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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第一章 碧き舞い花
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102:マスクマンの実力

 午後一番を任された二人の選手が入場する。

『予選二位、マスクマン! 予選十五位、フォーリス・マ・キノス!』

 そのほとんどの歓声が他都市の警邏隊員に向けられている。

 開会式の時の盛り上がりは単に強さに向けられた歓声だ。どんなに実力者であろうと素性の知れない者を応援しようとするものは皆無に等しかった。

 それを感じ取ったのか、ニオザ。『マスクマン選手! あなたはいったい誰だぁ!! ブレグ選手に次ぐその実力で、なぜ顔も名前も隠しているんだぁ? みんなあなたのことを知りたがってるぞ!!』

「そうだ、そうだ!」

「お前何もんだぁ!」

「負けたらその仮面、取りなさいよ!」

「男だろぉ! 隠すな!」

 会場が沸いたことには沸いたのだが、どれもいいものとは言えなかった。実況台で、ニオザも失敗したといったような顔をしている。

「あの人、僕の質問にも答えてくれなかったけど、悪そうには感じなかったのにな、ちょっと、かわいそうだ」

 ユフォンが呟く。それにセラが続く。

「確かに」隣りにのズィーに確認する。「予選が終わった後の話し方とか、結構丁寧だったよね?」

「ああ、王族のセラより断然丁寧だったな」

「ちょっと、ズィー!」

「ほら、始まるぞ、お姫様」

「ぁ、もぉ!」

 白い頬を膨らませながらもどこか楽しくなる彼女。細めたその目で闘技場を見下ろす。


『はじめーっ!』

 どぅおおおおぉおん――――!

「いけー、フォーリス!」

「仮面取っちゃえー!」

 試合が開始するや否や客からはフォーリスへの声援。フォーリスは試合が始まったというのに、その声援に応えて手を上げる。そして、その手を下げてマスクマンを指さす。

「お前のそのマスク、この俺が剥いでやる。悪いけど、お前はヒール役だぜ?」

「はぁ……」マスクマンは大して気にした様子もなく息を漏らす。そして、客席と対戦相手を見る。「試合ってもう、始まっているだろ? 攻撃しても?」

「おいおい、予選でブレグさんのあとに続いたからって調子に乗るなよ。俺、ウィーズラルで警邏隊やってけどさ、特務隊員なわけよ。普通の隊員とは違う任務を任されんだ、わかるか? 予選みたいな集団戦闘ってのは苦手なんだけどさぁ、俺、エリートだから、一位はとれなくても通過は当たり前。そして、俺が一番任される任務は凶悪犯との一対一の戦闘、捕縛。これ、どういう意味か分かるだろ?」

「得意分野だと?」

「そ、だから――」

「ならば、早いところ始めよう。戦いには関係ないことだ、その演説は。ほら、お客の皆も……」

 マスクマンが言うように、観客たちは未だに始まらない二人の戦いに不満を漏らし始めていた。

 舌を打つフォーリス。「待つことも出来ねえのかよ、下民どもは」と零す。

「まあいい、勝てば湧く馬鹿たちだ」と呟いてから、声を張る。「待ってろよぉ! みんな、俺があいつの化けの皮を剥いでやる!」

 落ち込んでいた歓声が息を吹き返す。

 声の波にの乗ってフォーリスが駆けだす。

「やっとか」と呟いて、小さく構えるマスクマン。

「ふぁあっ!」

 拳を輝かせて飛び掛かって来たフォーリスを、マスクマンはローブを翻しながら躱す。躱すや否や、手を相手に向けて軽く押し出す動作を見せる。

「ぶぁっ! ァぁあああああ……」

 ウィーズラルの警邏隊員は見えない力に地面へ押し付けられる。身動き一つ出来ずにもがき苦しんでいる。息をするのがやっとといった様子だ。

 観客たちが静まり返る。

 それほどの力の差が見て取れる光景だった。

「すごい……」

 セラは声を漏らした。

 超感覚にかかれば何が起きているかは明確だった。だが、分かってしまったからこそ、彼女にマスクマンという男の絶大さがはっきっりと見えてしまったのだ。

 強過ぎる――。

 なんせ、彼が今フォーリスに対して行っているのはただの魔素放出。

 一瞬に魔素を放出する衝撃波のマカとは違う、常時同じ量の魔素を出すだけのもの。炎や水に変えるわけでもなく、ただ魔素で押さえつけるだけのその技を、セラはマカと呼んでいいのか分からなかった。

