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赤の国の話  作者: 再遊
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白に仕えた騎士の話

赤の神子に愛されている国。

火の国と呼ばれるほどに赤を敬い、赤が尊ばれている国である。


その国で子爵家の三男という立場で、腕っぷしだけはあって兄たちには馬鹿だ阿呆だと言われながらも、功績をあげて騎士となり、王族の二の姫様の護衛となった。

二の姫はこの国では珍しい白の髪をしていた。

日に透ける様は銀色にも見え、姫様の容貌に合う髪色であった。

この国の外に出ればどの色であっても珍しくはない。

しかし、この国は赤の国。これ見よがしの差別はなくとも人の目は嘲り、笑いを含まれる。

俺が二の姫の騎士に充てられたのには理由がある。

俺の髪色は辛うじて赤が含まれるものの、黒に近い赤黒だったからだ。

それでも俺の腕を知っているものは「あんな出来そこないよりこちらへ来い」と勧誘をした愚者もいたが。

髪色の事では己も散々な思いをしてきたこともあって、俺は二の姫様の騎士であることを疎んだことは無い。

それに、姫様は仕えるに足る主であった。


「あなたが離れたいときにはすぐにゆってね」


齢7歳の姫様が10以上離れた騎士にいう言葉にしては大人びていた。



そんな姫様が才気を現したのは、戦場であった。

蔑まされ、家族にも無いもののように扱われていた姫に才があるなど、誰が考えただろうか。


乱が起きたとき、戦前へ行ける王族が居なかった。

王が乗り込むような大げさなものではない。

一の姫はもう友好国へ嫁いでおり、末っ子の王子は初陣にはまだ早い。

しかし、その戦には今代の神子が自ら出陣しているという。

神子が行っているのに王族が行かないのは国民へ不満をもたらす。

そこで、15になっていた二の姫に白羽の矢が立った。

姫であることから、戦場へ赴くのは如何なものかと声も上がったが、姫以外に適当な王族はいなかった。


「たまには役立たないといけないわよね」


と、姫様は気にした風もなく、どちらかと言えば進んで戦場へ赴く事となった。


たどり着いた戦場は、聞いていたよりも深刻な状況であった。

神子と指揮をとる将軍と顔を合わせた時には戦場は緊迫していた。

18とまだ年若い神子も俺と同等の年代の将軍が姫様に向かって難しい顔をしていた。


“魔”が現れたらしい。


“魔”は多くのことが解明されていないが、大小問わず生き物に憑りつく“何か”である。

そして、人に憑りついた“魔”は簡単に倒せない。

取りつかれた人を殺したとしても死体のままで動くこともあるのだ。

しかも『魔』に憑りつかれた人間にまとう力はただの剣では傷を付けれない。


「憑りつかれたのは反乱を起こした主犯だとは…」


姫様は眉を顰め、悲しそうに呟いた。

もしかしたら、主犯は反乱など考えもしていなかった人物なのかもしれない。

姫様は、同じように暗い顔をしている神子と将軍を見据えた。


「わたくしなら、“魔”を抑えられるかもしれません」


神子と俺と将軍の前で姫様はそう言った。

何を、と言おうとしていたようだが、神子と将軍はすぐに納得をしていた。


「姫様の髪色ならば、可能やもしれませぬな」


将軍がそう言った。


「…白…ですか」


神子が呟く。


赤は火の力

青は水の力

緑は風の力

黄は地の力

紫は重の力

白は光の力

黒は闇の力


その中で光の力である白ならば、祓えるかもしれない。


「しかし、姫様はその力を使ったことがあるのですか?」


神子がたずねる。

その疑問はもっともだ。髪色があっていても使える使えないは別の話だ。


「…私との手合せにて使われております」


その質問には俺が答えた。

黒に近い赤。それが俺の色。

俺には白とは反対の黒、闇の力が使えた。

あるものをいざと言うとき使えないのは嫌だと姫様に強請られ、お相手をしていた。


「白に黒、似合いの主従ですな」


