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赤の国の話  作者: 再遊
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赤の王子

何色にも染まっていない真っ白な髪。

其処だけ浮き出たかのような真紅の瞳。


初めて会った従姉妹はまさに「人形」だった。


初めて会ったのは幼少の時。

遊び相手にとやってきた二つ下の従姉妹は笑いもせずに挨拶文を淡々と口にする。

最初から従姉妹が気に食わなかった俺は口を開く事もしなかった。

向こうも挨拶をしたらやることはやったとでもいうようにこちらを見ようともしない。

周りの使用人が気を使ってあれやこれやと話題になりそうなおもちゃや本を持ってきたが、仲良くなど出来ない。


「おまえ、きらいだ」

「そうですか」


別れ際に交わした言葉がこれだけ。

それからは母上が主催するサロンに伯母上と一緒に来ている時に会うくらいになった。

いつも変わらない表情にイラつき、様々な事をしてきた。


虫や蛇を捕まえて見せても怖がらない。

悪口を言っても怒らない。

理不尽な事にも感情を表さない。

ただ、伯母上や亡くなった神子の悪口を言う時だけその瞳がこちらを見た。

やっと俺を見たことに俺は気をよくしていた。

それ以来、大人たちの見ていない所で嘲り、年の近い者は男も女も彼女に近づかせないようにした。

一人ぼっちなら他の奴は映らない。


「お前はあの子の事をどうおもっているのだ」と父に言われたがどうも何も「人形」に何か思うわけがない。

俺はあいつが嫌いだから、一人にしているのだ。

一人で、ずっと一人で、俺の人形でいればいい。

そう答えてれば「ほどほどにな」とため息をつかれた。


それからもことあるごとに「死んでしまった役立たずの神子」と「王族なのに白色の厄介者」の話をした。

窘められることもあったが、やめることはない。

「人形」に何をしたって「人形」なのだ。

何をしたって変わらない。


数年後、立太子の礼をすると決まったその日、父に呼び出された。

そして昔話を語られた。



遠い遠い昔。

赤の神子が一人の唯人と恋に落ちた。

さまざま苦難を乗り越え、結ばれた二人。

その二人がこの国を作った。


次に戻ってくるときも、必ず愛する人の傍に帰ってきます。


神子が神元へ還るとき、そう言って一つの赤い結晶を残していった。

そうして、この国は赤の神子に愛される国となった。



それはこの国に住んでいるものならだれでも知っている話。

市井ではおとぎ話のように語られている。

だが、この話が真実だと自分が知っているのは城の地下の奥深く、その赤い結晶があるから。

めったに人が近づける場所ではないため、一度しか見たことはない。

大事な話だというから、その場所へ行けるようになるのだと思っていたが違ったらしい。

今更、なんでこんな話を。

そう思ったのが顔に出ていたのだろう。

ここからが本題だと父は言う。


赤の結晶。

それを昔の神子が残したものであるのは本当だ。

だが、我らの祖先に残したのではなく、我らの祖先は誰か知らぬ者に残したそれを発見しただけなのだという。

結晶を見つけた祖先は、その力を受けここまで国を大きくしたのだと。


何代か前の神子はそれまでの神子の記憶を継承しており、この国から解き放してほしいと訴えたが、そんなことを許すわけがない。

その神子は生涯幽閉された。

それから数代、今度は記憶をひた隠しにしていた神子が結晶さえ壊せば解放されると安置場所を探っていたが、望み叶わず辿りつけなかった。

その神子はこの身まで囚われたくないと自ら命を絶った。


この国は赤の神子に愛されてなどいない。

この国が赤の神子を縛っているだけなのだ。


神子に愛されていると信じている国民がただ神子を閉じ込めているだけだと知れば暴動どころではない。

神子を敬愛している他国にも非難を受ける事だろう。

これは、王になる者だけに伝えられる真実なのだ。


父を信じていないわけではない。

だが、どこか真実味が無いように感じてしまうのは、現在神子がこの国にいないからだろうか。

神子が戻ってくる時期は数か月の事もあれば数年かかった事もあるらしく、時期は分かるものではない。

今は次の神子を待つしかなかった。


数日後、従姉妹が隣国へ行く事になった。

隣国とは繋がりが深い為、立太子の礼の招待状を届けるのだ。

隣国の王は白の戦姫である伯母上を気に入っているため、その子供である従姉妹が行く事になったのだ。

親子で好みも似るのか、隣国の王太子は従姉妹を気に入っている。

俺は従姉妹に「隣国でちやほやされても白色が驕るなよ」とくぎを刺しておいた。

相変わらず「人形」はなんの反応も返さなかったが。


従姉妹が出立した後に伯母上に呼ばれた。

病床にある伯母上は寝台の上で白い顔をさらに白くしていた。

もうそれだけで長くないと思えた。


伯母上は父の話よりもさらに信じられぬ話を語った。

伯母上の話を疑う俺を見て伯母上は満足そうに笑った。


「すぐにわかる」


そう言って、、胸元に付けていた赤いペンダントを取り出した。

おそらく先代の神子に貰ったものなのだろう。

ペンダントに口づけをし、額にかざす。


「これで、やっと貴方と同じ赤になれる」


それが最後の言葉であった。

額が弾け、白は赤となった。

俺は白が赤に染まるのを見ていることしかできなかった。

黒の騎士に問い詰められられ、力任せに締め上げられたが俺は何も答えなかった。


城に戻ると父に呼び出された。

父の顔は憔悴しきっており、伯母上の話と相まって嫌な予感がした。

従姉妹が辺境の地で反乱軍に巻き込まれ、遺体が見つからないこと。

そして、赤の結晶が誰も触れていないのに、粉々に砕け散ったこと。

その話を聞いて確信をした。伯母上の話こそ『真実』だったのだ。


父に伯母上の語った『真実』を話す。

声が終始震えていたように思う。

『真実』を聞き、父は顔をどんどん白くしていった。

にわかに信じられない話は、まごうかたなき事実なのだ。


これから、この国に神子が生まれることはない。

この国から神子は飛び去ったのだ。

その事実を国民に知られるわけにはいかない。


遺体の見つからぬ従姉妹。

伯母上の話が真実であるならば、従姉妹は生きているはずだ。


必ず、見つけ出す。

あの人形は俺のものだ。

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