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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第一章 碧き舞い花
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109:器の実感

「ふっ」

「せっ」

「ぇいっ」

「はぁっ」

 優しく爽やかな竪琴の音が奏でられ、夕日の差し込むその森に、二人の渡界人の声と金属音が静かに響いている。

「後ろっ!」

「……っく!」

 セラがズィーの背中に向かってオーウィンの切っ先を向けて声を上げる。彼女の周りには碧き花びらがゆったりと、散りゆく。

 彼女の声に振り向いたズィーは苛立ちに満ちた苦い顔をしていた。

「ズィーの一撃は確かに重いんだけど、それって当たらなきゃ大丈夫なんだよ。超感覚使えないにしても、もう少し相手の動き見て、先を読んだりしないと。今のだって、わたしが後ろに跳んだの何回目? そろそろパターンを掴んでもいい気がするんだけど」

「うっさいっ。外在力使えばもうちょい感覚だって鋭くなるからいいんだよ」

 その言葉にセラは息を小さき吐き出し、オーウィンを納めた。

「ねえ、ほんとに教えてくれないの? 外在力そのものでも、師匠のいる世界でも」

「ああ」ズィーもスヴァニを納める。「こればっかりは駄目なものは駄目なんだよ。教えてもらっておいて、勝手に約束破るわけにはいかないからさ」

「やっぱ駄目か……じゃあ、ここからはマカと外在力でやらない?」

「おっ、いいな。それだった俺の方が上だろうしな」

「剣術では負けってこと認めるの?」

「ち、違うわっ! ナパードについては負けを認めるけどな」

 彼の言葉は正しいのだろう。

 ナパードについてはセラが上手うわて、特異な力についてはズィーが上手うわて。剣術についてもそのものだけについていえば、ズィーが少しばかり優っていた。

 それは剣を握ってきた時間が違うからかもしれないが、そうだとして、そうだとしても彼との差が少ししかないことにセラは嬉しさを感じていた。そして、今まで賢者に言われてきた器の大きさについて、そういうことなのかもしれないと実感を覚えたのだった。


 日の光が微かに残る。

「はあっ!」

「うりゃ!」

『竪琴の森』が戦場になってしまうことを誰が予想しただろうか。

 普段は憩いの場としてマグリア市民が訪れるのだが、その日はトーナメント大会の影響で大抵の人が憩っている場合ではなく、人の姿は二人の渡界人の他にはなかった。

 だからこそ二人は周りを気にすることなく激しく互いの力をぶつけ合った。

 その結果が、ほぼ戦場。

 ズィーの外在力が上手だったが故に、セラの負けず嫌いが姿を現して、稽古程度だったものは徐々に熱を上げていったのだ。木々は衝撃に激しく揺れ、ところによっては焦げたり、折れたり、抉れたりといった様子だった。

 優しく、爽やかな竪琴の音が二人には全く届いていなかった。それほどの集中だったわけだが、突然の怒鳴り声に二人の動きは止まった。

「こら!! 何をしているんだ!!!」

「やばっ……!」セラは手に溜めた魔素を解放する。

「やべっ……!」ズィーは外在力を解いた。

 そして二人して苦虫を噛み潰したような顔をして声のした方を向く。

 そこには胸にランプを後ろに交差する槍の紋章を付けた男が数人立っていた。マグリア警邏隊だ。

「逃げるか?」とセラの耳元で囁くズィー。

「駄目だよ。素直に謝ろう」と囁き返すセラ。

みやこ内での許可のない戦闘行為は罰則だ。異界人でも関係ないぞ。しかもここは『竪琴の森』だ、今日は祭りで人がいなくて被害はなかったようだが、罰則に変わりはない……ん? お前ら二人、見た顔だな」

 小隊のリーダーと思われる男が厳しい顔で言ってのけて一変、訝しむ。

 すると、後ろに控えていた一人が口を開いた。

「二人ともトーナメント本戦出場者です。渡界人の」

「ああ。言われてみればそうだ」リーダーの男は納得して頷く。だが、再び厳しい顔になる。「ま、だからといって罰則に変わりはない」

「えっと、ごめんなさい。わたしたち、つい火が着いちゃって……ははっ」

「そうそう、俺たち明日の試合に向けて、ちょっと訓練を……」

「理由は分からんでもないが、駄目なものは駄目だ。きっちり罰則は受けてもらう」

「えっと、罰則って?」

 ズィーが紅を掻き上げ、引きつった笑みを浮かべて訊く。

「奉仕活動だ」

 こうして、翌日には第二回戦が控えているというのに、二人は橙色に染まるマグリアの街でタダ働きをするはめになった。

 人手の足りない酒場でウェイトレスだ。

 もちろんその夜、その酒場が大いに盛り上がったことは言うまでもない。

 それにしても、僕も彼女のウェイトレス姿を見たかったなぁ……おっと失礼。


 そして夜は明けて。

 魔導・闘技トーナメント第二回戦、つまりは準々決勝が始まろうとしていた。

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