147:突然
建物の中は外と同じく古ぼけていたが、エリンが暮らしているのだと分かる煩雑さがあった。
「ここにはエリンだけ?」
セラはエリンと向かい合うようにテーブルに着いた。
ズィーとエスレは別の部屋で、セラたちの目的について話している。
「うん。みんな、バラバラになっちゃった……」
色々と想うところがあるのだろう、涙こそ流さないが声が震え気味だった。
セラはそっと、エリンの横に移動して寄り添った。「無理しないで、エリン……」
「ううん……セラが、来てくれたんだもん。話す」
彼女はセラの手を包むように握ってきた。セラはそれに応える。
「突然砦が襲われたの、白い奴らに。ジュランとプライが逃げる時間を作ってくれて、みんなその場は逃げられた。けど、プライが捕まって、ジュランは行方不明。捕まったプライがあたしとかキテェアとか、女と子供は無理やり誘拐して参加させてって言ったみたいで…………あたじは、回帰軍に誘拐ざれてたっでごとにぃ、なっでっ……」
エリンの瞳からどっと涙が零れた。セラは彼女の背中をさする。
「あだしも゛、仲間だのに……」
プライの宣言は仲間を守るための嘘だと分かっていても、エリンたちには辛いものだったことだろう。同じ志を持ったにも関わらず、自らのみが攻撃の対象から外れ、慕ってきた副隊長や隊長をはじめ、戦士として戦った男たちが悪人とされる。
「うん。そうだね。プライさんに文句言わなきゃね」
「う゛ん、バカだ、アホだ、プライは大バカだぁぁ……」
涙と共に力なく放たれた悪口。それはセラの背中を押すには充分だった。
「わたし、プライさんを助けに行く。ジュランも探して、ちゃんと、ビュソノータスが一つになるとこを見たいの」
エリンを一人にしてズィーとエスレが話す部屋へ向かったセラは宣言した。
当然、ズィプは眉をひそめた。
「おい、セラ。俺たちそんな場合じゃないだろ。エスレがナパスの民と鍵束の民が一緒にいるのを見たって言ってんだぞ? この世界にいるんだぜ?」
「分かってるよ。その二人も『白旗』の城にいるんでしょ? ならちょうどいいじゃん。プライさんも助けて、二人にも会える」
「でも、やることが全く逆だよ」とエスレ。「探してるっていう二人は『白旗』と協力関係みたいだし。片や協力、片や反逆。両方は無理」
「そうだ。そもそも、エァンダとサパルがいるってことは破界者がいるってことだろ。助けるとかそんなこと言ってる場合じゃないって」
突然。
「そうそう。破界者が訪れた世界での一番の問題は破界者なんだからな」
「!?」
部屋に舞うは群青。
話す三人の間に立つは流水を思わせる髪を持つ渡界人。
「また会ったな」
エァンダ・フィリィ・イクスィアは振り返り、そのエメラルドをサファイアに向けた。
「エァンダ!?」