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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第一章 碧き舞い花
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110:間もなく準々決勝

 夜遅くまで働いたセラは試合開始直前の昼過ぎまで筆師の部屋で眠っていた。そのおかげで午後から始まる二回戦に疲れを持っていくことはなさそうだ。

「ユフォン……?」

 目覚めた彼女は部屋の主を探す。

 しかし、そこにはユフォン・ホイコントロの姿はなかった。

 彼はセラが深夜に戻って来たときから部屋にはいなかった。フェズルシィを連れてどこかへ行ったきり戻ってきていないようだった。

「会場に行けば会えるか……」

 セラはベッドの上で体を伸ばすと、身支度を始める。

 トゥウィントのィルとの戦いでついた小さな切り傷はすっかりきれいに塞がっていた。心配なのはヒィズルで負った肋骨周辺の打撲だ。未だ彼女の肌には似合わない色のままだ。

 今日はこれからあのフェズルシィとの試合だというのに、大丈夫だろうか。彼女は一抹の不安を覚えながらも、出せる力は出し切ろうと強く心に決めるのだった。


 セラがナパードで選手控え室に跳ぶと、開口部から覗く客席にはすでにきちきちに人々が。

「うわっ! セラちゃん! びっくりしたぁ~!!」

 と声を上げて驚いたのはヒュエリ司書だった。

「ヒュエリさん! どうしてここに?」

「だってですよセラちゃん。つまらないんですよ、あそこ」

 言って彼女が指さすのはコロシアムの支配人であるクラッツ・ナ・ゲルソウをはじめとする関係者たちのいる席だった。予選の手伝いをした彼女は今まで向こうの席で試合を見ていたようだ。

「知り合いもいませんし、予選だけしか関わっていないわたしにはすることもないですし。だから、今日からはこっちで見ます」

「あはは……」

 セラは苦笑いだ。そして辺りを見渡す。

 試合のない参加者でこの場にいるのは警邏隊の制服に身を包んだドード少年と鍵使いポルトー、それから体の至る所に包帯を巻いたジュメニの三人。

 試合のある参加者はフェズルシィを除いて揃っている。

 そしてフェズルシィがいないということは、ユフォンもいなかった。

「フェズさん、また最後だからって遅いのかな」

 セラはポルトーと楽しげに話していたズィーに訊く。

「あ? あー……そうだな。そうなんじゃないか、フェズのことだし」

「それにしてもやっぱりすごかったなフェズくんの試合は。パレィジさん、大丈夫かな」

 ジュメニが話に入る。

「ジュメニこそ大丈夫なの?」とヒュエリ。

「わたしは平気だよ。熱い試合だった割にはな。シューロくん、やっぱり手を抜いてたんじゃないかって思っちゃうよ」

「ぼ、ぼくは、そんな、全力で、やりました……よ!」

 昨日よりどこか堂々として見えるシューロ・ナプラが、その黄色く縁取られた瞳孔でジュメニを見つめる。

「冗談だよ、冗談。戦ったわたしが一番分かってるから、安心しなって」

「あー、ジュメニが後輩いじめてる! シューロくん、ジュメニにいじめられたら言ってね、わたしが仕返ししてあげますからね」

「は、はあ……」と困り顔のシューロ。

「こら、ヒュエリ、後輩を困らせるなよ」

「困らせてなんてないよ。ですよね、シューロくん?」

「は、は……い……」

「困ってるじゃないか」

「あはは……」

 二人のやり取りにはセラも苦笑する。

『会場にお集まりの皆さま!』そんな時ニオザの声が会場中に響き渡った。『昨日はよく眠れましたかぁ? ん? 興奮して眠れなかっただって!! なんだ!! 僕と一緒じゃないかぁ! 寝不足で、試合中に寝てはいけませんよぉ! 間もなく準々決勝が始まりますからねぇ!』

「ふぇっ!」

 シューロが怯えた声を上げた。

 控え室の全員の視線が彼の視線の向かう先に合わさる。

 そこでは何もない空間が捻じれるように歪んでいた。

「ユフォン?」

「ユフォンくんですよ」

 セラとヒュエリの声が重なって、間もなくユフォンとフェズルシィが姿を現した。

「はぁ~っ! ははっ、間に合ったかな」

「まだ始まってもないじゃないか、もう少し練習できたぞ」

「もう勘弁してくれよ」

「しないぞ」

「ユフォン!」

「やあ、セラ。ちょっと、待って、思った以上に疲れてる。ははっ」

「だらしないですよ、ユフォンくん」

「ああ、ヒュエリさんじゃないですか。あの、あれです。次からの修行はもうちょっとキツくしてもらって大丈夫ですよ。ははっ……さっきまでのに比べたら、なんでもない、ですからね、はは……」

 彼はとても疲れた様子で、壁にもたれかかった。

「なんだ、ユフォン。そんなに疲れてたなら言えよ」

「……言ったさ。君は聞かなかったけどね、フェズ」

「ほお。確かに言ってた気もしなくない」

 フェズの物言いにガクンと頭を垂れるユフォン。すぐに寝息が聞こえてきた。

「ユフォン? 記事書くために試合見ないとでしょ?」

 セラが起こしにかかるがまったく反応がなかった。熟睡だ。

「しょうがないですね。ここは師匠であるわたしが代わりに試合の記録を取りましょう」

 仕方ないと言いつつもやる気に満ちた顔を見せる灰銀髪の司書様、なぜか白ワンピースの準幽体ヒュエリと分離した。

 そして、幽体のヒュエリは姿を消したのだった。

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