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エイフリルプール

作者: とむやん

●本日四月になりました。

 世間は現在四月馬鹿というわけです。


●僕が初めて経験した四月馬鹿は、

 小学2年の春休みに同級生からもらったラブレターでした。

 書くとかなりの割合で相手がバレるので、避けてたんですが、もう時効だね。

 実は書いてみて気づいたけど、全然たいしたことない内容だしね。


●相手の子はわりと近くに住んでいて、子ども会行事の際によく同じグループにいたので

 顔や名前は知っていたんですが、小2のときに同じクラスになって、

 一緒に学級委員になったり、席替えで3連続で同じ班になったりと

 縁があるなぁと感じていました。

 ただ、当時僕にはすごく可愛い本命の子がいたので、

 その子のことは気にも留めていませんでしたが、

 実はなかなか人気があったらしく、

 僕自身は中学に上がってから、その可愛さと人気に気づいて驚いたものでした。


●本命がいるからと言って、ラブレターをもらってうれしくないか、

 なんてのはまったく別の話で、

 春の子ども会行事の帰り際に突き出された手紙を

 家に帰るやいなや開けて見て、いくつかの、今でも印象深い言葉の後、

 最後の行に「エイプリルフールやけんね!」と書かれていて、

 そこで四月馬鹿と初対面。

 けど僕はその単語の意味がわからなくて、

 「アイラブユーみたいなもんやろ!」と

 全力でポジティブに受け止めていました。


●家族に手紙をもらったことを報告したところ、

 四月馬鹿に疎い母や、単に人の良い姉が「良かったね!」と

 喜んだりからかったりしてくる中、

 当時中学1年で思春期まっただ中だった兄が

 憎憎しげに「見せてみろいや」と手紙を奪おうとしたので、

 いいぜ?本物だぜ?と差し出したところ、

 はじめは「ふーん」と悔しそうだった兄が、最後のところで

 「これ!エイプリルフールって書いてあるやん!笑笑」爆笑。

 「え、エイフリルプールがどうかしたん…?」

 それから僕は、「エイフリルプール」でなく「エイプリルフール」であること、

 そしてその意味を知ることとなりました。


●勘違いした恥ずかしさ、そしてエイプリルフールという

 単語を知らなかった恥ずかしさというか、

 成績良く頭いいキャラで通ってた僕のプライドがいたく傷ついて、

 残りの春休みは暗たんたる気持ちで過ごしたのでした。

 友だちにも話すことなく。ただ、たまに今までまったく触れなかった彼女の話題を

 突然「そういやアイツんちこの辺やん?ピンポンダッシュしに行こうか?笑」

 と出してみては、

 「何、急に~?別に行かんし」

 「ギャグやけ!俺も行かんし」とかなったりしてました。


●そうして春休みが明け、3年に進級したとき、

 僕と彼女はクラスが別れていました。と言っても隣のクラス。

 僕は何か一言言ってやらないと気がすまない精神状態になっていて、

 でも周囲に人がいると恥ずかしいので時間を見計らって、

 下校時に下駄箱にて

 「エイプリルフールくらい知っちょるわ!」

 と、(ラブレターの内容はまったく気にしてないぜ、

 なぜなら俺はエイプリルフールという言葉を知っているんだぜ)という

 気持ちでフフンと言ってやったら、

 「あ!…そうよ!あれ…エイプリルフールやけんね!」


●当時は気づかなかったけど、妙な間があった。

 いや、気づいてはいて、違和感が残っていた。

 後から思えば、あの間はきっと、彼女の本当の気持ちが生み出したんじゃないかと。

 当時は、ラブレターをもらったことで急激にその子のことが気になり、

 その手紙がウソだったと分かってからも、自分の気持ちが冷めないことが

 (つまり、相手は別に自分を好きでもなんでもないのに、

 なぜか僕の方が相手のことを好きになりかけてしまっていたことが)

 すごく悔しくて、

 「彼女の本当の本当は、どうだったのか?」なんて考えもしませんでした。

 

 それが「実は本当の本当は…」と思うようになったのは大分後で、

 中学2年で再び同じクラスになって、

 また縁があったのか、同じ図書委員になった直後、

 図書室からの帰りに渡り廊下にて

 「あのときはごめんね!」と謝られてからでした。

 というか、小学3年に進級してクラスが別れて以来

 話すこともなくなったんで、

 僕は本命の子に戻ってすっかりその子を忘れてたんですが。

 (思い出すと悔しいだけだったので。)


●「あのときはごめんね!」が、僕の記憶を呼び覚まして、

 時間も経ち、思春期に入り以前よりは敏感になった僕の

 感受性で振り返ってみると、

 あぁ、そういえばあのとき妙な間があったな…と、

 それって何だったんだろうな、本当の本当は…と、

 そういえばこの子、実は可愛いよな、人気もあるし…と、

 縁があるよな…と、

 もしかして、ちょっと認識がずれてたのか?

 「エイプリルフール」を間違って、

 「エイフリルプール」って読んだくらいの微妙なずれがあったのか?

 (ものすごく変な例えだけど、自分ではしっくりきていた。)

 もしかして、それは今でも?

 と思わず期待せずにはいられなく、

 

●ちなみにそのとき、小学生時代に本命だった子は

 「小学6年間1度も同じクラスにならなかった」という

 絶望的な環境要因によって鳴かず飛ばずで終わったので、

 すっかり別の子が本命になってたんですが、

 まぁ、ちょっと心が揺れてみたり、揺らされてみたり、

 図書委員を頑張ってみたり、

 家の方向が同じなので、偶然一緒に帰ってみたりと、

 まったく誰にもばれることがないまま、

 そして誰かにばれたら困ることも特にないまま、

 僕は2年の半ばで図書委員長になったけど

 彼女は1期だけで委員を交代し、

 中学3年でクラスが別れ、

 高校が別れ、

 去年の同窓会で会ったときには、奥さんになってましたとさ。


●まぁ、僕が図書委員長になったこと以外はみんなウソですけどね。

 まったく世間は四月馬鹿。



(おしまい)


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