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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会
170/535

167:到来

「施術室、解錠! セラ! ズィプを中に!」

「は、はい!」

 サパルに言われるがまま、出現した淡い緑色の光を放つ扉の中にズィーの肩を抱きながら共に入るセラ。そこはとても暖かく、彼女の小さな傷がむず痒く、少しだけ治っていく。

「ここでしばらく安静にしてれば死なないはずだ。この戦いには戻れないだろうけど」

 後ろから入ってきたサパルが優しく、それでいて申し訳なさそうに言う。

「僕がもっと早く着いていれば……」

「サパルさんのせいじゃない。セラが不注意だったのが悪い」

「えっ!?」

 ズィーは確かなことを言っているのだが、この状況で冗談じみた物言いをする彼に彼女は素っ頓狂な声を上げた。

「……そんなこと言えるんなら大丈夫だね、お大事にっ」

 安心しながらも、セラは減らず口を叩く彼の肩を叩いた。

「いってぇな! 怪我人だぞ!」

「わたしだって怪我してる。みんなもそう。でも、怪我ならいいよ。命がある。この戦いで、どれだけの人が命を落としたのか……」

「おい、セラ」ズィーが彼女の肩を小突いた。「気負うなよ。悪い癖だ、お前の」

「……」

「行こう、セラ。さすがにエァンダでもきついだろう」

「……うん」

 頷いて、ルビーを強く見つめてからセラは部屋を出た。


 後ろで扉が消える。

 ズィーのことはもう大丈夫だろう。

 ――気負うなよ。

 彼の言葉を身に浸透させる。

 かと言って、セラが倒れていった者たちのことを忘れることなどない。彼女はそういう人だ。

 生物の血で黒くなったオーウィンを一振りして撫でる。

「ビズ兄様……」

 一瞬の出来事だったにしろ、兄を感じた一撃だった。エァンダが呟いたほどだ、さほど動きが重なっていたのだろう。彼女自身そう感じるほどに。

 もう一度力を貸して。心で呟いて、セラフィは空を見上げた。

 そこでは兄弟子と寄生生物がさも地上で戦っているかのように立ち回っていた。しかも、兄弟子は二人。『白旗』の攻撃に対して見せた分化というやつだ。

「二人ともっ! 見てないで入って、来い! これ、二倍疲れる!!」

 空から文句が降ってきた。

 どうやら分化はただ単に自分が二人になるという便利な技術ではないようだ。分かれたぶん、疲労する。

「悪い! すぐに加勢するよ」サパルが応え、セラを見た。「セラ、君は空中で戦える?」

「ううん。一瞬動くのはできるけど、ずっと浮かぶのは無理……」

「分かった。君の足場は僕が作るから、安心して戦いに集中して」

「はい」

 サパルは鍵を一つ二つと手にすると、片方をセラの足元に向かって回した。

落孔蓋(らっこうがい)、施錠。行って。僕は下から援護する。二人と一緒の前線なんてのは無理そうだからね」

 セラは黙って頷き、階段を昇るように一歩を踏み出した。足下には薄く輝く円が現れ、彼女を支えた。

 慣れない状態に不安定だったのは最初の数歩だけ、彼女は持ち前の呑み込みの早さで軽やかに宙を翔けた。

「お待たせ」

「待たせ過ぎっ」

 一人のエァンダが空気に溶けるように消えて、そこにセラが重なるように入った。生物の横だ。残ったエァンダと共に左右から挟み込んでいる。

「キタ……」寄生生物はセラに目を向けると彼女ではなくエァンダに向けて大きく脚を蹴り上げた。「オマエは、補欠。ジゃ魔ダっ!」

「単細胞じゃないのは認めてやるよ。見る目がある」

 生物の脚を腕で受け止めるエァンダ。よく見ると、その腕を庇うように小さな扉が盾となっていた。それがエァンダ本人がやっていることなのか、サパルの援助なのかは彼女には分からない。

 だが、エァンダに攻撃をする生物の隙を見て、セラは斬り掛かる。しかし剣は翼に受け止められた。

「まだまだ若いセラの方が乗っ取りやすいだろうよ、そら。でも、させると思うか?」

「わたしも、寄生される気なんてないから」

「寄生ではない。取り込みじゃ」

 地上から、新たな声。

 その声の登場を皮切りに、地上の戦闘の様子が変わった。

 ピストルなど比ではないほど強烈な爆発音と振動。地面だけに留まらず空気まで伝わってくる。

 いつの間に。やはりその活力を感じることはほとんど不可能なのか。セラは視界の端に地上を納めるとそう思った。

 地上にはどこから湧いて出たのか、多くの機械人間たち。科学力という武器を持って、増殖した生物たちを圧倒し始めている。どうやら増やさずに倒す方法を心得ているようだ。

 しかしなぜ?

 セラは一瞬疑問に思い、すぐに答えを出した。

 何より最初の声の主の存在が彼らが来たことの答えだろう。

「怪物はすでにそこまで進化しておるのだ」

 ドクター・クュンゼは地上より、セラを見上げてそう言った。

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