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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第一章 碧き舞い花
111/535

108:ベスト8、出揃う。

 誰もが打ち上げられた花火を見上げる。

 ただ一人、対戦相手を見上げるパレィジを除いて。

「勝負はまだ、ついていませんよ!」

「なんだ、空気読めないなぁ。降参するところだろ、今のは」

 普段空気の読めないフェズがパレィジを責めるのはどうかと内心思いながらも、セラは戦いに視線を戻す。

「……しょうがないな。怪我しても知らないから、副隊長様」

 空中で構えを取ったフェズルシィの姿を見て、パレィジは自身を球形の障壁のマカで閉じ込めた。彼の障壁は闘技場と客席を隔てるものと違い、はっきりと目に見えるものだ。

「そんなことしなくても、加減するから安心していいのに」

 天才が手を振り下ろす。

 会場全体がぐわんと歪み、そのあとに、闘技場の地面がへこんだ。

 削れるでも、抉れるでもなく、圧縮した。

 これのどこが加減したと言えるのだろう。

 パレィジのいたところだけ、周りより少し深くへこんでいて、彼の張った障壁のマカの形がくっきりと地面に刻まれている。その中ではパレィジが伸びていた。

「やばっ……」地面に降りてきたフェズが焦った表情になる。「会場を傷つけないって、あいつすごいな……だから、瞬間移動ができるってことか」

 ブツブツと独り言ちながら闘技場を出ようとするフェズ。ピタリと立ち止まる。

「あれ? これ終わってないの? 実況の人」

『はっ……はい。あ、いいえ。決着です、決着!!』

 フェズに言われると、呆然としていたのか、口を半開きにしていたニオザがその口を動かした。よく見ると、会場も息を呑んでいた。みんな静観だ。

『第一回戦第八試合、勝者、フェズルシィ・クロガテラー!!!』

 ニオザが声を張り上げたというのに、会場は煽られない。

 いまだに呆然としているのだ。

『み、みなさーん! 決着ですよ? フェズルシィ選手の勝利です!』

「お、おお……」

「ああ」

「フェ、フェズさまぁ~!」

「おお! すっげーな!!」

「副隊長、大丈夫なのか!?」

「きゃー、フェズルシィさまぁ!!」

 徐々に観客たちも盛り上がりを取り戻し、客席は万雷の拍手と歓声に満ちた。


「おいおい、マジかよフェズのやつ……」

 隣りのユフォンがセラを窺ってくる。

「わたし……勝てるの、かな?」

 彼女は彼には反応を見せず、苦笑いして独り言ちた。

「ははっ……さすがにこれは、僕にも励ませないな」

「おいおい、セラ。怖気づいたのか? 何なら今日中に棄権するか?」

 幼い頃から付き合いのあるズィプの方がユフォンより彼女の扱いに慣れていた。セラの負けず嫌いに火を着ける言葉をおどけながら言ってのけた。

 それは今さっきの試合を見た後の控え室の空気を完全に壊すほどわざとらしく。

「……そんなこと、しないよ」セラは静かに言う。「確かにフェズさんはすごかったけど、今までだってそうだった。強い人は異世界を探せばたくさんいる。わたしがまだまだだってことは分かってる。でも、わたしは止まってなんていられないから」

「ははっ!」

 彼女の隣で筆師が明るく笑った。

「そうそう。どうせ、殺し合いじゃないんだし、経験を積むって意味でさ、フェズはいい相手になるぜ」

「ちょっと、もう、わたし負けるって思ってるの?」

「あー……まあ、そうだな、たぶんフェズの方が強いと思うし」

「そこはもうちょっと励ましてほしかったっ」

「僕は君を応援するよ、セラ。もちろんね」

「俺のことは応援しなくても、勝つだろうって思ってるんだな、ユフォンは」

 と三人の会話に入ってきたのは空気を読まない、フェズルシィ・クロガテラー。

 彼の登場にセラが闘技場をみると、ぐったりとしたパレィジが係員を制して自力で控え室に戻ろうとしていた。

「なに言ってるんだ、フェズ! そんなこと言うと負けるように祈るぞ!」

「ほお? ユフォンの祈り程度じゃ、俺は負けないと思うけどな。それより、ユフォン、これからちょっと付き合ってくれよ。もうちょっとなんだ、あれ」

「いいや、僕はセラと一緒に帰るさ。君があれを完成させたら、彼女が不利になるからね」

「もう不利だろ、俺が相手って時点で」

「ははっ……! 行こうか、フェズ。僕の知識を貸してあげるよ」

 ユフォンは頬を引きつらせて、フェズの肩を掴んだ。そして、二人して渦巻くように歪んで、消えた。どことなく歪み方が激しかった。

「じゃ、俺も……」

「待って、ズィー」

「え?」

「剣の相手して」

 セラはズィーの肩に手を置いて、碧い花を散らしたのだった。


 こうして魔導・闘技トーナメント本戦第一回戦は終わり、勝ち進んだ八人はそれぞれの明日に備えるのだった。


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