洞窟
すいません。携帯で書くとスペースが入らないみたいで……。暇があったらパソコンの方でスペースあけます。それと、グロ描写ありです。次話の前書きには今回の話のあらすじいれるので、グロ耐性が無い方はお読みにならない方がいいかもです。
≪大幅改定しました。最初からお読みください≫
パチリ、パチリという音がする。目を開けると、ゴツゴツした岩の天井が見えた。音のする方向に目だけやると、焚き火がある。濡れていたスウェットは脱がされていて、身体にはあんまり質がよくなさそうな毛皮がかけられてる。間違いなくカシミア0パーセント。スウェットは焚き火の近くに無造作に投げ捨てられていた。あのスウェット高かったんだが……。いや、状況を考えるに助けて貰ったんだろうし文句なんて言えないし、言うつもりもないんだけどさ。
「起きたかね?」
しわがれた、低い声がする。洞窟の奥から出てきたのは黒いローブを着た老婆であった。着ている大きめのローブから出た手はよぼよぼで、握っている杖と同じ位の細さであった。だが、背ははりがねの様に真っ直ぐで、目は鋭く年を感じさせない。鼻は鷲鼻でローブと合わさってまるで童話に出てくる魔女の様な雰囲気を醸し出している。
「死ぬところだったね。あのまま放置していればまず間違いなくあんたは死んでた。この雪原をあんな服装で歩くなんざ、オグラか自殺志願者くらいのもんさ」
まぁ、もしかしたら死んでいた方が楽だったかもしれないがね。老婆はそんな風に続けた。
オグラ……?初めてきく言葉で気にはかかったが、その後のセリフが今は俺の関心を釘付けにしていた。
「ありがとうございました。だけど、死んでた方が楽ってのはいったい……」
どういうことですか?
そう続けながら上体を起こそうとして、気づいた。
右手が動かない。
瞬間、思考が凍りついた。
……右手の感覚がない。
「見な。」
近づいてきていた老婆が身体にかけられていた毛皮をあげる。出てきたのは肩から先が真っ黒に変色した右手だ。紫を超えた、どす黒い黒。表面には水泡の様な物がいくつも浮き出ており、気色が悪い。今まで地面に接していた部分にいたってはから水泡が弾けたのか、粘性の液体にまみれていた。
直視したくない。心臓がドクドク言っている。身体が震え、小便が漏れそうになるほどの恐怖に襲われた。こんな色の肌を日常で見たことなんて一度もない。それでも、一目みてこの右手が元通りになるなんてとても思えなかった。
「この吹雪の中、長時間さらされた後にオグラの氷結魔法をくらったんだろうね。この右手はもうダメだね」
ぐらぁ、と視界が歪む。思わずショックで倒れそうになるがなんとか左手を踏ん張って耐える。
「そんな……。俺がみた時はここまでじゃなかったのに……。」
「ただの雪や氷と違って、オグラの氷結魔法は骨までを凍てつかせる。あの場で手当を施していたらまた襲われる恐れがあったからね。ここに運んで来てから手当をするまでの時間を考えれば、悪化はするだろうね」
喉から絞り出す様にして、ようやく声を出した。
「なんとか、なんとかならないんですか!?」
「無理さね、生きている部分なら治療できる。でも、その手は死んでんだ。諦めて、切り落とすのを勧めるがね」
無情とも言える返答が洞窟に響く。その内容を理解すると、思わず声を荒げた。
「まっ、待ってくれよ!!切り落とすって……」
「じゃあなにかい?あんたは動きもしないただの重りを右肩につけながら生活するのかい?まぁ、それもいいがしばらくしたら壊死の範囲が広がるかもしれないし、そうでなくても腐り落ちていくがね」
ウソだろ。いきなりわけもわからず、雪原にたってて。出会ったやつは化け物で、魔法を打ってきて。気づいたらしわくちゃ婆さんに右腕壊死を宣告される。ああ、もうわかんない。なにもわかんない。夢だって思えたらどんなに楽だろう。でも、洞窟のひんやりとした地面、ガサガサしたシーツ、感覚のない右腕が訴えてくる。
これは現実なんだと。
「……その様子だと、自殺志願者ってわけじゃないみたいだね。自殺志願者にやる慈悲も銭もないが、遭難者なら話は違う」
老婆がおれに語りかけてくる。
「あんたに腕をやってもいいよ」
……どういうことだ。腕をやってもいい?思わず、老婆の腕を見る。
「あたしのじゃないよっ!!」
自分の身体の後ろに右腕を隠す老婆。こんな状況にもかかわらず、思わずほっとしてしまう自分がうらめしい。
「じゃあ、その、貰える腕とはなんでしょうか?」
「義手だよ、義手。ただし、ただの義手じゃない。なれれば自分の腕、いやそれ以上に動かすことが出来るようになるさね。そんな素晴らしい腕をくれてやろうっていってんのさ」
「……条件はなんだ?そんなに素晴らしい腕なんだ。ただってわけじゃないんだろう?」
わざわざ自分の提示したもののメリットだけを述べてるんだ。自分が与えられる『腕』の価値を上げることによって、俺から多くを引き出そうとしてるんだろう。
「おや、意外に冷静じゃないか。もっと喰いつくと思ったんだがねぇ。なに、大したもんじゃないさ。あたしはこう見えても年寄でね。小間使いでも雇おうかと思ってたんさ。期限はあたしの気が済むまでってところだね」
こう見えてもっていうか、どう見ても年寄なんだが。まあ、それはおいておくとしても。
「期限がわからないのはさすがに不安です。最長で十年、俺の働きによってはそれより短くなっていくってのはどうですか?」
「だめだね。お前は命の恩人から腕までもらってて、十年以下の歳月で済むと思ってんのかね?それに、あたしより弱いのに働きによっては?笑っちまうさね。条件は変えないよ。それが嫌なら腕はやらない。ここにはいてもいいが、衣食は保障しないよ」
義手の価値がわからないから言ってみたが、この反応だとそれぐらいの価値はあるのかもしれない。命の恩人なのは確かだし、下種な考えだがこの婆さんは見る限り相当な年だ。下手すると十年とは言わず、五年ほどで寿命がくるかもしれない。
「わかりました。その条件でお願いします。」
俺はまだ動きにくい身体をひきずり、老婆の方に姿勢を正した。
「それと、なにからなにまでありがとうございます。本当に感謝しています。仮にすぐ解放されても、このご恩は忘れません」
これは本心だ。必ずこの借りは返させてもらおう。
「ふん。いいさね。精々、一生懸命働くことだね。じゃあ、さっそく腕をつけるとしようか?」
「はい。ですが、ここには設備とかはないようですが、どのようにしてつけるんでしょうか?」
そう、ここはあくまで洞窟。設備がないどころか、衛生環境すらしっかりしていないのだ。さっそくとは言うが、いったいどうやって。
老婆は立って近づきながらこう言った。
「安心しな。催眠魔法で眠らせるし、麻痺もしてやるさね。起きたらあんたの右腕はついているよ」
「ちょっ!まだ心の準備が……」
「あんしんしな。いつまで待っても右腕を切り落とす準備なんてできないさね。≪ソムヌス≫」
老婆がこちらに右腕を向けたのが、俺が眠りに落ちる前に最後に見た光景だった。