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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第一章 碧き舞い花
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119:ベッドの上のセラフィ

『勝者! フェズルシィ・クロガテラー!!!』

 ニオザの勝利者宣言が行われた。

 夕焼け空から降りてくるフェズルシィの姿を見た。

 彼女は彼らの腕の中。

「負けちゃった。やっぱ、フェズさんは強いね」

「なに言ってるんだ。君はよくやったよ、セラ!」

「そうだぞ。フェズを倒したときは俺、叫んだんだぞ」

「あはは……そうなんだ、飛ばされちゃったから、全く気付かなかった」

「ほら、立てるかい?」

 ユフォンとズィーの支えで、セラは立ち上がる。立つのは問題なさそうだった。だが、痣から広がる痛みの波は治まらない。

 このまま二人に支えてもらうのも悪くない。

 彼女は彼らに甘えることにした。

 両側から想い人二人の支えを受けながら、セラは闘技場をあとにした。


『皆さん、準決勝は明日の午後からです! 今夜は本日の試合を肴に晩酌して、明日は昼まで眠って準決勝の観戦に備えましょう!! ですが、興奮し過ぎて大騒ぎはダメですよぉ! 警邏隊の留置所では試合は見られませんからね!』

 進行役のニオザが観客の退場に合わせて長々とジョークを交えながら誘導する。

 控え室に戻ったセラはズィーとユフォンによって、ヒュエリの疲労回復のマカで眠りについているシューロの隣に座らされた。

「ヒュエリさん、セラにも疲労回復を」ズィーが言う。

「任せてください! あ、でも」ヒュエリは待ってましたと言わんばかりにセラにマカを掛けようとするが、何かに気付いて止める。「今ここではやめておきましょう。眠ってしまいますし」

「それで大丈夫かい、セラ?」とユフォン。

「うん」

「よっと」セラの隣のシューロがジュメニによって抱きかかえられる。「じゃあ、わたしはシューロくんを家に送るから、これで。残念だったね、セラちゃん」

「は――」

「俺に言葉はないんですか、ジュメニさん」

 とセラの言葉を割って入ってきたのはフェズルシィ。空気が読めない。

「あとで祝ってやるよ」と呆れ笑むジュメニ。そのままコロシアムから出て行く。

「ほお、そっか。よし、ユフォン、行くぞ」

「えっ!?」

 すでにセラたちしかいない控え室にユフォンの素っ頓狂な声が響いた。

「どうした?」

「どうしたじゃないよ。今日は帰るよ。ヒュエリさんから僕が見てなかった試合のことも聞かなきゃ出しね」

「そうか。仕方がない、今日は諦めよう」

 フェズは珍しく素直にユフォンの言葉を受け入れて、控え室から出て行った。

「めずらし、フェズのやつ」

「セラとの戦いが楽しかったんじゃねえの」

「まあ、それもそれでフェズらしいんだけどね、ははっ」

 こうして魔導・闘技トーナメント本戦二日目の幕は閉じた。

 そして、セラの大会も終わった。


 セラとユフォン、それからヒュエリは魔導書館司書室にいた。

 ズィーは一人になりたいと言って一緒には来なかった。彼もブレグに敗れている。思うところがあるのかもしれない。

 司書室はヒュエリの執務のための机などの姿があるいつも通りの様相だったが、一点だけ違う箇所があった。

 ベッドだ。

 ユフォンの部屋では見ることのできないようなキングサイズのベッドの上にセラは横になっていた。彼女がこれほど大きなベッドに体を沈めるのはエレ・ナパス時代以来だ。

 これから疲労回復のマカを受けるところなのだが、その前にセラはヒュエリに話したいことがあった。

「ヒュエリさん、わたし、もう試合ないのでジェルマド・カフさんのところ行ってもいいですよ、大会が終わるまでの間に」

「本当ですかぁ!?」ヒュエリは嬉々とした顔でセラの手を両手で握った。「ぜひっ!」

「ジェルマド・カフ?」

 来客用のソファに座るユフォンが首を傾げた。彼は予選終了後の小部屋にいなかったから話について来れていないのだ。

 それでも、セラもヒュエリも彼に説明しようとはしなかった。

 セラはユフォンには筆師として試合の記事を書く必要があるため同行は無理だと思ったのと、ジェルマド・カフ老人が男嫌いだと知っていたから。

 ヒュエリは単に師であるアルバト・カフの大叔父に会えるという喜びで彼のことが目に入っていないからだ。

「いつにします? いつにします?」

 ヒュエリは興奮しきっていた。しかし、行くとは言ったものの、セラも準決勝と決勝を見ておきたいと思っていた。

「えっと、確か大会四日目は特別試合でしたよね。その時に」

「明後日ですね! うわ~! 楽しみですっ! わたし、眠れるでしょうかぁ?」

「ヒュエリさん、その前にセラが眠る時間ですよ」

 子どものようにはしゃぐ師匠に、弟子の筆師は呆れながら言った。話しについていけていないからか、少しばかり不機嫌そうな顔で。

「分かってます、分かってますよ! ユフォンくんに言われなくたって、分かってますよ!」

 こうしてセラに疲労回復のマカが施され、彼女は微睡みに沈み、深く、深く、眠りに落ちていった。

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