142:ルピを探して
「やれぇやれぇ!」
「ウェイウェィ!」
「そこだ。そらっ! あぅち……」
セラの行く手には酒樽を囲んでいるには大き過ぎる円陣があった。
様々な世界の人々が酒樽とは違う何かを囲んでいるようだ。つい先日まで行われていたホワッグマーラでの大会を縮小したような状況だ。
セラは何が行われているのかと気になって人海を縫い入って、皆が視線を向ける物を確かめた。
そこではイソラが大勢の赤ら顔の男たちと戦っていた。それを他世界の人達が観戦しているといった構図の用だ。
「イソラ?」
「あ、やっぱ、り! セラお、姉、ちゃんっだ!」
「何やってるの?」
「なんかねっ! この世、界っ、の人達が『夜霧』のこと知ってるみたいだからっ! 訊こうとしたら、勝負して勝ったらって! セラ、お姉ちゃん、はっ!」
「わたしは、ルピさんに用があって。ズィーと一緒に探しに来たの」
「そうっ! なんだっ! ルピ、さんなら、向こうで待ってるよ!」
「分かった。……手伝おうか?」
セラは一応、そう、一応訊いてみた。彼女と話しながらもイソラは容易く呑んだくれたちを倒していた。手助けを必要とはしていない。
「大丈夫だよ! 全然問題なしっ! ニシシ」
イソラの笑顔を確認してから、辺りにいるルピを探すために人の海を戻って行こうとするセラ。しかし、耳に届いた声に足を止める。
「あ! おい! あれ『碧き舞い花』じゃねえか!? さっき、あの子と話してたの!」
「え! 本当か?」
「ああ、俺も、そうじゃねえかって、思ったぜぇ?」
「セラって呼ばれてたろ? 『碧き舞い花』ってセラフィなんたらだろ?」
「おお! マジじゃねえか!」
「なんだってぇ~!!?」一際大きな声が即席の闘技場を制圧した。
戦っていたイソラや赤ら顔たちも動きを止めて声のした方を見ている。そして、セラもその方向に視線を向けていた。
「『碧き舞い花』が来てるってぇ~? どこらぁ! どこらぁ~!」
イソラたちを挟んでセラとは反対側の人海を割って現れたのは、巨漢。テングを思わせるほど真っ赤な顔の巨漢だ。
「どけぇ~ぃ! 大会の憂さ晴らしじゃ! あんな小娘が本戦だぁ~? ふざけやがってぇ~! おらぁが敗退ぃ~? 裏があるにぃきまっちょろぉ~! 出てぇこ~い! そん綺麗な顔ぉ~、おらぁみてぇに赤く染めたらぁ~!!」
「ちょっと! 今あたしが戦ってるんだけど!」イソラが噛みつく。
「ああぁん? 邪魔じゃ~い! おまぁにも裏はあるだぁ~! 目ぇが見えんでぇ、戦えるわきゃ~ねぇ!!」
「やってみればわかるよ! ね! セラお姉ちゃん!!」
「……」
セラは正直関わりたくなかった。ナパードで跳んでいってしまおうかと考えたほどだ。だが、イソラに呼ばれてしまった以上、出て行かないわけにもいかない。
「はぁ……」
小さくため息を吐いてから、人だかりを割っていく。
「おお! マジだ! 『碧き舞い花』!! ホンモノ! キレイ! 美しい! かわいい!」
セラの登場に異世界人たちは色めき出す。それは実物の彼女を見れたという事実に対してではなく、彼女の美貌に対してのものだ、もちろんね。酒が入ってみんな理性が弱まっている。
「あなたも大会に出……っ!」
セラは咄嗟に身を引き、彼女と巨漢の間にイソラが水馬で滑り込んできた。そして、振るわれた巨漢の拳を蹴り上げる。
「合図もなしに始める気なのっ!」
「おまぁ~は邪魔じゃ!」
セラの出る幕はなかった。これなら出てこなくてよかったな、と思う彼女。
刹那、イソラによって巨漢は制圧された。巨漢を含め、多くの人間が何が起きたか分かっていない顔だった。
「セラお姉ちゃん、わたしより強いけど? 戦う気ある?」
「ぅぅ……」
答えは訊くまでもなく、男は伸びきっていた。
「イソラ、終わったの?」円陣が解散していくのを外から見ていたのか、崩れた人の檻の間からルピが姿を現した。「なら、『夜霧』の情報訊かせてもらえるの?」
そして、セラの姿を認めると驚きの表情を見せる。
「なんで、セラがここにいるの?」
「セラお姉ちゃんはルピさんに用があるんだって」とイソラが言う。
「わたしに?」
「はい」セラは頷く。「あなたの友達の居場所について」