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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第一章 碧き舞い花
133/535

130:パーティ

 会場での熱気を冷ますことなく、人々は帝居へと足を向けた。

 セラたち控え室にいた参加者と関係者の数人は、その場に現れたドルンシャ帝によって一纏めに帝の住処まで瞬間移動した。

 そこは十六個の椅子で囲まれた巨大なテーブルのある部屋だった。恐らくはここで参加者を招いた宴が行われる予定だったのだろう。

「俺はフェズルシィくんを寝室に寝かせてくるから、ジイヤの指示に従ってくれ」

 ドルンシャ帝は言ってフェズを抱えると、共々消えた。

 セラは帝がいた場所を凝視しながら思う。手も触れずに自身を含めた十二人を瞬間移動させるなんて。

「ご紹介に預かりました。ジイヤでございます」

 部屋の隅から声が響いた。少しばかりざらついているのだが、何故だかよく通る声だ。

 恭しく下げた頭を上げる豊かな白髪の男は壮健な顔つき。歳のほどはブレグより少々長く生きているといったところ。

「本来ならば、本戦に出場した方のみでこの場でお食事とご歓談を楽しんでいただく習わしですが、この度は特定の場を除いた帝居全てを開放いたします。皆さまも他のお客様たち共々宴をお楽しみ下さい。帝が戻り次第、帝居の門を開きますゆえ、それまでこの場でお待ちください」

「エレ・ナパスの城を思い出すな」

「そうだね」

 開放された城に民が入れる状況は二人に故郷を思い出させる。

 部屋にいるジイヤを除いて、ブレグ、ドード、ポルトー、ズィプ、ヤーデン、シューロ、ジュメニ、セラ、ユフォン、ヒュエリの十人。それぞれ会話を交えたり、互いの健闘を称え合ったり、今後のことを話すなりして少しばかりの時間を過ごしたのだった。


 橙色に染められるモノクロの帝居の前庭には多くのテーブルが配置され、一般人が大会の話を肴なに酒を飲み、談笑し合い、踊り騒いだりしている。

 なかには本戦出場者を捕まえて囲み、あれやこれやと質問攻めにする者までいた。

 ズィーやポルトー、シューロがその餌食となっているのを、セラは帝居二階の廊下の窓から見つめていた。隣にはユフォンがいて、さっきまでヒュエリとジュメニもいた。

 室内の大広間では貴賓席に座っていたであろうドレスアップした品のある人々が多くいた。ドルンシャ帝も、いつ着替えたのか正装したブレグもいる。

 そのブレグと一緒にいるのはフェズに負けてから控え室に姿を見せなくなったパレィジ副隊長と、マグリア開拓士団の紋章が刺繍されたマントを羽織る二人。ロマンスグレーの髪の男と、真っ黒な長髪を持つ優しそうな顔つきの女。女の方はセラの知らない人物だったが、男の方はヴェフモガ団長だ。

 先のパレィジもそうだが、彼女が驚いたのは、時期はまばらにしろ、トーナメントの最中に控え室に来なくなった本戦出場者の姿が帝居内に見えたことだ。初戦から棄権した、黒みを帯びた赤紫の短髪のナギュラ。ヤーデンに敗れた水色髪の、気の抜けた顔のロマーニ。マスクマンに変装したドルンシャ帝に大敗した、都市ウィーズラルの警邏隊員フォーリス。

 それぞれ室内にいたのだが、他の選手に比べて目を引く活躍を見せられなかったからか、三人ともそれぞれ一人だ。

 と、警邏隊のフォーリスが動いた。どうやらドルンシャ帝のもとへ行くようだった。セラは二人に感覚を向けてみることにした。

「ドルンシャ帝」フォーリスが恭しく頭を下げた。「試合では、ご無礼を……そうの、失礼いたしました」

「ああ、君か」ドルンシャ帝は思い出したように言う。「気にしなくていい。俺も気にしていない。それに、素性を隠していたわけだしな、ああいう態度を取られても文句は言えない」

 それだけ言うとドルンシャ帝は声を掛けてきた知人らしき気品ある男の方へ行ってしまう。その姿を見て、フォーリスは踵を返す。セラの耳にはそんな彼から舌を打った音が聞こえた。

 どうやらフォーリスはドルンシャ帝の態度を不快に思ったらしい。その顔は歪んでいた。

「明日には旅立つんだよね?」

 不意にとなりのユフォンから話しかけられたセラ。視線を彼に向ける。「そうだね。またお別れ」

「大丈夫さ、また会える。で、どこに行くんだい? ズィプも一緒なんだろ?」

「うん。一度ゼィロス伯父さんのところに戻ろうと思う」

「そっか。そこから『碧き舞い花』の冒険の再開だね」

「ねぇ、あんまり言わないでよ、それ」

「え? もう今さらだろ? 今回の大会で君の名前は色んな世界に広まったはずだよ。君はもう『碧き舞い花』セラフィ・ヴィザ・ジルェアスなんだよ」

 ユフォンは穏やかに笑う。

「もぉ……」

 少し不機嫌な顔だが、つられるように笑うセラだった。

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