161:混じっていたもの
セラはズィーの上からどいた。振り返った彼女の目に映るのは、不細工で不均等な破界者の形をした何かが二体。
その体全体が不規則に流動している。
辛うじて破界者の形を保っているが、二つとも違う生物だった。
地面に転がっていた破界者の頭と、腕と脚がそれぞれ一本ずつ斬り落とされた胴体がなくなっているところをみると、どうやらその二つを基にして形成されているらしかった。
「マダ、フアンテイ、ダ」
「ウン」
「ナジマセヨウ」
「ウン」
生物は頷き合い、消えた。破界者が使っていた、瞬間移動術だ。それも、彼女の超感覚が辛うじて感じ取れるほど静かで、それは破界者のものより、精度が高いもの。
「ぎゃぁあああああっ…………」
「どぅわぁぁっ……」
市場の二カ所からほぼ同時に悲鳴が上がった。
連鎖する。
「セラ! ズィーと一緒に向こうを頼む!」
「う、うん!」
はっきりと何が起こったは呑み込めていなかった彼女だったが、新たな脅威により戦士たちの命が奪われていることだけは理解できた。
デラヴェスと共に破界者の遺体から距離を取っていたエァンダの声に頷き、感覚を頼りにズィーと共に跳んだ。
増えていた。
セラフィとズィプガルが跳んだ先。
破界者の身体を持った生物が三体になっていた。回帰軍、『白旗』幾人もの戦士が散っていく中、プライが二体を相手にしていた。
「なんなんだよ、あいつら」
「わかんないよ、わたしにも。とにかく、倒さなきゃ!」
二人は示し合わせたわけでもなく、ズィーが名もなき戦士たちが相手をする一体の方へ、セラがプライが戦う二体の方へと、それぞれ花を散らした。
「プライさん!」
「セラ!」
彼女はプライから一体を請け負うように参入した。
相対するは初めの二体とは違う個体だった。今しがた誕生した赤子のようにその肌は日光を艶めかしく照り返している。
「首を狙え、さっきの奴みたいにだ。むしろ、他を切断するな! そこから増える!」
「わかった!」
完全に破界者とは別の生き物。
彼女は戦っていて、はっとエァンダの言葉を想起した。ビュソノータスで彼と会った時のことだ。
――なんか混じったみたいでな。
混じったとは他の生物が混じったということだったのだ。
寄生。
宿主である破界者の死を引き金に、表に出てきたということだろう。それも、破界者が寄生によって異常なまでに強くなったとも言っていたことを考えると、凌駕する力を持つと見た方がいいかもしれない。
そんなことを思いながら、セラはオーウィンを振り抜いた。もちろん首めがけて。
「うそ?」
彼女は戦場には似合わない素っ頓狂な声をあげた。見つめるのは地面に転がった首と、倒れた胴体。
いともあっさりと、その生物の首が斬り落とせた事実に、彼女は拍子抜けしてしまったのだった。
「ぬぇえっ! 増えたぁ!?」
『紅蓮騎士』は『碧き舞い花』とは違う反応を見せた。
セラはプライの方を一瞥する。彼の方は、なんとか大丈夫そうだった。
四体の生物を相手にする幼馴染の救援に向かう。
「ズィー! 首だけ狙って!」
彼の背後から跳び掛かっていた一体の首を斬り落としながら言うセラ。
「つってもよ、あいつ強ぇぞ」
「うそよ。破壊者に比べたら――」
セラは振り返りざまに、飛んできたズィーと激突。二人して建物の壁に埋まる。
「ちょっと、ズィー……ふざけないでよ」
二人は手を取り合って立ち上がる。
「ふざけてねぇよ。元々いた奴、破界者より強いんじゃないか」
言われて彼女は今なお戦士たちの殺戮に興じている最初の二体のうちの一体に目を向ける。確かに、動きが生まれ増えたばかりのものと違って見える。洗練されている。
「増えた奴も、時間が経つと動きが小慣れてくる」先ほどの一体を倒し終えたのか、プライが二人のもとへ飛んできた。「大丈夫か」
セラはうんと頷き。「それじゃ、生まれたばかりの奴から急いで倒さないとだね」
「そうだな、強くなる前に」
スヴァニをかちゃりと構えたズィー。セラはそんな彼の剣を持つ手に赤を見た。かくいう彼女も、体の至る所に小さな傷を作っていた。