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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第一章 碧き舞い花
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123:驚きに満ち溢れ、決着

 フェズの声は小さかった。それなのに、会場中に響き渡った。

 その声はもちろん実況席のニオザにも届いている。

『た、太古の法!? だだ、だだ、だ、第一世代のマカ……ば、かな。そんなはず……』

 それは実況者としては不適切なものだっただろうが、誰も彼を責めることはないだろう。なんせ会場中の全ての、恐らくはホワッグマーラ人だけだが、全ての人が彼と同じように驚きを隠せないでいたのだから。

「ハッタリ……ではないな、その顔は」

 マスクマンですら、フェズの表情を見ていなかったら信じなかったのだろう。忙しかった呼吸をすぐさま落ち着かせて、身構える。

「どうなっても、知らないからな」

「客が傷つくようなことは避けてもらいたいな」

「どうかな、それはあんた次第……」

 フェズは軽く手を振り降ろした。

 するとマスクマンが後方から殴られたかのように地面に叩き付けられた。

 それは衝撃波のマカでも、マカを出し続けて押さえつけたものでもなかった。セラにはそれだけが分かった。それだけしか分からなかった。何も、感じられなかったのだ。

 彼女の超感覚を持ってしても何かが動いた気配を感じることはなかったのだ。

「なにが……?」

「第一世代のマカは……大気中の魔素」ユフォンは首を振る。「いいや、自然界に存在する魔素そのものを操るマカ」

「原点にして、最強のマカ」ヒュエリは神妙な面持ちながら瞳を輝かせながら言う。「まさか、この目で見れるなんて……!」

「で、でも、ホワッグマーラの人ならわたしと違って空気中の魔素を感じ取れるんじゃ……!?」

「無理だろうね」ジュメニがセラに応える。「あれは濃度が変わってるわけじゃないから。例えば、ズィプくんの外在力ってのが空気を纏ってるって分かるのは、そこに空気と一緒に魔素が集まってるからなんだ。ホワッグマーラ人は魔素の濃さの違いを見極めてる」

「じゃあ……」

「勝負ありだな」

 セラの言葉をズィプが引き継いだ。だが、その言葉をユフォンがあやふやなものとする。

「どうだろう?」

「そうですね」ヒュエリが頷く。「完成していなければ、フェズくんが先に倒れてしまうかもしれませんなああぁあああああっ!!!」

 突然絶叫したヒュエリ。その声は控え室の全員の耳をつんざくほどだ。

 だがしかし、絶叫までしなくとも、驚愕しているのは彼女だけではなかった。観客のホワッグマーラ人もそうだったのだ。

 彼らの視線が向かう先は第一世代のマカを使うフェズではなく、マスクマン、だった人物だった。

『どどど、ドルンシャ帝ぃ!?』

 ニオザが全ホワッグマーラ人を代弁するように彼の名を呼んだ。

 紛れもなく、マグリアの統率者が闘技場に立っていたのだ。

「どこか知ってるような気がしていたんですっ!!」

 ヒュエリはまるでそうではないかと考えていたと言わんばかりに興奮を見せる。

「あれ? 仮面割れちゃったのか……」

 立ち上がったマスクマン改めドルンシャ帝は割れて落ちた鉄仮面を見てその淡い紫色の髪を掻き上げる。そして、その瞳でフェズをキッと見つめる。

「さて、ジイヤに連絡が行く前に終わらせる。君のためにもね」

「はぁ、はぁ……だったら、降参すれば? 帝様」

「それは嫌だ。もっと楽しみたいじゃないか、太古の法。君だって、俺と同じ立場だったらそうするだろう?」

「……気が合うな」

 驚愕の会場を置いてけぼりにしながら二人の戦いは再開される。

 帝が相手だろうとフェズが手を抜くことはなく、ドルンシャ帝は彼に手を触れることさえできない。しかも、自然界の魔素を操る太古の法の前ではマカすら無力だった。身体の外に出したそばから、魔素は自然に還っていってしまうのだ。

 その一方で、フェズが優勢かというとそうではない。彼の疲労は誰の目が見てもわかるものだった。すでにクリアブルーの瞳は虚ろになりかけている。

「殴られてる方か、殴ってる方か」ユフォンが息を呑む。「どっちが最後まで立っていられるか……」

「……ぅうぁああ゛っ!」

「でぇっ……ぃ!」

 ドルンシャ帝が顎から浮かび上がった。そのまま放物線を描き、地面に落ちた。

 最低限の仕事をこなせる程度には状況を把握していたニオザがカウントを始める。

 まるで体の全てを使って呼吸をするかのように、大きく上下するフェズルシィ。

 ドルンシャ帝は動かない。

 ニオザのテンカウントが終わりを迎え、試合終了が告げられる。

 そして天才美少年は意識を失った。

 闘技場には二人の天才が倒れている。二人とも満身創痍で、満面の笑みだった。

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