嫌みかと思ったが、そう言った将軍の顔は楽しそうに笑っていた。



神子と俺とで抑え込み、姫様が力をぶつける。

結果は、上手くいったと言って良いのだろう。

姫様の力が強すぎて、憑りつかれた主犯は廃人となってしまったが。


姫様は泣きそうな顔で泣かなかった。


「精進あるのみ…ですね」


そう、俺に微笑んだ。


戦のあと、姫様の功績を神子が讃えたことにより、姫様は日陰から表へと出てくることとなった。

その後も何度か戦に駆り出され、光の力を使うようになった。


姫様はいつしか戦姫などと呼ばれていた。

そばで仕える俺も黒の騎士などと呼ばれるようになっていた。


鮮やかな赤の隣に立つ白銀は人々から憧れられるようになるもの早かった。

赤以外に興味の無かった国が赤以外にも目を向け始めた切っ掛けとなった。


そんな日々の中で、姫様と神子が結ばれるのは自然だったのだろう。

神子はとても穏やかな性格で、姫様とも仲睦まじい様子だった。

人々から祝福された結婚だった。


のちに二人の間には子が生まれた。

神子と姫様の子は、真っ白な髪の子供だった。

落胆した者もいたが、とても可愛らしい子だった。


子どもが生まれた年に、魔獣が出たと出陣した神子が崖から落ちたと知らせが来た。

すぐに向かおうとした俺に姫様は子を抱きながら言った。


「よいのです」


何がよいものか!

子が生まれたばかりなのに、やっと、姫様の幸せはまだ、これからなのに。


「…よいのです。ありがとう」


何かを決意するように、私に微笑んだ。

そこへ、土砂と一緒に落ちて行った者たちは遺体を見つけるのは困難であると、知らせが入った。

結局神子の遺体は見つかることはなかった。


それから数年。真っ白な髪の赤子は、真っ白な髪の少女へと成長した。


小さなころから表情の少ない子供だったが、赤子のころから傍にいた俺には懐いてくれて「ちぃ姫」と呼んでいた。


感情の起伏も少なく、姫様や乳母や俺の言う事は素直に聞くため、周りからは「人形姫」などと呼ばれていた。


姫様の功績があり、神子の遺児であることから、不当な扱いを受けることは無かったが。

王位を継いだ姫様の弟の子ども、ちぃ姫にとっては従兄弟あたる王子は何かと突っかかってきていたが。


「あれは、初恋のアレでしょう」


と姫様は笑っていたが、その瞳は笑っていなかった。


ちぃ姫が12の年に姫様が病魔に侵された。

さらに床に伏した半年後、ちぃ姫が隣国へ赴く事になった。

名代として行くという。

せっかくちぃ姫の13の祝いの日だというのに。


「お仕事だし、母様も行けと言ったから」


そう言ってちぃ姫は出発した。

いつもどおり、感情の無い表情であった。

付いて行こうと思ったが、姫様に止められた。


「あの子も大人になったわ」


病床の姫様も心配だったので、ちぃ姫には俺の弟子を付けることにした。

早馬が来たときは頭の中で警鐘が鳴り響いていた。

ちぃ姫が、反乱に巻き込まれ、滞在していた屋敷に火が放たれた。

ちぃ姫は見当たらず、弟子も重傷だという。


姫様の部屋へ駆け込んだ。

王子が見舞いに来ていたが、気にしてられなかった。


そこには血まみれの姫様と茫然とする王子が居た。


姫様に縋り付いたが、真っ赤に濡れる白銀が姫様の死を物語っている。

しかし、その顔は微笑んでいた。

満足だと言うように。


そこからは記憶がおぼろげだった。


王子を問い詰めたように思う。


何も答えな奴を怒鳴り散らしたように思う。


気が付いたら寝台で拘束されていた。

これまでの功績と一度に起こった悲劇に温情がだされ、処罰はされなかった。



姫様とちぃ姫のいない国に未練もない。


国を捨て、旅をしよう。


姫様は言っていた。

もっといろんな国を見てみたいと。

ちぃ姫も言っていた。

母様以外の同じ髪色の人に会ってみたいと。


死ねれば一番いいのだが、自ら命を投げ出すことは姫様に止められている。

できることなら旅先で死に場所が見つかるといい。





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