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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第一章 碧き舞い花
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117:セラ対フェズ

 フェズルシィと対峙している。

『本日最後の試合です!』

 日が傾き始めて、ゆっくりと風が吹いてきている。

 白金の髪と白青色の髪が揺れる。

 彼女が風の流れに従うように顔を上げると、そこには控え室の開口部。ズィプガルとユフォンが大きく口を開けている。

 目の前の彼に集中していてその声は彼女の耳には届かなかないが、きっと応援してくれているのだろう。控え室を出てくるときもそうだった。

 二人は今までぐっすりと寝ていたからか、セラの心境も知らずに活気よく彼女の背中を押したのだ。

 その期待には応えたい。

 彼女はキッとフェズに目を向け直す。

『両者の静かなる闘志が感じられます……それでは、準々決勝第四試合、はじめっ!!!』

 どぅおおおおぉおぅおおおん――――!

 銅鑼の音が鳴っても二人は動かない。

 残響が消えてもなお、動かない。

 一際大きな風が吹き、それが止むと、ようやくセラがオーウィンを抜いた。

 彼女が剣を構えるて分厚く魔素を纏わせると、フェズはその手に魔素で作り出した剣を出現させる。「剣で勝負してやるよ」

「手加減のつもりですか?」

「いいや、一度やってみたかったんだ。剣での戦い。大丈夫、これまで警邏隊隊長様も見てきたし、最近は間近でズィプを見てたから」

 簡単に言ってのける彼は構える。それはズィーに似た構えだった。

「手加減とか、俺はそんなことしない。に出るために」

 徐々に彼女との距離を縮めてくるフェズルシィ。

 剣三本分の長さまで彼が近寄ってきたその時、セラは駿馬で彼女の方から距離をなくした。

 それは剣術なら分があると思ったからこその先制。オーウィンはフェズの脇を狙う。

 しかし、魔素で作られた剣に止められた。

「手加減って意味なら、その分厚い魔素。君こそ手を抜いてる」

「これは殺さないためっ」

 激しい打ち合いだった。

 ズィーに似たフェズルシィの太刀筋は真っ直ぐで、重たい。彼女は駿馬で退く。

 退いたはずだった。

「っ!?」

「それは覚えた」

 マカの剣が散りゆく碧き花を斬る。

 間一髪だった。遠くフェズの後方へ跳んだセラ。その顔は驚愕そのもの。

 今、フェズは何をしたのか。

 あれは、駿馬だった。

 セラがケン・セイのそれを見て、イソラのアドバイスを受けて会得した高速移動術。

 天才はそれを一目見ただけで、完成させたのだった。

「やっぱずるいな、それ。渡界術はどうやっても覚えられない」と振り向くフェズ。

 セラは思わず呟いた。「化物……」

 その化物が駿馬で迫ってきた。

 彼女も駿馬で応戦する。

 この戦いをどれだけの人が追えたことだろうか。

 加速して、加速して、ついに。

 セラが膝をついた姿で闘技場に留まった。次いで、肩を竦めるフェズが彼女と離れた位置に立ち止まった。

「もう終わりか?」

「まさか、このくらいのことならこれまでも……っ……!」

 痣のある肋骨辺りが痛む。

 まさか駿馬の戦いで敗れるとは思っていなかった彼女だったが、負けてしまったものは仕方がないと割り切っていた。固執していて勝てる相手ではない。

 それに痣が痛む以上、激しい戦いは控えるべきだと思った。

 ここからは、静かに。

 跳ぶ。

 背後を取った。

 フクロウは鋭く、獲物を捕らえた。

 マカを纏わせていなかったらフェズは真っ二つだっただろう。彼は地面を数度激しく転がった。

 フェズルシィに土がつき、会場がどよめく。

「やったぜ、セラ!」

「すごいっ!」

 ズィーとユフォンの声が彼女耳に届いた。その声が彼女の表情を少しばかり柔らかくする。

 だが、戦いはまだ終わりそうになかった。

 フェズルシィは服に着いた砂埃など全く気にせずに立ち上がる。「痛かったなぁ、今のは。やっぱ防いどけばよかった」

「やっぱりわざと当たったんですね」

 セラも感付いていた。

 そもそも最初にナパードで彼の駿馬から逃れたとき、彼は迷うことなく振り向いた。彼女を探すそぶりなど一つも見せなかった。

 まさか超感覚まで、とセラは一瞬疑ったがそうではない。フェズは彼女の魔素を感知しているに過ぎないのだ。

「どうだ? 剣のマカ解いたら?」

 そもそもマカを使えると言ってもセラの場合は異界人。その魔素の量は感知しにくいものだろう。だからこそ感知される大きな要因を作っているのは恐らく、剣に纏わせた、体の外に出している魔素だ。

 それに彼女自身、魔素をオーウィンに合わせて纏わせている状態を長く続けていられるわけでもない。フェズとの戦いに関していえば、この状態は脇の下の痛みよりも足を引っ張っているのかもしれなかった。

「分かりました……」彼女は大きく息を吐いてオーウィンの衣を剥いだ。銀色が橙を増していく会場に煌めく。

「よし。安心しろ、俺は斬られないから」

 恐らくは事実かもしれない対戦相手の言葉。だが、試合中の今、それは挑発以外の何物でもない。

「分かりませんよ? 今度は本当に真っ二つになるかも」

「ほお!」

 フェズルシィが楽しそうに口角を上げた。

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