勝つことを目的としていると相手に伝わらなければ意味がない。時間稼ぎをしていると知られることは、恐らく今の怪物の知能ではこちらが何かを企んでいるのだと察せられてしまう。それではエァンダの作戦が失敗に終わってしまう。

 だから、作戦は片隅に。

 どのみち、全力でやらなければ時間稼ぎすらできないだろう。

 フクロウとカラスが激しくぶつかり合う。何度も、何度も。

 先の読み合い。

「いいのかぁ? こいつを助けるんだろ? 殺せば、死ぬぞ。この体だけがな」

「……」

 セラに会話の余裕はなかった。集中を切らせば、身を斬らせることになる。

「必死だな」

 互いに相手を斬り付けることは叶わず、次第に剣術の域を超えていく。セラはナパードやマカを交え始め、怪物は彼女の知らぬ力や、エァンダでは有り得ない関節の動きなどを見せる。

 怪物の使う力はドクター・クュンゼが使った生体サンプルから得たもの、異空での寄生の繰り返しで得たもの、それに加えてエァンダが持っていたものだ。しかし、エァンダの能力は完全ではないのか、それとも難度が高いのか、彼女が体験した時が止まって感じたあの技術を使う様子はない。ナパードもまた、そもそも持っていた瞬間移動術に慣れているのか使ってこない。

「これならどうだっ?」

 エァンダの身体から黒い液体が数滴、セラに向かって放たれた。その速さはビュソノータスのピストルを遥に超える。

 だが近距離でのその攻撃をセラは読んでいた。何かが飛んでくると。だから、体を捻りながら後転した。高々と上がった彼女の脚の隙間を黒い球が通っていく。

「ほう、避けるか。だが、戻ってきたらどうする?」

 目では追えぬ速さで飛んでいた黒が、未だ地面に手を着く彼女に向かって戻ってくる。この体勢で彼女にできることといったら、ナパードだけだった。

 頭を下に向けたまま、セラフィは空に舞った。後転の勢いは続き、彼女は宙に足を着く。まだ、サパルの落孔蓋(らっこうがい)の効果は続いているようだった。

 こうして、再び空中戦がはじまる。

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