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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会
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159:数の利

「破界者って、思ってたのと違う」

 今しがた自分で吹き飛ばした破界者の姿を見て、彼は首を傾げた。ズィーが想像していたものとずれていたらしい。

「うぉおおおおっ」

「いけいけぇ!」

 憲兵たちの行進とは違う調和の取れていない多くの足音が戦場に入ってくる。

「八羽教、ちが、回帰軍のみんなだ。だいぶ揃ってる。色々準備してたみたいでさ。避難誘導とか完璧過ぎ」

「そっか」

 市場の人々の誘導は彼らがしていたのだ。セラが市場に跳んできてから聞いた号令は回帰軍が発していたものだったのだと、彼女は納得した。

 突然の出来事に対しての避難誘導の迅速さは、恐らく彼らなりの準備があったのだろう。破壊者という特異な状況ではあったものの、『白旗』たちとの争いを視野に入れていたのかもしれない。

「避難した人たちはエリンと、あとキテェアって人が先頭に立って治療してる。対処が早かったけど、怪我した人はいるんだ。広い場所ってことで高台に避難したみたいだけど、こっからでもわかるぐらい目立つ。絶対向こうに戦闘を持ってちゃ駄目だ」

「うん。分かってる」

 セラはズィーと並び、彼の視線が示した高台に目を向けた。そこには確かに多くの人の姿が見て取れた。

「あ」隣に立った彼女にズィーは思い出したように告げる。「エスレがよろしくって。アスロンにも俺らに会ったって伝えるってよ」

「そっか。帰っちゃんだよね」

 サパルとエァンダによってその存在を密告されてしまった偵察少女は、回帰軍の再集結に力を貸したものの、戦いに参加することはできない。それは、サパルの作戦がはじまったときから決まっていたことだった。

 仮に破界者討伐を共に行ったとしても、その後にエスレが『白旗』に囚われてしまう可能性を考慮してのことだった。

 しっかりと別れの挨拶をしたかったとセラは思うのだった。

「八羽教だ!」

「くそっ、こんな時に!」

 回帰軍の登場に憲兵たちが狼狽えはじめた。しかし、将軍であるデラヴェスは冷静だった。

「かまうな! 捕えるのはあとだ!」

 どこからか告げられたのはあまりにも淡とした命令。やはりそこまで八羽教を目の敵にしているようには思えないものだった。

「今は対象の排除を優先しろっ」

「はっ」

 対象の排除。

 破界者と言わないのは、そこに『世界の死神』も含まれているからだろう。デラヴェスがそこまでエァンダを狙う真意がセラには全く分からなかった。

「皆殺しだ。世界共々壊してやる」

 ズィーに飛ばされ建物の瓦礫に埋もれていた破界者が飛び出てきた。

『白旗』、回帰軍入り混じる包囲網は完成している。

 彼はその片っ端から破界の限りを尽くすつもりらしい。誰彼構わず、近場の戦士を標的として定める。幾人もの男たちの悲鳴が上がる。

 だが、数が多い。いくら異空を恐れ慄かせる破界者であろうとも、数の利にはかなわない。それに加えて、今、この戦場に集まっている戦士たちは名こそないものの、実力は相当なもの。一人では破界者に敵わなくとも、纏まってかかれば、破界者の身体に傷を負わせることができるほどだ。

 そこにエァンダをはじめとした強者までいるのだ。次第に、破界者の息が上がり始める。

 確かに、傷はすぐに癒えるのだ。しかし、身体がいくら万全を保たれようが、活力は減る一方。それが生物としての理だ。

 顔の歪みはさらに広がってきているように見える。


 セラは乱戦の中、プライとエァンダが近くにいる状況に出くわした。

 そこで自らの考えを語る。

 彼女が首にオーウィンを振るった時、破界者の首には傷一つ付かなかったこと。今もそうだが、そのほかの場所は傷を負ったうえで治癒していくということ。

 つまりは首が弱点なのではないか。首を斬り落とされては修復しないのではないか、と。

「確かに、俺も首を斬ったことはないな」

「試す価値はあるだろうが。どう斬る? セラでも斬れなかったんだろ?」

 セラにしてみれば自分でやりたい気持ちも山々だった。しかし、すでに一度斬れなかった事実がある。彼女は二人の顔を見比べて、エメラルドの瞳を捕えた。

「エァンダ、出来る?」

「出来るけど、俺より適任がいるだろ?」

「え?」

 エァンダが視線を向ける先。今まさに破界者に応戦しているズィーの姿があった。

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