 なんにせよ、ずっと魔素を放出するだけでも大変な作業だということを彼女は知っている。

 それなのに、闘技場に立つ男は今もずっと魔素を放出しているというのに疲れ一つ見えない。

「あの人、何なの?」

「確かに、ありえない。拘束するだけならまだしも、あそこまで苦しめる量の魔素を出し続けるなんて」

 セラの声に反応してパレィジ副隊長が口を開いた。

「僕もあんなマカ見たことも、聞いたこともないです」とユフォンが副隊長に賛同する。

「そうか? 俺、出来るけど?」

 と、空気を読まないのはもちろん、フェズルシィ・クロガテラーだ。

「ははっ……。ん? ってことは、あの人も魔素過多症候群か?」

「うーん……違うんじゃないかな」マスクマンから感じるマカの量はフェズには遠く及ばない。押さえているようにも感じ取れない。「マカの量はブレグさんとほとんど変わらない」

「そうですね。セラの言う通りですよ」とさらに会話に入ってきたのはオルガの額を開けたチャチだった。「計測できるエネルギー量は大き過ぎるとは言えません。普通より大きいくらいです」

「ブレグさんは……? 頭、回りそうにないな、ありゃ」とブレグを振り返りながら肩を竦めるのはズィーだ。

 父の代わりにジュメニが口を開く。「わたしも知らないな」

「おいおい、そろそろやべぇんじゃねえか? あのフォーリスって人」と言うのはポルトーだ。

「えーっと、ニオザといったか? 実況の君!」

 控え室からポルトーの声が聞こえたと言わんばかりのタイミングで、闘技場からマスクマンの声が上がった。

『は、はい。そうですが……』

 実況者と選手が受け答えをするという何とも奇妙な状況になる。

「試合は終わりだ。僕の勝ち。早く宣言した方が、彼がこれ以上苦しまずに済む」

「いや、ですが、まだ勝敗の着く状態では……フォーリス選手は苦しんではおりますが、まだ戦闘不能というわけでもないですし、降参の宣言もありません……支配人ゲルソウからも終了の判断はありません」

「それでは、僕が彼を殺して失格となってしまう。あー……」マスクマンは会場を見渡す。「いた、支配人!」

 貴賓席近く、関係者たちが集まる場所にいた禿げ頭、クラッツ・ナ・ゲルソウを見つけて声を掛けた。

 クラッツは呼ばれるや否や頷いて見せて、そのままニオザに視線を向けて、また頷いた。

『え、えー、ぇと言うことで、ここで支配人ゲルソウにより、試合の勝者が決定いたしました……。勝者、マスクマン選手! 勝者はマスクマンだぁ!!』

 無理やりにでも場を盛り上げようと張られた声に、観客たちはやっと我に返って拍手と歓声を上げた。

「っはぁあ……!!」

 マスクマンが魔素の放出をやめたようで、フォーリスはまるで水から顔を出したときのように空気を求めた。大量の汗も相まって、本当に溺れていたのではないかと勘違いしてしまう。

「すまない、もう少し早く解きたかったのだが」

 対戦相手に手を差し伸べる鉄仮面フード。だが、その手は弾かれる。

「ふざけるな……ごほぉっ……殺す気かぁあ!」

「いや、だからだな……」

「ぐほっ、っけは……っ…………」

 フォーリスは独り、逃げる様に階段に向かって行った。その姿はあまりにも滑稽で、会場に笑いが訪れる。

 その笑いの中に鉄仮面は佇むのだった。

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