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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会
172/535

169:梟と烏

「っか……ぁ…………」

 呑んだ息が彼女の口から出て行った。衝撃から逃るように。

 血を吐くことはなかったが、彼女の耳には体の内側から衝撃の大きさには似合わないほど軽快な音が聞こえた。

 どこかの骨が折れた。

 戦いの興奮からか、不思議と痛みはなかった。それよりも、彼女のサファイアは蒼き空に共鳴するように輝いていた。

 そこに入る黒き影。

 もちろん、怪物だ。

 大きな衝撃を受けた彼女だったが意外にも軽やかに立ち上がり、剣とかした怪物の腕を受け流した。そのまま流れるように地面を転がり、怪物の懐から飛び出る。

 出たかと思うと駿馬でステップ。近くにあった壁を蹴り、回り込むようにして怪物の脇腹を裂いた。

 浅い。

 敵もそれを知ってか、彼女の攻撃を防ごうともしなかった。

 セラは斬り返す。

 オーウィンが怪物の手に納まり、止まる。だが、彼女の目はまだ、防御に転じる意思を見せず。攻撃的に輝いている。

 剣から片手を放すと、その手から衝撃波を放つ。狙うのは怪物の足。足払いだ。

 怪物は目に見えない衝撃波を跳んで躱し、宙で翼を一度羽ばたかせる。

「そうすると思った」

 セラは得意顔で口角を上げた。そして素早くかがむと怪物の視線から外れる。そんな彼女を怪物の顔が追うが、すぐに何かに気付いて顔を上げる。

 エァンダだ。

 駆けて来た彼はタェシェを空高く投げると、セラの背中に手を着いて回転しながら大振りの蹴りを怪物の肩に落とした。

 宙に浮いた形だった怪物は、反応できずに甘んじて攻撃を受けた。大地に屈する。オーウィンを掴んでいた手の力も弱まり、剣は主の支配下に完全に戻った。

 それは黒き剣も同じで、蒼天を遊泳してきた黒き鳥は示し合わせたかのように主人の手に納まる。

封縛ふうばくっ!」

「グゥ……ッ」

 サパルの声がすると一筋の光が怪物に刺さった。殺傷が目的のものではないらしく、傷ついた様子はない。しかし怪物の体から力が抜けた、否、力が入らないようだった。

 それは魔導・闘技トーナメントでポルトーがズィプに対して行ったものと同じもののようだった。それでいて、サパルの場合は直接相手の体に鍵をつける必要がないらしかった。

 ここが好機。

 下にはセラ。上にはエァンダ。

 フクロウとカラスに挟まれた怪物。

 逃げ場もなければ、防ぎようもない。

 二人のナパスの民はここで勝負を決める想いのもと、同時に剣を振るった。

 怪物が黒い血を噴き出す。胸部と背部。大量の血だ。

 今まで吸収してきたものを吐き出すかの如く。

 その血がセラの白い肌を、エァンダの端正な顔を汚す。

 セラはすぐさま怪物から距離を取り、付着した粘り気のある液体を払い落した。さらには傷口から体内へ入ってしまったかも知れぬと、漂流地の渡界人クァスティアから貰った薬カバンから薄黒い半透明の液体を取り出した。親指程の小瓶に黒いものが沈殿している。

 彼女はそれを全体が黒くなるように振ってから、一気に飲み干した。

 黒で黒を制す。セラ特製の強力な解毒剤だ。マグリアで思いもよらずにできた休息、その時の読書への没頭の賜物だった。


 この解毒薬、解毒薬とは言ったものの、そこらの人が飲めばひとたまりもない劇毒。クァイ・バルで変態術を会得した彼女だからこそ薬効を持つというものだ。つまり彼女特製であり、彼女専用と言っていいものだ。

 ちなみに主な原材料はオウゴンシタテングタケの胞子と黒酒だ。胞子の毒も『霊誘う酒』の前では力を発揮できないようだ。というより、製作の過程でアルコールと一緒に毒性も飛んでいってしまうようだ。

 彼女の場合は大丈夫だけど、胞子を吸わないようにしながら、他にも少しずつ薬草を調合して出来た粉末を黒酒に入れてアルコールが飛ぶまで火にかけたら完成。

 実際は複雑な手順があるようだけど、薬草術のことは僕にはいまいちわからないから、このくらいの説明しかできないのは了承してもらいたい。


 では、物語に戻ろう。

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