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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第一章 碧き舞い花
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107:パレィジ対フェズルシィ

 控え室に戻ると、ユフォンとズィーが第一に彼女を迎えた。セラはコロシアムから出て行こうとするィルに、もう一度お礼を言ってから二人のもとへと向かう。

「やったね、セラ」

「マカ解いたときは降参すんのかと思ったぞ。てか、切り傷だらけって、リョスカ山かよ、それ」

「ちょっとズィー、普通に喜んでくれないの? このくらいの傷なら明日には目立たなくなってるよ。それとも、一対一で戦ったらわたしに負けるとでも思った?」

「っば! んなことねえよ。姫を守る英雄がその姫より弱いんじゃ笑いもんだろーがよ。それに、セラだって俺のが勝ったとき、外在力のこと訊いただろ」

「ははっ。どっちが強いとか関係なく、僕も二人の戦いを見てみたいなぁ」

「それはこの大会じゃ無理だな」

 三人の輪に入ってきたのはフェズだ。階段へと向かう扉の前ではパレィジも準備運動をしていた。

「優勝するのは俺だからな。ズィプ、約束守れよ、約束」

 そう言い残してクリアブルーの青年は扉に向かって行った。

「約束って何? 入場の時もそんな話してたよね?」

「ああ。フェズを連れて旅するってやつだよ。セラと一緒に旅するからそれが終わったらにしてくれって言ったんだけど、引き下がらなかったからさ。じゃあ、大会で優勝したら連れてくって約束にしたんだ。だから、あれだ、フェズが優勝したら三人ってことになるけど、構わないよな?」

「う、うん? 大丈夫だけど……大丈夫かな、フェズさんが一緒って」

『予選第十四位、パレィジ・エサヤ! 予選第二位、フェズルシィ・クロガテラー!』ニオザが二人の戦士を呼び込む。『さて! 本日最後の試合です! 最後まで目が離せないぞぉ!!』

 本日最後の試合だというのに会場は疲れを知らない。

 戦う二人がマグリアの人間ということもあるのか、フェズの美男子ぶりに女性たちが盛り上がっているからなのか、とにかく大盛況だ。

 黄色い声援を浴びる当の本人は表情を歪めているが、それでも様になっているから余計に会場は黄色くなっていく。

 そして、現に傾き始めた太陽が空気の青さを奪い去り始めている。

『両者向かい合ったところで……』

「隊長が欲しがった天才の力、見せてもらいますよ」

「見れるほど時間かかるか分からないけど」

 パレィジの言葉に、嫌味でなく心から思ったことを口に出して返すフェズ。

 副隊長と組手をした間柄のセラは、彼の肉体弱体化のマカを使えばあるいは勝つかもしれない。そう思いつつも、やはりフェズから感じる魔素の量や、見栄ではなくマスクマンと同じことができるといった彼の底知れぬ実力に、彼がどんな戦いを見せるのか期待していた。

『……はじめっ!!』

 どぅおおおおぉおん――――!

 銅鑼の音と共に、パレィジはセラと戦った時に見せた弱体化のマカの輝きをその手に灯した。

 そして、構えすら取っていないフェズの懐に入る。

「初戦ですが、あなたが相手なら全力でいきますっ!」

「ふっ」

 フェズはなんの警戒もしないで、パレィジの輝く拳を触って逸らす。

 彼の行動は副隊長からしてみれば願ってもない行動だろう。脚にも弱体化のマカを灯し、連撃に移行する。

 その全てはいなされて、徒手空拳そのものとしては失敗に見えるが、戦いとしては成功に違いない。全て、天才の体に触れている。

「警戒する必要がないですか? 僕の攻撃は」

「いや。警戒してるさ。後ろの罠とかは」

 平然と言ってのけるフェズの後ろには、その言葉を聞くまでセラでさえ気づかなかった魔素を感じる。

 視覚ではまったく判断ができないように巧妙に、小さな円陣が二人の周りの至る所に描かれていた。今も徐々に数を増やしている。

「パレィジさん、いつの間にあんな……」

「うん? どうしたんだいセラ?」

 驚きの表情を浮かべる彼女にユフォンは首を傾げる。

「パレィジさん、罠を張ってるの。フェズさんは攻撃に対応しながら、避けてるみたいだけど……そろそろ、逃げ道が、なくなる」

 パチィッ――。

 闘技場で軽い音が鳴った。

 フェズがパレィジの拳をしっかりと掴んで、二人とも動きが止まったようだった。

「ずるいな、副隊長様自身には反応しないのか」

 フェズの言葉にセラがパレィジの足下に感覚を向けると、確かに、副隊長は円陣を踏んでいた。しかし、何も起こっていない。

「どうしますか、上へ逃げてみます?」

「そうだな、それもいい。こんな、牢獄からは早く出たい」

 言うと美男子は気弱な顔の彼を離して、跳んだ。それも、軽々と。

「弱体化のマカ、相当当てたと思うんですがね……」

「あー、それは警戒してなかった」青みがかった白髪をたなびかせながら、あっけらかんと言う。

 それを黄みを帯びた茶髪が見上げて、「警邏隊副隊長として、まだまだだな、僕も」

「そう嘆くな。副隊長様は頑張ったぞ。俺に警戒させたんだからな」

「……」パレィジは天才の言葉に短く息を漏らした。「なら、上も警戒していましたか?」

 気弱な表情は勝ち誇り、悪い微笑みへと変化した。セラの知らないパレィジの顔だ。

 だが、青と赤が交差する空に舞うフェズルシィはクリアブルーの瞳を輝かせていた。とても楽しそうな顔だ。

「もちろんさ!!」

 彼の言葉と共に中空から爆発音。

 が、したのも束の間。

 爆発は第一声を発したその瞬間には殺された。

 青と赤の境界線にフェズによって掲げられる透明の球体。

 その球体の中は激しく、爆発している。

「これは、俺の外の世界への旅立ちの祝砲! 前祝いさっ!」

 爆発を内包した透明の球体は天高く放たれ、花火の如く、人々の体を震わせた。

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