赤を愛した白の告白
こんな所までお呼び出しをして、ごめんなさいね。
本来なら私がお伺いしてお祝いをしなくてはいけないのですけど、今はこのように体が動かせないものだから…。
そして、死にゆく私の話を聞いていただけないかしら。
私がこの国の王族として産まれたときは、それはもう上へ下への大騒ぎだったそうよ。
もちろん、私は産まれたばかりで何も覚えてないけれど。
物心つくまで父も母も逢いに来なかったし、乳母も熱心には教育してくれなかったわね。
初めて父と母と会った時はこれが親というものかと他人のように感じたものよ。
二人もまるで私に興味ない様子だったからお互い様かしらね。
食事抜かれることもなかったし、あからさまに何かされた事もないけれど、私を見てくれる人はひとりもいなかった。
思い返せば使用人もメイドも教育係でさえ私が話しかければ嫌そうな顔をしていた事しか思い出さないから、みんなどこか嫌々だったのでしょうね。
まあ、私にはもうそれが普通だったけれど。
それがおかしいと気が付いたのは部屋の外で楽しそうな声が聞こえてきた時。
私より少し年上の女の子が同じくらいの子どもたちと一緒に遊んでいたの。
それが自分の姉だなんて、気づきもしなかったけれど。
笑い声を聞いたのも初めてだったしね。
その頃には少しお話をしてくれる教師が付いていたから、あの子が自分の姉であることを教えてもらったわ。
そして気が付いたの。
私以外のみんなが赤色の髪をしていることに。
父母はもちろん、姉も、使用人も、メイドも、庭師さえ。
ああ、だから私は嫌われているのだと、やっと気が付いたのよ。
遅いわよね。自分でもそう思うわ。
それからは今まで以上に身を隠すように行動したわ。
必要最低限しか話をしない。部屋から出ない。
そして人にも会わない。父にも母にも姉にも、弟にも。
体裁の為に騎士を付けてくれたけど…彼もせっかく黒に近い色合いといえど赤であるのに私のそばにいることで黒が目立ってしまって…ああ、彼の話をしているのではなかった。
でも彼には、私のたった一人の騎士には、今も昔も感謝しかないの。
私の傍には優しい騎士がひとりだけだった。
そう、愛しい人に出会うまでは。
小さなころからずっと、様々な赤色に囲まれてきたけれど、神子の赤というのは本当に綺麗だったのよ。
思わず見入ってしまうほどに。
あの場が戦場でなければずっと見ていたかった。
彼から大事な話を聞いたのはそれからずっと後。
今までの神子の記憶を全て引き継いでいると、彼は言ったの。
この事が王に知られたら、どんな事をされるかわからない。
それでも、彼は私に打ち明けた。
私を愛していたから?いいえ、違うわ。だって彼は私を愛してはいなかった。
男の人というのは嘘のつけない生き物ね。懸命に隠しているようだったけれど、隠せてなかった。
けれど、愛されないと分かっていても愛してしまえば離れられない女は、馬鹿な生き物だわ。
じゃあ何故愛していもいない女に、しかも憎むべき王族に、大事なことを打ち明けたのか。
それはとても簡単な理由。
私が、白の神子だから。
私が自分で気が付いたわけじゃない。私には前世の記憶なんてないもの。
愛しい人に教えてもらって、初めて知ったのよ。
驚いたけれど、不思議と信じられたの。
この人の言っていることは本当だって。
自分でも何故か分からないのだけれど、本当だって分かったの。
これも、神子だからかしらね。
あの人は、この牢獄から出たいと言った。
一人では失敗に終わってきたけれど、私がいれば、神子が二人いれば出来るのだと。
とてもとても悲しそうに、辛そうに、泣きそうになりながら切々と訴えていた。
愛しい人のお願いだもの。
必ず叶えると誓ったわ。
あの人は苦しそうにありがとうと言った。
立太子となられるあなたはきっと、祖先は偶然結晶を見つけたのだと聞いたのではない?
それは間違い。
赤の神子が愛した人から無理矢理奪って、自分のものだと言い張ったのよ。
信じられないという顔ね。
でも、それが真実。
だからこそ赤の神子はこの国を恨んでいる。憎んでいる。
愛されているなんて狂言をよく言えたものだわ。
それから慎重に慎重を重ねて私たちは計画を立てた。
まずは、赤い結晶をもう一つ準備する。
それに私が力を加えて壊せば、城の何処にあろうとも、結晶を破壊することができる。
自分で自分の力を壊すことは出来なくても、他の神子の力ならばそれができる。
ならばすぐに破壊すれば良いという訳でもなかった。
すぐに破壊しても、また作れと脅されるだけ。
今までだって、散々裏切られ、脅され、嵌められ、赤の神子から搾り取ってきた国だもの。
それくらいで諦めるなんて信じられなかった。
そこでもうひとつの準備。
子を作ること。
まだ魂の定まっていない腹の子に次の神子を引き継がせて、外に逃がしてから壊すことにした。
あの人が逃げられれば良かったのだけれど、あの人には何重もの監視が付いていたから。
この国に気づかれないように、逃がすことをしなければいけない。
そして、あの子が誕生した。
何色にも染まっていない、空の器。
本来ならば今の神子が神元に還られてから戻ってくるのだから、神子が還る前に次の神子が生まれることはない。
だからあの子が次の神子であるなど、誰も考えなかった。
白い髪だという事で、まずこの国から、王族から見放される。
準備が整い、全ての力を使ったあの人は一度還り、空の器に戻ってきた。
その後も、私の力とあの人の力で、ずっとずっと隠し通した。
そんなことが出来るのかという顔ですね。
出来るのですよ。神子、ですから。
そして今、牢獄の出口にあの子を向かわせることが出来た。
一度出てしまえばあの子は二度と此処へは近づかない。
やっとあの子はあの子の人生を歩めるのです。
捕まえに行っても無駄ですよ。
自分を取り戻したら全力で逃げるように言い含めてあります。
あの子が生きている間に結晶を破壊し、その力の残像さえも無くなる。
そして、これが、私とあの人の最後の呪い。
綺麗な色の結晶でしょう?
あの人から私への最後の贈り物。
これを使えば、結晶がどこにあろうとも、私の力で壊すことが出来る。
まだ信じていない顔ですね。
すぐにわかる。
ああ、愛しい人よ。
愛しの我が子よ。
これで漸く、同じ赤になれる。




