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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第一章 碧き舞い花
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100:交わされる契約に近い約束

「世界内での移動はまだまだお預けのようなので、今回は当初の目的通りオルガの戦闘データ蓄積に専念しましょう。でも、来てよかったです。まさか渡界人の人と、それも『異空の賢者』の姪と会えるなんて思ってもいませんでしたから、あ、今度はそちらの番でしたね」

 欲しい情報を手に入れられる可能性が膨らんだことで、とても楽しそうに大きな目を輝かせている。そして、その輝きのままセラに笑いかける。

 セラは座標を示した装置をしまってから、

「じゃあ単刀直入に、その装置の試作品を作ったナパスの民、フェースって名前だと思うんですけど何か追えるような手がかりとかありませんか?」

「あー……」チャチの目から輝きが消える。そして、セラとは視線を合わせないように横目になる。

「あの?」セラは訝しむ。

「あー、えーっと……」チャチがオルガごと大きく頭を下げた。「すみませんっ!」

 オルガストルノーンの顔が上がる。

「わたしそのナパスの民の名前すら知りませんでした」オルガの手が鳩尾部分を擦る。「実はオルガのこれのもとになった試作品も研究所からこっそりと……」

「盗んだんですか!?」

「まあ、好奇心に勝てずに……つい。わたしも小さかったですから、偉大なドクター・クュンゼが渡界人と何か造ってたら気になりますよ」

「ドクター・クュンゼ?」

「あ! そうだ、ドクターならその人のこと分かるかもしれない。お互い様ですね。ちょうどいいですね、あなたの伯父さんから話を訊くときにでも、『動く要塞』を訪ねて来てください。博士に話を通しておきます」

「『動く要塞ジュコ』……分かりました」上手く流されたような気もしたが、セラは頷く。「じゃあ、伯父の方が先ですね」

 彼女にはチャチのいる場所を知るすべが与えられたが、セラがチャチに自分の居場所を知らせるすべを与えることはできない。つまりは、彼女がチャチを訪ねることがお互いが情報を得ようとするには必要なことだった。

「じゃあ、待ってます」

「はい、なるべく早くに」

「あ、ちゃんと自己紹介してなかったですね、改めまして、チャチ・ニーニです」

 チャチが座席から身を乗り出して小さな手を差し出す。セラはその手に小指を向ける。

「セラフィ・ヴィザ・ジルェアスです。よろしく」

 友情よりも契約の色の方が濃い握手が交わされる。それはとても小さな握手だ。

「それじゃあ、わたしはこれで」

 そうチャチが言うとオルガの額が閉じた。

「どうせなら、お昼を一緒にどうだい?」

 真面目な、二人だけの話が終わったとみて、ユフォンが筆記具をしまって口を開く。

「できたらいいのですが」姿が見えていたときと変わらない聞こえ方でチャチの声がする。そしてそれは、先程のように彼に当たりの強いものではなかった。「一緒に食べられるほど量を食べないので」

「あ~、なるほどね」と頷くユフォン。

「大会、出るからにはお互いに頑張りましょうね」とセラに向けて言うチャチ。

 セラは明るい顔で、かつ芯のある表情で強く頷いた。「もちろんです」


 チャチがカフェをあとにした後、セラはユフォンの対面に座って他愛のない話をして過ごし、胃袋の準備を待った。

 お昼時になるとマスターがちょうどよく、消化に良さそうな軽食を運んで来た。特にセラの目を引いたのは可愛く盛りつけられたデザートのパフェだった。黄みの強いバナナがメインのパフェらしい。

 彼女がパフェを観察していると、ユフォンがナイフとフォークを手にしながら口を開く。「このパフェに使われてるバナナはマカバナナって言って、体内の魔素の巡りを良くするんだ。ちなみに、あのときヒュエリさんの霊体がいたのはこのカフェだったんだよ」

「へぇ、そうだったんだ!」セラは笑みをこぼしながら驚く。そして、ナイフとフォークを持つ。「さ、食べよ」


 昼食を食べ終えた二人は少し早かったが、人で溢れる前に控え室に戻ろうと、すぐにコロシアムを目指す。

 賑やかな街の人々はセラに気付くと、

「頑張れよー」

「応援してるぞっ」

「あ、選手がいるよ」

「キレイだなぁ」

「ちょっと、あんた!」

 と声を送る。

 彼女はその一つ一つに手を振ったり、笑みを浮かべたりして返した。一世界の姫の作法といったところだ。

 コロシアムに着く頃には彼女の顔には疲れの色が見えていた。「やっぱり、跳べばよかったかも」

「そうだね、食後だったし、僕は遠慮しただろうけどね」

「ユフォンくんもまだまだですね」

 セラはヒュエリの口調を真似して見せた。これが自他共に認めるほど似ている。

「うわっ、似てるよ。ヒュエリさんそっくりだ! ははっ!」

「おおっ! オジョサン! オジョサン!!」

 二人がセラの物真似で笑い合っていると、独特の訛りがあるホワッグマーラ語が聞こえてきた。二人が声のした方を向くと、異空の行商人ラィラィが駆けてきていた。

「ラィラィさん?」

 セラとユフォンは顔を見合わせて、何やら慌てた顔で近付いてくる彼に何事かと首を傾げるのだった。

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